2019.09.24

デジタル変革に立ちはだかる2つの壁とその解消法

IPAの調査で浮かび上がるデジタル変革の現状(2)

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情報処理推進機構(IPA)は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の現状や課題を把握するためにアンケート調査をおこなった。調査結果からは、DXを推進する企業の前には大きく2つの壁が立ちはだかっていることが見えてきた。

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デジタルテクノロジーを活用してビジネス変革を推し進める「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に挑む企業が増えつつあるが、大部分はまだ十分な成果をあげられていない。その主な要因は何か、そしてそれはどのように乗り越えればいいか。

情報処理推進機構(IPA)は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の現状や課題を把握する目的で、東証一部上場企業1000社を対象にアンケート調査を実施し、2019年4月に発表した。調査結果の概略は前回お伝えした。

調査結果から見えてくるのは、DXが進まない大きな原因のひとつが人材不足だということだ。調査では、不足している人材の充足方法も聞いている(複数回答)。

5割以上の企業が人材不足感を極めて強く感じている「データサイエンティスト/AIエンジニア」の充足方法については、「既存人材からの育成」と「中途採用により獲得」がどちらも50%台となった(図1)。

これに対し、DXの取り組みを統括・主導する「プロデューサー」と、デジタルテクノロジーを生かしたビジネスの企画・立案などを担う「ビジネスデザイナー」に関しては、「既存人材からの育成」と回答した企業が8割超を占めた。つまり、DXを推し進めていくうえで欠かせない人材は社内で育てたいとの意向が強いものの、現状ではほとんどの企業が苦労している様子がうかがえる。

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図1 DXの推進を担う人材の充足方法(出所:情報処理推進機構)

「検討が進まない壁」にはまず推進役アサインから着手

IPAのまとめによると、DXを推進する企業の前には大きく2つの壁が立ちはだかっているという。第1は、「検討が進まない壁」である。例えば、既存製品・サービスの高付加価値化を目指したDXで、十分あるいは、ある程度の成果が出ているとした企業が12%あった一方で、取り組んでいないとする企業が43.5%にのぼった。その原因のひとつが、「責任をもってデジタルを活用したDXを創造する担当者が不在」というものだった(図2)。

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図2 DXに挑む企業に立ちはだかる第1の壁「検討が進まない」(出所:情報処理推進機構)

「検討が進まない壁」の他の原因としては、DXの必要性を理解していない、デジタルテクノロジーが分からないことで取り組みを敬遠している、といった点もIPAは挙げている。

DXを加速して、いち早く成果を上げるには、社内での育成だけでなく社外からの招聘も含め、取り組みを推進する人材の確保を柔軟に検討する必要があろう。不足したままでは、そもそもデジタルテクノロジーを活用したビジネス創出の第一歩を踏み出せないおそれがあるからである。

「事業が本格化しない壁」にはアジャイルで踏み出す

第2の壁は「事業が本格化しない」である。「既存製品・サービスの高付加価値化」に取り組み始めたものの、44.6%の企業が現段階で成果をあげられずにいる。PoC(概念検証)の結果を正しく評価できなかったり、PoCをいつまでも継続したりしているのが原因である(図3)。事業化の成否を見通せずに躊躇するケースや、最初から満点を目指して検証を繰り返すばかりで社内に「PoC疲れ」が広がるケースはそれほど珍しくない。

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図3 DXに挑む企業に立ちはだかる第2の壁「事業が本格化しない」(出所:情報処理推進機構)

この壁を突破するにはPoCの評価基準を明確化することや、注力する検証対象ビジネスの見直しや検証の打ち切りなど「大胆な決断をしながら1000の取り組みのうち3つが成功すればよいといった覚悟」(IPA社会基盤センター人材プラットフォーム部スキルトランスフォーメーショングループの東澤永悦氏)が求められよう。同様に、新たな文化を企業に吹き込むことも重要になってくる。

例えば、製品やサービスの機能強化を短期間で繰り返すアジャイル開発手法を取り入れることは、DXで生まれた事業の本格化を図るうえで有効だろう。「新製品や新サービスの事業規模は初めのうち小さいので、(事業性を)評価すると、既存ビジネスに比べてどうしても見劣りしてしまう」(IPA社会基盤センター人材プラットフォーム部副部長の平山利幸氏)。それが事業の本格化を阻む一因だが、実用可能な最小限の機能を備えたMVP(Minimum Viable Product)を早い段階で市場に投入し、顧客のフィードバックを得ながら高度化を図ってマーケットの支持を集めていくアジャイル開発手法の考え方を採れば、DXの第2の壁を引き下げられる可能性がある。

(文:栗原 雅)
【本記事は 2019年5月22 日 JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです】