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2020.03.19

データ統合に求められるチェンジマネジメントの視点

楽天はいかにしてグループ統一の人事データ基盤を構築したのか

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左:楽天株式会社 グループ人事部 ジェネラルマネージャー 黒田 真二氏

右:楽天株式会社 グループ人事部 HRIS課 HRISオペレーショングループ マネージャー 椎野 恭平氏

楽天グループは、2018年にグローバル全体で大規模な人事システムの刷新を行った。影響する従業員の数は正規・非正規等を含めると約2万8000人(当時)。グローバルに事業を拡大する同グループでは、新たにグループに加わった企業や国ごとに異なる人事システムを採用していたため、人事制度・オペレーションを統一することが難しかったという。そんな複雑な状況の中から、たった1年でどのように人事システムの総入れ替えを果たしたのか。プロジェクト推進の背景とポイントについて、グループ人事部の黒田真二氏と、椎野恭平氏に話を聞いた。

グローバルで異なるシステムを使い、人事データ整備も混乱

―― 新しい人事システムを導入する前には、どのような人事課題がありましたか?

椎野 恭平氏(以下、椎野氏) システムの総入れ替えに先駆け、2016~17年にかけて楽天グループ全体で人事課題に関するサーベイを行いました。その結果わかったのは、世界30カ国・地域以上にまたがる各グループ企業が、それぞれ独自の人事制度を運用していたということでした。

 規模の大小にかかわらず、世界の多様な企業がグループ入りしたこともあって、各社の人事オペレーションが統一されておらず、規模の小さいグループ会社の中にはExcelと紙で人事オペレーションをしているケースもありました。だからこそ、全社的に人事データを統一し、管理できる仕組みを整えることが急務だと感じました。

黒田 真二氏(以下、黒田氏) 当時は今とは違う人事システムを採用していたのですが、楽天グループ全体をカバーできておらず、タレントマネジメントに活用する情報量も蓄積できていませんでした。それに加えて、日本以外の人事担当者が運用する上で不便が大きかったことも課題となっていました。

椎野氏 そこで、それまで使っていた人事システムのライセンス期限が切れるタイミングに合わせて、1年でシステムを総入れ替えしようという決断を下しました。

グローバルで統一された人事施策を打つために

―― こうした課題は、人事部のみなさんが日々の業務をする上でどのような問題を引き起こしていましたか。

黒田氏 グローバル全体で人事方針を変えたり、評価や人事異動、研修などを行ったりした時に、情報量も機能も足りなかったことです。

椎野氏 例えば、評価一つとってもグローバルの評価軸を採用している会社と、そうではない会社がありました。国ごとに為替レートが違うので、同じグレードの従業員同士でも給与レンジは異なってしまいます。その中で、各グレードの幅をどう定めるかということすら、はっきりと決めきれていませんでした。

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 また、「楽天主義」など全社共通の企業理念を浸透させたいと思っても、それまではグローバルで統一したラーニングを展開できるシステムではありませんでした。

 しかも、国ごとに全く違うシステムを採用していたため、いざ人事データの加工や分析を行おうとしても、各国から提出されるデータの算出基準やフォーマット、品質が統一されていませんでした。その結果、レポーティングにとてつもない時間がかかっていたのです。

―― こうした課題を解決するために、HR Techの様々なソリューションを比較・検討されたかと思います。その選定ポイントは?

椎野氏 最も重視したのは、全ての国で使いやすいシステムであるということです。本社は日本ですが、使う人は何カ国、何百社にも及びます。全ての従業員、全てのユーザーがストレスなく使えるシステムを採用したいと思いました。

黒田氏 それから採用、評価、人事情報の管理、ラーニング、タレントマネジメントまでオールインワンになっているシステムであることも大切にしました。それまで採用していたシステムは、機能ごとに課金が必要な仕組みになっていました。その結果、例えばリクルーティングの場合、採用の基本的な部分はあるシステムを使って、求職者についてさらに深い分析をしたい時はまた別のシステムを使って、という具合で機能ごとに違うシステムを使っているような状態でした。

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椎野氏 オールインワンパッケージで、かつ英語で使いやすいものを、と考えたところ、現在の人事システムを全社導入することが最適だという結論になりました。

受け入れたのはリーガル・リクワイアメントだけ。要望の選択と集中が鍵

―― 新しいシステムを導入するにあたって、各国を回って要望をヒアリングしたそうですね。それはどのように行ったのですか。

椎野氏 まずは各地域に担当のプロジェクトマネージャーを置き、日本、アメリカ、ヨーロッパ、APACを回り説明を行いました。この時点ではまだどのようなプロジェクトになるか固まっていなかったため、まずは「楽天グループ全体として、新しい人事システムを導入する」というビジョンを伝えました。

 その後、導入時期と方針が決まった時点で再度各国を巡り、新人事システムに求めることをヒアリングする「リクワイアメント・ギャザリング」という機会を設けました。

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 それと同時並行で、上層部の役員からグローバル各国のCEOに対して「グループ全体で人事システムを刷新するので協力して欲しい」という依頼もしました。

―― 現場レベルへのヒアリングと、上層部への協力要請を同時に行ったわけですね。これだけ多くの国にグループ企業がまたがっていても、実際に会ってコミュニケーションすることを大切にしているのはなぜでしょう。

椎野氏 共通のビジョンを伝えてその理解を促したり、大事なポイントを押さえたりしたいときは、直接会って話をしなければ伝わらないと思っています。それ以外の日常的な会議については、もちろんビデオ会議を積極的に活用することで解決すると考えています。

―― ひと言でリクワイアメントといっても、世界各国のコンセンサスを取るのは難しかったと思います。どのように優先順位をつけたのですか。

椎野氏 導入まで1年しかないので、できることは限られています。リクワイアメント・ギャザリングを始める際に伝えておいたのが、「リーガルリクワイアメント(法的な要望)だけ伝えて欲しい」ということでした。

 各国の法律は遵守しなければならないので、リーガル・リクワイアメントは必ず教えてほしいとお願いし、それ以外については「情報としては受け止めるけれど、叶えられるかどうかわからない」と根気よく伝えました。

―― 国や地域ごとにリクワイアメントの特徴はありましたか?

椎野氏 大変だったのは、ヨーロッパですね。ちょうどGDPR(一般データ保護規則)の制定時期と重なったこともあって、国ごとにレギュレーションが異なり、それぞれの要件を叶えるのがとても大変でした。

 例えば、ある国では「生年月日、性別、国籍の情報は取得可能」と決まっていても、別の国では「大学卒業年次の取得不可」と決められているなど、気にかけるべき項目が多岐にわたり、手強いと感じましたね。

カスタマイズは行わず、業務プロセスを変化させる

―― 実際、システムを導入する際に大切にしたのはどのようなことですか?

椎野氏 新しく導入する人事システムを、できるだけカスタマイズせずパッケージ通りに使おうということです。

―― それは、導入期間が短かったからでしょうか。楽天グループの仕様に合わせて、カスタマイズした方が使いやすくなるのではないですか。

椎野氏 それは違います。採用したシステムを最大限使いこなすためには、カスタマイズせずパッケージ通りに使った方がいい。カスタマイズすると、メンテナンスに手間がかかりますし、グローバル全体へ使い方を説明するのも大変になります。システムは、もともとのパッケージのまま極力シンプルにしておくほうが使い勝手がいいと考えています。

 日本企業でありがちなのは、従業員が慣れているからと、これまでの使い方に固執するパターンです。新しいシステムの仕様を、従来の使い方に合わせてしまう。それでは、新しいシステムの良さや強みを生かしきれません。しかも、その上に載せる追加機能まで使い勝手が悪くなってしまいます。

 大切なのは、パッケージの良さをできるだけそのまま生かし、業務を再構築すること。そうすればメンテナンスもデータ活用も格段にスムーズになると思います。

―― システムを変えるときに、運用プロセスを丁寧に伝えたり、新しいルールを作成したりする「チェンジマネジメント」というフローを大切にしたのも、スムーズに導入を進めるためですか?

椎野氏 そうです。かなり丁寧かつ綿密に説明したつもりでしたが、それでも本当は社内にチェンジマネジメントの専属チームを立ち上げて、プロジェクトの最初から同時並行した方が良かったと今振り返って実感しています。それくらい、チェンジマネジメントは大切なものです。

 もっとチェンジマネジメントのためのリソースをしっかり割いて、リニューアルの目的や、導入前後の使い方の変化について、きめ細かくグローバル全体に浸透させるべきだったと思います。

黒田氏 コミュニケーションプランをもっと綿密に立てるべきでしたね。システム刷新プロジェクトを予定通り進めることにばかり目が行き、チェンジマネジメントの重要性について思い至らなかったと思っています。

 単に使い方だけを説明するチェンジマネジメントでは、スムーズな導入・運用はできません。もっと丁寧なコミュニケーションが必要です。

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「今回のシステム刷新は業務を効率化するためだから、根本的な人事に関する業務プロセスが変わります。だからシステムの使い方を変えて欲しい」という説明を、各国のグループ企業や現場の従業員にしっかり浸透するまで繰り返すべきだったと思っています。

 そうでなければ、操作画面が変わったのに従業員がうまく使いこなせない。せっかくコストをかけたのに使っていない機能がある、あるいは、使いこなすのを諦めてしまう。そういうことが起こってしまいます。

 例えば、現場従業員のオペレーションを変えることに抵抗がある場合に、「システムに合わせて現場の業務を変えるなんておかしい」と言われることもあるでしょう。一方で、私たちは「新しいシステムを入れたので、生産性を高めるためにも、オペレーションを変えていきましょう」と伝えていくことが、よりグローバルスタンダードではないかと考えています。

「新しいシステムを導入しましょう、でも現場のやり方は変えません」では、特にクラウドのシステムにおいて機能を活かしきることが難しいと感じています。

世界中で働く人たちの業務内容と評価の“尺度”をそろえる

―― こうした新しいHR Techのソリューションは、特にタレントマネジメントに有効活用できるのではないかと思うのですが、実際導入してみていかがですか。

黒田氏 正直なところ、従来の考えの中でHR Techを使ってうまくタレントマネジメントを行うのはかなり難しいと思っています。

 今回導入したソリューションが生まれたアメリカは人材の流動性が高く、多様な人々がうまく混ざり合って働いています。人事評価も、職務ベースで行われていますよね。一方で、まだまだ日本の多くの会社では、「総務の仕事をしていた人が、来月からは営業の仕事をすることになった」ということも、あり得る話しではないでしょうか。

 これだけカルチャーの違う環境で生まれたシステムを、規模が大きい会社でタレントマネジメントツールとして有効活用していくことに難しさを感じる日々です。

 それに加えて、新しい人事システムをタレントマネジメントに活用するためには、まずグローバル全体でデータを整備しなければなりません。グローバル全体でタレントを把握するための共通の尺度を持ち、目線合わせすることも急ピッチで進める必要があるでしょう。どの人がどんな仕事をしていて、どういうレベルの人材なのかという基準づくりを世界レベルで行う必要があるということですね。今後1~2年でこの作業を行っていきたいと考えています。

 グローバルで一つのシステムを使うためには各国で足並みを揃えたり、一方で喫緊となるリクエストには部分的に答える必要があります。こういったグローバルレベルでのシステム導入、運用、チームマネジメントを実行するマネジメントスキルが問われていると思います。

椎野氏 今後は、リクルーティングもこの新しい人事システム上で行うようにし、このシステムの利用頻度を世界的に上げていきたいですね。

*本記事は 2020年3月18日 JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです

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