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2019.10.07

経営とテクノロジー

「不便」がビジネスに! 地方の可能性を考える
ナレッジネットワーク代表 森戸裕一さんインタビュー<後篇>

地方創生やベンチャー企業の新規事業開発などの支援に日々奔走する、ナレッジネットワーク代表の森戸裕一さん。後篇では、地方の大学生に地元で就職してもらう秘策、地方の移住・定住における諸問題、パラレルキャリアやシェアリングエコノミーの未来についてテクノロジーの視点を交えながらお話いただきました。

大学生がやりたいと思える仕事を創出するために、産業をアップデートする

── 森戸さんは名古屋大学の客員教授や通信制のサイバー大学の教授として、学生指導にあたる一方、15年以上も前にNPO法人学生ネットワークWANを設立して、ベンチャー企業向けインターンシップのコーディネイトなど、大学生のキャリア育成支援活動を続けておられますね。

森戸裕一(以下、森戸) そもそも「雇う」という定義自体がこれからずいぶん変わってくるのではないかと思うのです。最新のテクノロジーにより世の中のルールが大きく変わってくる中で、これまでの事例やケースというのはほとんど参考にならない。しかし、雇用や働くということの変化のポイントを語り、その流れからデジタルトランスフォーメーション(DX)の必然性を話してくれる人があまり見当たらないのです。そこで自らがその役目を買って出て、高校生や大学生の混乱や悩みを整理整頓し、「自分はどう進むのかキャリアを考えた方がよい」と伝えているというわけです。

 戦後復興のころは声が大きくて勇気のある、長男みたいな人がリーダーでした。いま求められているリーダーシップはフォロワーシップに近い。「多様性を認め、いろんな人の意見を聞いて決断する」というような新しいリーダーシップを発揮してくれる人を、地方や中小企業が後継者として迎え入れたいというのであれば、大学の教員としてはそういうタイプの子たちをどんどんつくっていく必要があります。

 地方の大学生はシビアですよ(笑)。「地元の会社に興味がありますか」「中小企業に興味がありますか」というアンケートを書かせると、半分は「興味ある」に丸をつける。でも、地元の会社説明会は閑古鳥が鳴いています。彼らは丸をつけるけれど、実のところまったく興味がないんです。そして「地元に帰っても仕事がない」という言い方をする。ハローワークに行けば求人はたくさんあるけど、大学生にとって「やりたい仕事」がないということなんですよね。

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 では、地方はどうすればいいのか。大学生がやりたいと思える仕事を創出するために、産業をアップデートすればいいのです。地元の建設業、製造業、農業をアップデートして、最新テクノロジーを入れれば、新規の雇用が生まれるでしょう。

 例えば農業。これまでどおりの方法では熱中症になってしまうから、ドローンを使って農薬散布したり、水温や肥料はすべてセンサーで調査したりして、涼しい場所で農業をできる環境を整えればいいのです。そうすれば大学生をはじめとする若年層も自分たちが活きると感じ興味をもつ確率はあがるでしょう。いま、そういうことを自治体に推奨しています。

── 確かにそうしないと人も採用できないし、地方自体が衰退していきます。

森戸 そうなんです。とはいえ、「移住・定住」と言い過ぎるのは、いまは問題だろうとも思います。

 大学生はともかく、東京にすでに生活基盤がある人が、いきなりそれを投げ出して地方には来られません。ただ、「1日のうち数時間、1カ月のうちの数日、地方のために能力を貸してくれませんか?」というのであれば、テレビ会議などを駆使して充分参加ができます。最初はそのようなソフトランディングで多拠点生活をスタートし、最終的に定年退職してからどこに移住するかを決めるという考え方で充分なのではないかと思うんですね。東京の人と地方の人がつながることを国は「関係人口」と命名しましたが、ITのインフラを使わない、アナログの環境での「移住・定住」「企業誘致」では、東京の人や企業は対応しづらいんです。

 福岡にやってきて事業を始めたり就職したりする人たちが求めているのは、収入よりも仕事の質、とよく聞きます。東京と福岡とでは物価が違うのだから、東京と同等の給料は必要ない。でも「仕事の質は落としたくない」とみんな言うんです。「東京で築いたキャリアを活かしたい。地方でそれが活かされないなら東京にいたい」というのは自然な気持ちですよね。であれば簡単な話で、彼らのキャリアを捨てなくてよい環境を地方がつくればいいんです。そこが多拠点生活のヒントにもなるのではないかと。

 日本は生産年齢人口がどんどん減っているので、2030年には時給が2,000円を超える、つまり2,000円を超えないと人が採用できないと言われています。そうなると企業経営の根本を変えないと難しいでしょうし、そもそも時給換算自体に無理が生じるかもしれない。時間を提供してお金をもらうという働き方ではなく、価値を提供し、その上で自分の満足度をどこまで高めるかという働き方を考える時期に来ているのです。

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誰もがパソコン1台あればクリエイティブなことができる時代になる

── 「人工知能(AI)が人間の仕事を奪う」のではなく、逆に「人間らしい仕事は何か」を考えられる時代が来たと思えば、未来は明るいですね。

森戸 講演で「テクノロジーを使ってもっと楽していいんですよ」とわざと言うんです。まだまだ「仕事で楽するなんて不謹慎だ!」と不快感を示す方が多いのですが、楽してお金がもらえて、もっと面白いことが創造できるのだとしたら、それこそいちばん世の中のためになるのではないでしょうか。奪われるような仕事であれば奪わせればいい。つまらないと思っていた仕事をぜんぶコンピューターがやってくれるという話であれば、こんなハッピーな話はありません。そこでぽっかりと空いた時間を地方のために使ってくれたら、地方創生は実現可能かもしれないですよね。東京をはじめ、働いた人が納めた多額の税金が地方交付税として地方に回っているのがいまの日本の構図ですから、常に忙しい人がもう少し楽になって、空いた時間で地方のために自分の能力を提供してもらえばいい。税金で循環させるよりも直接的に評価をもらえますから、東京の人にとっても満足度は高いのではないでしょうか。そういう夢のような話が実現できるのが、AIであり、IoTであり、バーチャルリアリティーなのです。

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── 森戸さんは「きちんとした実力を持っている人は、どこにいても仕事の依頼がくるもの」と語られています。実際にパラレルキャリアの人が地方で増えている実感はありますか。

森戸 まだまだですね。まずパラレルを認めてくれる企業が少ないですし、周りにやっている人が少ないので自分ができるとは誰も思っていません。「どこかに就職したほうが安定するだろう」という思考が地方はまだまだ蔓延しています。

 私は、パラレルキャリアや複業というのは、権利でも義務でもなく、純粋に能力だと思うんですね。今後は、どこかの地に安住することより、パラレルでどこでも働ける・多拠点で働ける能力を身に付けることの方が安定した生活を営むことができると思います。その未来へと徐々にシフトしていくためには、「都市部在住の能力の高い方がパラレルで地方に絡む」というのがファーストステップ。その人たちを見て「私もやりたいな」と思う地方在住の人が東京の仕事もやるのがセカンドステップ。その後、どこに住んでいるのかは関係なくなり、パラレルワークと多拠点生活が一般化されるようになるのがサードステップ。最終的にはアドレスホッパーとなり、誰もがパソコン1台あればクリエイティブなことができる時代がやってくるのではないでしょうか。

地元の常識と外部のニーズの狭間にはビジネスがたくさん転がっている

── 森戸さんは内閣官房から「シェアリングエコノミー伝道師」として任命されています。シェアリングエコノミーは、地方でも受け入れられていますか。

森戸 例えば、親切心で金銭の授受をなしに自分の子どもを預けたり、近くまで行くからと乗車を誘っていたりする地方に、UberやAirbnb、子守サービスの話をすると、「これまで築き上げた地域の信用社会を崩すのか!」と相当な嫌悪感をもたれることもあります。でも、当然そこは崩す気はないのです。昨日も東北に出張したのですが、タクシーがなくて宿泊場所もないとなると、お金を出してでも乗せてもらいたいし、人の家に泊めてもらいたい。そのインフラが欲しいと思っているだけで、タクシー会社やホテル業界と喧嘩する気はまったくないんですよね。インバウンドも含めた観光客や出張者の不便を解決するために、ネットでそのような第3の選択肢、仕組みをつくってもらえませんかということなんです。

 そのようにきちんと説明していくと、中小企業の経営者は「なるほど、競合と戦うのではなく、選択肢を増やすというやり方があるんですね!」と腹落ちします。地元の人たちに対するサービスと外から来た人たちに対するサービスの2極をつくれば、お財布が2つになるじゃないですか。そこをやりましょう、という話なんですよ。

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要するに、地方の可能性は「不便がビジネスになる」ということ。不便はこれまで地方のいちばんのウィークポイントだったけれど、その不便がぜんぶビジネスになるのです。

 例えば空き家がたくさんあるとして、地方はすぐに「移住・定住」を謳いますが、地元の人も住まない家に誰も住みたがらない。しかし、その空き家が古民家だとして、きれいに掃除をして、水道・光熱を復活させ、観光客に1泊2日、3万円で貸したらどうなるでしょうか。5人家族で来た観光客のいちばんの不満はコネクティッドルームにもなっていないビジネスホテルで家族がバラバラに泊まらないといけないこと。その観光客側の不満が解消され、空き家が地元の収入になるわけです。地元の常識と外部のニーズの狭間にはビジネスがたくさん転がっています。そこに目をつけ、新規事業を興すためにも、テクノロジーやネットに、もっと前向きに取り組んでいくべきでしょう。

 ところが、ここが難しいところなのですが、GAFA(ガーファー)にすべてを期待するのもどうなのかなと……。Google Mapで訪問場所を検索し、Amazonでモノを購入し、iPhoneで決済する。UberもAirbnbも含め、いま地方の利便性を高めているのは、すべて外資のシェアリングエコノミーやネット企業なんです。もちろん私も多用していますが、お金がすべて外資にいってしまうのはいかがなものなのかと思うんですね。外資がダメだと言っているのではなく、そのビジネスを地方の地元の企業が学んで、ローカル版をつくるというのがいい方法ではないでしょうか。

 インフラは整いました。来年から5G(第5世代通信)も実装されます。世帯におけるスマートフォン所有率も75%を超えました。新たな投資の必要がないほどインフラの整った中で、ビジネスをどう考え、どう捉えるのか。そのヒントをシェアリングエコノミーの観点で話しています。建設業や小売業をやっていた地方の有名な方には、ぜひそういうビジネスに果敢にチャレンジしてもらいたいです。

地元の課題をビジネスとして捉えるプロデューサーがいると地方創生は進みやすい

── そのようなローカル版の開発・運用や、地方の働き方改革に関するアプリケーションの開発・運用に、東京のエンジニアがパラレルキャリアの一貫でスキルを投入してくれるといいですね。

森戸 東京在住のハイスキルなエンジニアの方々に地方都市や中小企業で活躍してもらうために、そこをうまくつなげる人──私は「プロデューサー」という言い方をしますが、そういう方々が枯渇しているんです。この記事を目にしたエンジニアの方、特に地方出身で、いま東京で働いていて、「地元のために自分のスキルを役立てたい」という気持ちがあれば、ぜひやっていただきたいですね。地元の課題をビジネスとして捉え、お金も引っ張ってきて、エンジニアもつけて、自治体とも調整しながら円滑にことを運ぶ。そういうプロデューサーがいると地方創生はすごく進みやすいのです。

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 愛知県碧南市に「旭鉄工」という、自動車部品の製造会社があります。現在は忙しく仕事をされていますが、時代の変化により製造の仕事もどうなるかわからないので、IoTを活用した製造ラインの見える化ツールを自社開発し、それをライセンス化して「製造ライン遠隔モニタリングサービス」として外部提供する「i Smart Technologies」というシステム会社をつくられました。社長の木村哲也さんは「製造業はこういうことを目指すべきだ」と言うのですが、一方で「システム部分をつくれる人が地方や中小企業にはいないから、アイデアがあっても具現化しにくい」とも言っていました。そこは東京でIT系のエンジニアが製造業や建設業とともにサブスクリプションモデルをつくっていけるのではないかと思います。システム会社の若手でなんとなく自分たちの技術をもて余している方とかに、ぜひ挑戦していただきたいですね。


<前篇>後継者のいない中小企業が、解体せずに事業を続けるためには? を読む

プロフィール

もりとゆういち◎1967年生まれ。1990年に大手システム会社に入社して以来、システムエンジニア、セールスエンジニアの育成と企業内人材育成のコンサルティング事業に従事。2002年に独立し、ナレッジネットワークを福岡で起業。外資系企業を中心に営業戦略策定や人材育成計画、研修企画などのサービスを提供。企業経営者向けの情報化戦略、人材育成の講演などで群を抜く実績を持つ。2010年には全国47都道府県の自治体・公的団体の地域情報化支援、成長企業のICT導入支援を行うために一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会を設立。2013年にはネットショップの開設・運用スキルを持つ人材を育成する一般財団法人ネットショップ能力認定機構の理事・事務局長に就任。大学生のキャリア育成支援活動としては2003年よりNPO法人学生ネットワークWANを設立してベンチャー企業向けインターンシップなどをコーディネイト。

(取材・文:堀 香織  撮影:yOU(河崎⼣⼦))