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2020.02.07

いまさら聞けない『ティール組織』

押さえておきたい次世代型組織の構造

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 昨今、限界を迎えつつあるとされるピラミッド型の組織。そしてそのことに気づき、まったく新しい概念の組織へ脱皮した企業も少なからず存在する。マッキンゼーで10年以上組織改革プロジェクトに携わったフレデリック・ラルー氏(以下、ラルー氏)は、世界中の組織を調査し、組織のあり方についてまとめた著書『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)を発表した。今回は、彼の提唱する次世代組織の本質を紐解いていこう。

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広くビジネスマンからの関心を集める 『ティール組織』の全貌とは

ティール組織って何? 7つの進化の過程

 誕生から現在に至るまで、人類は目覚ましい進歩を遂げてきた。そしてその進歩は、過去の人類からは想像もできないものだった。

 組織も同じことが言える。人類の歴史と共に段階的に発展し、その結果、私たちが持つ常識を覆した組織が誕生するまでになった。

 ラルー氏は組織の進化の過程を7つに分類した。インテグラル理論(思想家のケン・ウィルパー氏が提唱する人間・組織・社会を多様な視点から統合的にとらえる理論)にならって、それぞれの過程に色をつけて呼んでいる。6つまでが今までの進化の過程、そして7つめがこの先、未来への進化だ。時系列に沿って、7つの過程をみていこう。

●受動的(無色):紀元前10万年~5万年頃
 人々は家族等小さな集団で暮らし、階層も長も存在せず、自己と他者の区別もあいまいだったとされる。

●ピンク(神秘的):1万5千年前頃~
 己と他者の区別はつくが、原因と結果に対する理解が不十分なため、事象を「神秘」と捉えている。将来を予測する人はほとんどいない。分業が少なく、組織としては機能していないが、高齢者には特別な地位が与えられ、一定の指導力を発揮する。

 ここで人類初めての組織が登場する。組織の誕生は人類にとって大きな飛躍となった。

●レッド(衝動型):1万年前~
 自我が意識されるため、死を恐れるようになる。そのため、「力こそすべて」という価値観が芽生え、力を行使することで強力な上下関係が形成される。内戦や国家の破綻等、脅威への対応力は高いが、安定した環境において戦略を練り、計画を立てて複雑な成果を達成することはできない。

●琥珀(順応型):紀元前4千年前~
 個人の力で争うため、権力構造が流動的だったレッドに対して、琥珀は階層を固定することで権力の安定化を図る。堅固なピラミッド構造が特徴で、頂点から下に向かって上意下達式の命令系統を持つ。各階層に属する人は固定され、上位の階層を目指すことができないのが特徴。この組織の誕生により、カトリック教会や東インド会社等、グローバル組織の運営も可能になった。

●オレンジ(達成型):1300年代(ルネサンス期)~
 現代を代表する企業はこのタイプ。基本的にピラミッド構造を残しつつ、横断的な仮想組織やプロジェクトグループ、オンラインでつながる仮想チーム等、厳格な階層に風穴を開けた。研究開発やマーケティング等これまでにない部門が生まれ、数々のイノベーションを生み出した。その原動力となるのが実力主義だ。誰にも等しくチャンスが与えられ、達成した人が認められ上の階層に登る。そして部下が目標を達成するために、リーダーには目標についても説明責任が生まれる。この「イノベーション」「実力主義」「説明責任」が根底にある。

●グリーン(多元型):1700年代後半~
 琥珀やオレンジのような階層と権力による組織構造に対してのアンチテーゼがグリーンとなる。権力にはなじまない非営利組織や社会事業家の集団等によくみられる。実力主義に基づく階層構造を残してはいるが、意思決定の大半を現場の社員に任せているのが特徴だ。そのため、上司は部下のモチベーションを高め、育てる「サーバント・リーダー」であることが求められるが、そのようなリーダーを育成するには時間がかかり、リーダーの負荷も増大する構図となる。

 現代社会においては、レッド型、琥珀型、オレンジ型、グリーン型の組織が混在している状態だ。戦闘地域ではレッドの組織にならざるを得ない。琥珀型は行政や軍隊で見られるし、民間企業は圧倒的にオレンジだ。

『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』フレデリック・ラルー著(英治出版)

●ティール(進化型):現代~
 オレンジ、グリーンといった現代の組織タイプに共通するのが、ピラミッド構造の上に成り立つ実力主義だ。合理性があるが、ピラミッドの頂点に近くなればなるほど競争が激化し、無駄な争いが増える。また結果にこだわるため、時には顧客よりも目標を優先してしまうことになる。リーダーが部下の成長に責任を持つため、リーダーに負荷が集中する。

 しかし、ひたすらピラミッドの頂点を目指すことに疑問を持つ人も多いはずだ。生まれながらに持っている能力で社会に貢献し、充実した生活を送ることに価値を感じる人も多いのではないか。ティール組織はこのような「大志は抱くが、野心はない」人々のための組織だ。オレンジやグリーンと比較したティールの特徴は、「階層なし」「中間管理職なし」「肩書なし」にある。中間管理職やスタッフ機能が担っていた統制を、相互信頼による統制に置き換えている。

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ティール組織 3つのポイント

 続いて、相互信頼による組織の統制が果たして成り立つのか、ティールを実現するための3つのポイントを見ていこう。

●自主運営(セルフマネジメント)
 ティール組織では、ピラミッド構造をチーム制に切り替える。チームにはリーダーが存在せず、誰がどんな決定をしてもよい。新しいチームを作ってもよい。しかし、決定の前には必ず助言を受けなければならない。助言は専門家やCEO、取締役が行う。そしてメンバーの決定については全ての人が意見を言える。

 階層組織の上位者の判断でもなく、メンバー全員一致のコンセンサス方式でもない。「助言プロセス」がチームを自主的に運営するために必須のものとなる。

●全体性(ホールネス)
 ティールは人間性を保つことを重視する。合理性がすべてではなく、人間が本来持っている情緒的、直感的な部分を尊重する。個人が自分の長所と短所に正直であることが自分らしさを保つことにつながる。自分らしさを互いにさらけ出すと、各個人は欠点を見るのではなく長所を生かすようになる。

 そして感情的な部分に目を向けることも大切な要素だ。また、なぜこの事象に怒りを覚えるのか、悲しくなるのかということを突き詰めることで、いままで気づかなかった真実にたどり着くことができる。

●存在目的
 企業では「ミッション・ステートメント」を定めることが多いが、それは本当に従業員に感動と指針を与えているだろうか? また、従業員の行動や意思決定に影響を与える力があるだろうか? ティールでは、この2点を踏まえた組織の存在目的を重視する。競争や市場シェア、企業としての成長に重きをおかず、存在目的という一定の方向性を提示することを大切にするのだ。存在目的を追求するためなら、競合他社をも受け入れる。

 企業資産は「ヒト」「モノ」「カネ」「データ」と言われてきたが、もはや企業は資産ではなく、存在目的に向かって一定の方向に動くエネルギーであるというのがティールの考え方だ。従業員は自分よりも大きな目標を心から理解すると、個人のエネルギーも高まり、生産性が向上する。個人のエネルギーが高まれば組織のエネルギーも高まる。予算管理、進捗管理といった無駄な作業を排除し、エネルギーを最大化・効率化することで結果的に利益が生まれる。そのために存在目的をもっとも重要な役割に置くのだ。

 ラルー氏の『ティール組織』の中で、日本の企業で唯一紹介されている「オズビジョン」は、「全体性」の取り組みに当たる「Thanks Day」と「Good or New」という2つの制度を実施(現在は廃止)。「Thanks Day」は、誰かに感謝するための休暇と2万円を年に1回支給し、どのような1日を過ごしたか社内ブログで紹介する制度。「Good or New」は、従業員それぞれのいいところ(Good)か、日々気になったニュース(News)をグループで話していく取り組みとのこと。

「サイボウズ」も、「自主経営(セルフマネジメント)」に通じる手法を取り入れている企業の一つ。従業員の業務やプロジェクトの中身、進捗を共有し意思決定プロセスや情報の見える化を重視したティール的な働き方を実現している。

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まずは部分的に導入して組織の改革を図る

 ラルー氏の著書『ティール組織』は、いま最も注目される次世代の組織論として日本でも大ヒットした。熱狂をもって受け止められているが、ティールの組織形態が当たり前のものとなるのは、まだ先のことになるだろう。

 ピラミッド構造の組織は長い歴史のなかで改善されてきた。この構造を解体してティール組織、チーム制へ移行するのは、かなりのリスクが伴う。大企業がもしそれをいきなり実施したら大混乱を招くだろう。

 ラルー氏が調査した組織も、組織全体がティールであるのは数社のみで、大半の企業はオレンジやグリーンとの混合スタイルだった。このことからもティールが必ずしも最善の組織形態なのではなく、組織が置かれている状況で最善の組織形態は変わることがわかる。

 だが、もし組織を変えていこうとする強い思いがあるなら、まずはスモールスタートで始めてみるのもひとつの方法だ。部分的に導入して効果があるなら、自然と展開されていくだろう。

 さらに個人の能力が最大化され、組織の存在目的を第一に考えて他の人・チームと連携していくティールのプロセスは、オープンイノベーションにも活用できるはずだ。企業同士の関係においては、階層や統制は存在しない。互いの信頼のもと、自社に都合の悪い情報も含めて共有し、オープンな環境を作ることが求められる。ティールの考え方を取り入れることで、いままででは考えられなかったイノベーションが生まれる可能性が広がっていくだろう。

*文:山際 貴子
*本記事は 2019年7月31日 JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです