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2019.10.08

味の素が目指す究極のテレワークとは

いつでも、どこでも、誰でも、自由に働ける「どこでもオフィス」

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130を超える国と地域で商品を展開し、2020年にグローバル食品トップ10企業入りを目指す味の素。早くから働きがいと生産性向上に向けた働き方改革に取り組んでいる同社だが、中でも「どこでもオフィス」と呼ばれるテレワークの取り組みは、育児、介護などの事情がある人はもちろん、全ての社員に向けて自由で働きやすい画期的な取り組みとして注目される。

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味の素の事業の広がりと事業規模。35の国・地域で事業展開しており、製品を展開する国・地域は130を超える。グループ全体の従業員数は約34,000名、売上高は約1兆1500億円に達する。(2018年3月末現在)

所定労働時間は7時間15分 終業時間は午後4時30分

「当社の働き方改革の取り組みを振り返ると、2003年に制定された『次世代育成支援対策推進法』に対応し、2004年に育児短時間勤務制度や子供看護休暇制度を導入したことが一つのきっかけでした」と、味の素 人事部 労政グループ長 健康推進センター長の隈部淳二氏は振り返る。

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味の素株式会社 人事部 労政グループ長 健康推進センター長 隈部淳二氏

同社ではまだ社会に「働き方改革」という言葉が一般化する前からこのキーワードを掲げ、さまざまな施策を導入・推進してきた。

グローバルコーポレート本部 経営企画部 経営基盤グループ長の浅川貴嗣氏は、「当初は人事部主導で取り組みを進めてきましたが、現在は経営企画部、人事部、さらにITのインフラを担う情報企画部の3つの部門が連携して行っています。2017年度からはゼロベースで働き方改革を推進するために、マネジメント改革(経営主導)およびワークスタイル改革(個々人の取り組み)の両面で取り組みを進めています」と紹介する。

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味の素株式会社 グローバルコーポレート本部 経営企画部 経営基盤グループ長 浅川 貴嗣氏

ワークスタイル改革の一つは所定労働時間の短縮だ。同社では2017年4月より1日の所定労働時間を20分短縮し7時間15分とした。注目すべきは、同時に始業時間を朝8時15分、終業時間を午後4時30分に変更したことだ。

隈部氏は「それまでの朝・昼・晩の3つだった生活のリズムが、朝・昼・夕・晩と4つになります。まだ外が明るいうちに退社できれば、できることもたくさんあります。自己研さんをしたり家族と過ごす時間が増えたという社員も少なくありません」と話す。

いつでも、どこでも勤務できる 「どこでもオフィス」を導入

味の素のワークスタイル改革の大きな柱となったのが、テレワーク「どこでもオフィス」の導入だ。隈部氏は、「それまでも在宅勤務制度はありました。ただし、ルールが厳しく、なかなか利用が進んでいませんでした」と話す。

具体的には、以前は1週間前に当日在宅でどのような業務を行うかを申請し上司の承認を受け、当日は電話やメールで業務開始・終了を連絡、さらに事後には、行った業務の内容を報告する義務もあった。業務を行う場所も限定され、回数も月に4回までとされていた。

「2017年4月からはこれを改め『どこでもオフィス』を導入しました。週1回の出社以外は利用制限なし、申請は前日まで(災害時などは当日も可)で事後報告も不要、業務内容・場所も問わない、としました。さらに育児や介護を理由に業務時間を分割することも可としました」(隈部氏)

以前と比較し大幅にルールが緩和されたわけだ。併せて、従業員の自宅の近くなどで勤務できるサテライトオフィスなども拡充。その結果、「どこでもオフィス」の総実施者数は2922名(全従業員の84%)、実施者の月平均実施回数は6.3回にも達したという(いずれも2018年度)。

その利用スタイルについても「『午前中は自宅で勤務し午後に英会話学校に通い、その後にサテライトオフィスで勤務する』という人や、『朝夕は子どもと一緒に過ごし、早朝や午後、夜間に勤務する人』など、まさに、いつでも、どこでも、誰でも、自由に働けるようになりました」と隈部氏は話す。平日昼間にプライベートの予定を個人の責任で組み込めることはただテレワークを導入するだけでは実行できない。並行して評価制度の整備、上司部下の信頼関係づくりも欠かさなかった同社の取り組み、まさに企業文化の賜物だ。

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味の素が取り組む「どこでもオフィス」の推進には、「ルール策定(緩和)」、「風土醸成」、「基盤整備」の3つがカギとなる

「どこでもオフィス」をきっかけにペーパーレス化も大幅に進む

浅川氏は「働き方改革を推進するためには経営の強いコミットメントが不可欠です」と話す。そのために同社では経営陣が率先して取り組みを行っている。経営会議もサテライトオフィスで行うほどだ。

ちなみに、同社では製造ラインを動かす工場があるが、そこでも「どこでもオフィス」が進められているという。隈部氏は、「生産計画の立案や報告書の作成などは工場の中でなくてもできます。また、安定稼働している状態であればIoTなどの活用で遠隔監視も可能です」と話す。

実践にあたっては「工場でのテレワーク導入は不可能」と決めつけるのではなく、「どうすれば『どこでもオフィス』が可能になるか」と議論し合ったという。「工場の現場でなければできない仕事とそうでない仕事を洗い出し、『これならまとめて在宅でもできる』と割り振っていったようです」(隈部氏)。

浅川氏は「『どこでもオフィス』の導入をきっかけに、ペーパーレス化も大幅に進んでいる。特徴的なのは、会社から『いくら減らせ』と指示されたから減っているのではなく、『そのほうが便利だから』と各部門で自律的に取り組みが広がっていることです」と紹介する。

同社のサテライトオフィスは現在、社外に140拠点、社内に11拠点で、社宅にも2拠点がある。この他、社内はフリーアドレスで、異なる拠点の人が自由に席を使うことができる。さらに、自宅や、出張先のホテル、カフェなどでも“勤務”できる。

むろん、これらに紙の資料を持参するのは現実的ではない。必要な資料は高度なセキュリティで守られたクラウド上に保存されており、業務で使うノートPCやスマートフォンを紛失したり盗難に遭ったりしても外部に漏れることはない。

「営業部門などでは依然としてファクス受注も残っています。そこでOCR(光学式文字読み取り装置)などを活用して、ペーパーレス化を進めているようです。今は、各部門がこれらの取り組みを独自に進めているところですが、今後は成功事例の情報共有も全社横断的に進めたいと考えています」(隈部氏)。

量から質へ、テレワークや働き方改革をさらに進化させる

「最大週4日ものサテライトオフィス化」という国内に例の少ない取り組みを率先して実現している味の素だが、隈部氏は「単に『家でやりなさい』というだけでできるものではありません。例えば当社の場合、コアタイムのないスーパーフレックスタイム制を導入したことが利用率の向上を実現したと考えています」と補足する。テレワークを掛け声倒れにしないためには、人事制度やインフラ整備など他の施策との連動が重要になりそうだ。

ITツールについても隈部氏は「『どこでもオフィス』と言いながら、持ち運びが苦痛になるようなデバイスでは意味がありません。女性でも持ち運びが楽な軽量でバッテリー駆動が長いノートPCを導入しています。カメラ内蔵でWeb会議にもどこからでも参加できます」と話す。

「どこでもオフィス」の実現にはセキュリティの確保が必須になるが、前述したように、同社では自由なテレワークとセキュリティ対策は一対だと考え、多くの側面から対策を行っている。全ノートPCにプライバシーフィルターを配布するなど、意外とおろそかにしやすいショルダーハック対策も実施。また、PC稼働時間、メール通信ログ、インターネット・アクセスログも取得しており、これらはサービス残業の防止にも役立っているという。

取り組みの成果は着実に表れている。例えば、2016年度に1916時間だった一人当たりの平均総実労働時間は、2017年度には1842時間、2018年度には1820時間と大幅に短縮。浅川氏は「目標である1800時間をほぼ達成したことから、今後はさらに質の向上を目指していきたいと考えています。生産性や働きがいについて、エビデンス(根拠)に基づく目標を掲げ、向上を図っていきます」と話す。

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味の素の一人当たり総実労働時間の推移。2016年度は1916時間だったが、2018年度には1820時間にまで短縮。

働きがいを実感している従業員の割合(グループ全体)を2020年度に80%まで高めるのも目標の一つだ。隈部氏はさらに将来を見据え、「配偶者の転勤や介護などによって引っ越さざるを得なくなる社員もいます。そこで、『どこでもキャリア』といった、どこの拠点に移ってもそのままの仕事を続けられるような仕組みができないか検討しているところです」と展望を語る。せっかく入社した社員に長く勤めてもらうという点でも効果がありそうだ。同社の先進的な取り組みは、テレワークの定着に悩む多くの企業の参考になるだろう。

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【本記事は JBpress が制作しました】