2019.09.12

サンリオピューロランドの好調を支える“デジタル”

来場者の発信情報を基に、スピードのある施策が可能になった

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テーマパークのサンリオピューロランドは、来場者がSNSで発信する情報などを即時に得ることで、施策のスピード化を図り、業績の向上につなげている。サンリオエンターテイメントでサンリオピューロランド館長とCDOを兼務する小巻亜矢取締役に、エンターテインメント業界ならではのデジタルツールの活用法をCDO Club Japan理事の鍋島勢理氏が聞いた。(JBpress)

――小巻さんはピューロランド館長という大変重要な役職でありながら、デジタル分野における経営陣コミュニティ「CDO Club Japan」の会員にもなっていただいています。

最初お誘いいただいたとき「私はデジタル畑ではないので」と躊躇しました。ただ、加茂代表より「デジタルの必要性を理解し、社内で推進できる立場の方に参加いただいている」との説明を伺い、今は社外のネットワークも必須だと感じたため、参加させていただくようになりました。

私が顧問という形でピューロランドにかかわるようになったのは2014年6月からですが(2016年に館長に就任)、そのころから情報システムが大きく変わりましたね。端的に言えば“デジタル化”ということですが、具体的にはピューロランドでやっていることをみなさまに知っていただくプロモーションの部分が一番大きく変わりました。

どういうお客さまがどういうチケットを買って来場されて、SNSでどういう発信をしているか。いろいろなデータが入ってきます。デジタル化が進む前はアンケートをとるなどの方法でデータを分析していました。ただ、自分たちでもうすうす感じていたこと裏付けるような分析結果が数カ月後に出てくる、という感じのものでした。

ところがデジタル化によって、どんなお客さまの層がどれぐらい来ていて、どういう行動をしている、ということが本当に即時にわかるようになりました。ということはすぐに手を打てるということです。これは反応が今ひとつだった、じゃ次はこうしよう。これは反応が良かった、何が要因だろう。そういうマーケティングオートメーションによって施策のスピード化が図れたというのが、すごく大きいと思います。

たとえばキャラクターの中でマイメロディ好きのお客さまはこういうものが好き、こういう言葉が好き、こういう色味が好き、というのがわかれば、そういう商品やビジュアルを作っていけばいいわけです。デジタル化による情報の収集・分析のスピードと精度が上がったことが追い風になっていることは間違いないです。すごくそれを感じます。

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株式会社サンリオエンターテイメント取締役サンリオピューロランド館長兼CDOの小巻亜矢(こまきあや)氏。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。1983年株式会社サンリオ入社。結婚退社、出産を経て化粧品会社にて仕事復帰。2014年よりサンリオピューロランドに赴任。2015年サンリオエンターテイメント取締役就任。サービス改善・コンテンツ開発・ダイバーシティマネジメントの醸成からサンリオピューロランドの改善に取り組み、2016年サンリオピューロランド館長に就任。東京出身。

――そういうデータはどうやって収集するのでしょうか。

一番大きな試みが、2年ぐらい前に始めた「ピューロアンバサダー」という制度です。ピューロランドが大好きで、その魅力をブログやSNSを通して発信していただける方が対象です。

アンバサダーはお客さまでもあり、半分身内でもあります。去年の夏には「マイページ」という仕組みも導入しました。そのお客さまがどのキャラクターが好きで、何回ご来場いただいていて、何に反応し、どんなことを発信してくださっているかがはっきりとわかるようになりました。発信してくださることによって、アンバサダーのコア度や熱量がさらに高まり、より身内になっていきます。マイページによってアンバサダーはさらに増えて、現在は1万人弱にまでなっています。

たとえばポムポムプリンというキャラクターが好きな方にはプリンくんのバースデーのイベントを優先的にご案内する、というようなワンツーワンのサービスができますので、お互いにハッピーハッピーな関係がより強くなっていきます。エンターテインメント業界ならではのデジタルツールの使いみちだと思います。

アンバサダーのようなコアの方たちは周りの方たちへの影響力があるので、ピューロランドの何を誰に伝えたいかをお聞きしたりしています。そうすると、メニュー、ショー、パレードとかに関して非常に細かいキーワードで出てきます。

定点観測しているとキーワードがシーズンごとに少し違いますが、ショー、パレード、キャラクターの名前、衣装(コスチューム)とか、インスタ映えするようなことがこれまでは多かったのです。ところが、去年の夏ごろから、お薦めしたいポイントの中に「スタッフ」「あたたかい」というような言葉がチラチラと入るようになりました。「館内が混んでいたけど、子ども目線で案内してくれてすごくありがたかった」みたいなご意見です。これは期待していたわけではなかっただけに、ものすごくうれしかったです。それを見て本当に泣きました。

私がピューロランドにかかわるようになってから、アルバイトさんに対する研修を繰り返し繰り返し行いました。ピューロランドの現場に出てお客さまと接点があるのはほとんどアルバイトさんです。その方たちが十分にトレーニングされていないとお客さまの印象が台無しになってしまうリスクがあります。また社員にも、アルバイトさんに「お疲れさま」「寒くない?」「きょうはお客さんが多くて大変だね」「がんばろうね」と声をかけてください、ということを何度もお願いしました。

その成果がアンバサダーの発信するキーワードに入ってきたのです。みんなが成長して結果が出てきたことを感じるとともに、トレーニングをずっと続けてきたスタッフに感謝しました。

――CDO Clubでは、さまざまな業界でデジタル化をリードされているCDOのみなさまと交流していただいています。

とても勉強になります。

一昔前だとみなさんすごくきっちりと成功戦略が見えなければ踏み切れなかったと思うんです。そこが変わってきたなと思います。とりあえずやってみましょう、と。それで得た経験がまたデータになるということが、デジタルの功績なんだろうなと思います。だから速いし、おもしろいし、広がりもあります。

ピューロランドでいえばほとんどがそれです。絶対成功するというもの、手堅くというのはあまりおもしろくないですよね。たとえばこれまでハロウィンにホラー要素のあるゾンビを出すことはあまりやったことがありませんでした。でもこういうことが想定されるんだったらこうしよう。それでやってみて結果を見ると、ネガティブな書き込みがなかった。ということは受け入れられたんだな。ということで、じゃ来年も、もっとやってみようか。ということになります。

フィードバックが速く得られるから、次にやるかどうかの判断がすごくしやすいです。担当しているスタッフがやってみたいことをなるべく実現する。やってみると「やっぱりうけたね」とか「こうじゃなかったね」というのがすごくわかるし、本人も勉強になる。そういう例はいっぱいあります。

――デジタルによる恩恵が大きかったと。

でも、エンターテインメントだとアナログじゃなきゃわからないこともすごくあります。

データで「かわいい」となっているものが、どのぐらいかわいいかはデジタルでは出てこないんです。それはお客さまの様子を見ることによってわかります。本当に真剣な顔だったとか、スマホで撮りながら泣いていたとか。そういう温度感や感情の部分はやはりアナログじゃないと拾いきれません。

テーマパークがすごくおもしろいのは、見れば見るほどいろんな情報が入ってくることです。たとえばお客さまがどのぐらいのスピードで反応しているか。キャラクターが登場してきたときにすぐに駆け寄るのか、みんなが行くから行くのかだと、同じ“かわいい”という反応であっても違います。

あと、どんな服装でいらっしゃっているのかはアナログで見ないとわかりません。お持ちのバッグを見ればなんの推しキャラの方かがわかります。そのときに「プリンくんのすごいファンなんですね」と話しかけたときに、どういう反応をしていただけるか。

キティちゃんのファンの方は割と放っておいてほしいタイプが多いですね。一方(ウィッシュミー)メルちゃんのファンは、キャラクターとの出会いから熱くお話をされる方が多いです。心理的に考えると、多分ずっとそのキャラクターのファンなのだと思います。そういうことは実際にアナログで話しかけないとわかりません。メルちゃんファンは本当にそうで、「売場を作ってくれて感謝しています」「これからもよろしくお願いします」と熱心に言われます。こういうことを知ってそれを反映させていく。そのためにはアナログな情報も大事なんです。

【本記事は 2019年2月8 日 JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです】