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2019.11.13

働き方改革を阻害するのは昭和を引きずった経営者?

白河桃子氏に聞く「働き方改革の成否を分けるもの」とは?

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相模女子大学 客員教授 白河桃子氏

「働き方改革」の必要性が叫ばれて久しい。大企業から中小企業まで、多くの企業が働き方改革に取り組む一方で、その進捗や成果には大きな差が出てきている。働き方改革に成功している企業とそうでない企業にはどのような違いがあるのだろうか。内閣官房「働き方改革実現会議」の有識者議員を務め、企業向けに働き方改革の講演なども数多く行っている相模女子大学客員教授の白河桃子氏に聞いた。

昭和の成功体験を引きずっていては働き方改革は実現しない

――白河さんは働き方改革に関する企業の取り組み事例を数多く取材され、書籍なども著されています。進捗や成果をどのように見ていますか。

白河桃子氏(以下、白河):政府が進める働き方改革関連法案には3つの柱がありますが、そのうちの一つが残業時間の上限規制の強化です。残業は「1カ月45時間」「年間360時間」で、特例がある場合でも「年間720時間」を超えると罰則になります。大企業では2019年4月から施行されており、中小企業でも2020年4月から施行されます。

こういった大きな変化もあって、多くの企業が「働き方改革」に関心を持つようになっています。ただ、その取り組み姿勢には温度差があります。広義の働き方改革に積極的に取り組もうとしている企業もあれば、狭義の働き方改革、すなわち「法律で決まったことだから、やらなければならない」と後ろ向きな企業です。当然、成果についても明暗が分かれます。

――広義の働き方改革ができているのはどのような企業でしょうか。また、狭義の働き方改革にとどまっている企業は、どのような点に理由があるのでしょうか。 

白河:広義の働き方改革ができているような先進的な企業は、決して「働き方改革がブームだから」「やらなければ罰則があるから」と取り組んでいるわけではありません。ビジネス環境が変化している中で、ビジネスモデルそのものを見つめ直し、古い働き方では対応できないと捉え、積極的に改革を行おうとしているのです。一方で、狭義に働き方改革を捉えている企業は、依然として昭和の高度経済成長期の成功体験を引きずっています。

例えば、かつてテレビは作れば作るほど売れました。他社に勝つためには、体力のある男性たちが長時間残業してテレビをたくさん生産すればするほど売れ、給料も上がり昇格もできました。ただし、現在の若者はそもそもテレビを見なくなり、スマートフォンで動画などのコンテンツを楽しんでいます。一方で一人暮らしの高齢者が増え、彼らはテレビとともに生活しています。このような多様化の中で、より良い画像の8Kテレビをお金を出して買いたいという層がどれほどいるでしょう。逆に言えば、8Kのテレビからスマートフォンまで、デバイスが多様化する中で、どのようなコンテンツが求められ、新しいビジネスにつながるかを考える必要があるのです。

白河桃子(しらかわ・とうこ)氏。相模女子大学客員教授、昭和女子大学客員教授、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。日本証券業協会「証券業界におけるSDGsの推進に関する懇親会」公益委員。東京都生まれ、慶應義塾大学卒。山田昌弘中央大学教授とともに婚活ブームを巻き起こす。働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、ジェンダー、ワーク・ライフ・バランス、自律的キャリア形成などがテーマ。著書に『御社の働き方改革、ここが間違っています!』(PHP新書)『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。講演、テレビ出演多数。

――昭和のビジネスの常識が今ではもう通用しないと。

白河:通用しません。「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」という言葉があります。生産年齢人口が多い「人口ボーナス期」は大量生産の時代であり、均質な人が長時間働くということが企業の競争力に直結しました。男性が外で働いて稼ぎ、家では女性が育児や家事を行うというワンオペが効率的だったのです。ところが、生産年齢人口が少ない「人口オーナス期」では、多様な人が多様な場所で、多様な時間に働くことが必要になります。家庭も、ワンオペではなく、夫と妻がチームで稼ぎ、育児、家事を行うほうが効率的になります。

働き方は「一律」から「多様」に、労働時間は「量」から「質」へ、さらに「他律」的な働き方から「自律」的な働き方へと変わっていきます。

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働き方改革に重要な「リーダーシップ」「インフラ整備」「マインドセット」

――働き方改革で何をすべきか悩んでいる企業も多いようです。

白河:働き方改革のためにすべきことは以下の3つだと私は考えています。すなわち「リーダーシップ」「インフラ整備」「マインドセット(意識改革)」です。

働き方改革に成功している企業というと、大手企業をイメージするかもしれません。確かに、大手の中には先進的な取り組みを進めている企業も少なくありませんが、地方の中小企業の中にも成果を挙げている企業がいくつもあります。というのも、「インフラ整備」には一定の費用がかかりますが、経営者の「リーダーシップ」や社員の「マインドセット」は、やると決めたら中小企業のほうが迅速にできるからです。

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ここで注意すべきは、働き方改革は決してゴールではないことです。最近になって「長時間労働の是正が働き方改革の目的ではない」と語る経営者が増えてきましたが、本質的には「社員の幸せと企業の成果が直結している」状態がいいと思っています。働き方改革とは残業何時間という目先の数字を追うのではなく、企業が抱える課題、例えば地方の中小企業であれば、労働力不足や採用難などを解決したいと目的が明確な方が成功しています。

――「生産性の向上」などという耳障りのいい言葉を掲げるのではなく、企業にとって本質的な課題の解決に取り組むべきということですね。

白河:そのとおりです。私が取材したある地方の中小メーカーではここ数年、自社のWebサイトに海外の顧客からの注文が直接届くようになってきたそうです。英語ができる女性のスタッフが1人で対応していたのですが、ご主人の仕事の都合やご自身の出産で、車で2時間ほどかかるところに引っ越さなくてはならなくなりました。さすがに通勤は難しく、会社に退職を申し出たそうなのですが、地方では代わりになるような人材をそう簡単に採用はできません。

この会社の経営者は、この女性が仕事を続けられるようにするためにはどうしたらよいかと真剣に考えた結果、リモートワークを導入し、週に1日だけ出社すればよいという制度をつくりました。まさに必要に迫られて働き方改革が一歩進んだわけです。

ここで注目すべきは、この企業では、中小企業にありがちな他の社員からの不満に関する問題もクリアしたことです。経営者がこの女性のためにリモートワークを導入しようとした際、社内では「あの人だけそんなことをしてもらえるなんて不公平だ」という声も出たそうです。そこで経営者はこの女性にいったん非正規雇用になってもらいました。その上で業務を続けてもったところ、「やっぱりこの人は会社に欠かせない」と他の社員も納得し、正規雇用に戻したそうです。

ITに業務を置き換えるのではなく、業務の必要性を見直す機会に

――白河さんが指摘された、働き方改革のためにすべきことの1つ「インフラ整備」はどう進めればいいですか。リモートワークなどのITの活用もポイントになりそうです。

白河:先ほど、インフラ整備には一定の費用がかかるため大手企業に分があるとお話ししましたが、それも変わりつつあります。クラウドのおかげで、IT投資が安くなっているためです。PCやスマートフォンがあればいつでもどこでも仕事ができるようになっています。中小企業ではIT投資をためらうところもありますが、むしろ中小企業であれば、少ない投資で大きな効果が期待できます。

ITの活用は今後さらに進んでいくと考えられます。大きな要因は、働き方改革法により労働時間の把握が義務付けられたことです。勤怠管理システムやパソコンのログとの突き合わせなどによりサービス残業の有無などを可視化することができます。

IT活用で重要なのは業務の自動化です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの導入により、人間は人間にしかできない業務に専念することができます。ここでも、「RPAなんてわが社のような小さな企業にはまだまだ先のこと」と話す経営者が多いのですが、例えば交通費の申請を自動化し、伝票を書くために毎日会社に戻るのをやめるといったことからでもRPAを始めることも可能です。その成果もすぐに現れるでしょう。

――自動化によって浮いた時間をどう使うかが鍵になりそうです。

白河:生産性が向上した結果、残業が減り、給料が減ったというのでは、従業員のモチベーションも上がらないでしょう。例えば、その分を賞与などに反映させたり、そもそも、短時間で結果を出すチームや従業員が評価され報酬も高いといったように、評価制度や報酬制度を見直すことも必要です。

――お話を伺っていると、働き方改革は人事部門の問題ではなく、経営者が率先して取り組むべきテーマだと感じます。

白河:経営者自身がどれだけ会社を変えたいと思っているのか、その本気度が問われるといえるでしょう。その上で、経営者が旗を振るだけでなく、中間管理職や従業員一人ひとりも自分の問題だと捉え、自律的に改善に取り組んでいくことが大切です。

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経営者にとって大切なのは、数値目標を掲げるのではなく、自社が将来「こうなりたい」というビジョンを示すことです。そうすると「今やっている業務は本当に必要なのか、削減できるのではないのか」、さらには「この事業は昭和の高度経済成長期の成功体験を引きずっていないか」といった課題も見えてくるでしょう。

中小企業であれば2020年4月を前に、まだ十分に間に合います。ぜひ早く始めてほしいところです。そのことで、自社の成長と従業員の幸せが好循環で回るような仕組みを生み出してほしいと願っています。

【本記事は JBpress が制作しました】

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