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2020.02.05

働き方改革の成功をもたらすIT部門とは!?

ビジネス部門の現場に足を運ぶことで解決すべき課題が見えてくる

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株式会社野村総合研究所
システムコンサルティング事業本部 システムコンサルティング事業開発室
主席コンサルタント
古川 昌幸氏

 働き方改革のムーブメントは長時間労働の是正とテレワークの実装という形を中心にいくつかの方面からのアプローチに分かれて進んでいる。とりわけテレワークの普及に向けては人事部門が中心になることが多いが、IT部門が果たすべき役割も決して小さくはない。にも関わらず、多くのケースにおいて人事主導の陰に隠れ、受け身のIT部門も多いようだ。テレワークの実装と、その先にある働き方改革を成功に導き、これらを持続的な成長へとつなげ経営へと貢献していくために、IT部門は何を考え、どう行動すべきなのか。社内外で数多くのITシステムの構築に携わり、企業変革を支援してきた野村総合研究所の主席コンサルタント、古川昌幸氏に聞いた。

DXを阻害する多層化した意思決定の仕組み

—— 古川さんは味の素さんに出向し、情報企画部長として同社のデジタル化をけん引したご経験もおありだそうですが、これまでのキャリアと現在の業務内容について簡単にお聞かせください。 

古川昌幸氏(以下、古川氏) 野村総合研究所(NRI)に入社した当初は、金融系のシステムエンジニアを務めていました。大手証券会社の基幹システムの構築に携わり、オープンシステム化のグランドデザインを担当。そのノウハウをもって金融機関向けコンサルタントを経験し、企画部長として本社の経営企画にも携わりました。

 2012年にNRIが味の素(株)さんの情報子会社に出資してNRIシステムテクノが発足。同社の常務取締役を務めたことから、味の素(株)さんとの付き合いが本格化し、2016年に本体の情報企画部に出向し、中期のIT戦略の企画・立案やデジタル化の推進を担当してきました。

 2019年7月にNRIに戻り、現在は当社のコンサルティングの品質を向上していくために、NRIのコンサルティング部門の変革に取り組んでいます。

—— 昨今の働き方改革の文脈においては、業種業態や規模を問わず、テクノロジーの活用が不可欠と言われます。社内外で数多くのITシステムの構築に携わってこられた経験から、企業全体として、またIT部門として、どのような課題があるとお考えですか。

古川氏 働き方改革というより、デジタル化という文脈のほうがいいかもしれません。伝統的な日本企業は、どうしても意思決定の仕組みが多層化しすぎていて、何か1つのことをやるにも、多段階の承認を得ないと、新しいことはなかなかできないという組織構造になっています。そのことがデジタル・トランスフォーメーション(DX)だったり、データ活用に取り組むスピードを阻害している印象を持ちます。

 また、伝統的な企業においては、全体的にリスクをとらないという意識が過度に強くなっていると思います。リスクをきちんと評価することなく、「なんとなくリスクっぽいな」と思ったら、下流にそれを流してしまう。結果的にチャレンジをしない風潮というのが、産まれてしまっているように思われます。

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 一方、IT部門については、会社全体がそういう雰囲気の中でIT部門だけが突っ走るわけにもいかないということで、やりたいと思っていても、なかなかチャレンジするチャンスがないというのが現状です。もっとも過去10年以上、IT部門はそうした環境の中で仕事をしてきたので、「受け身の体質」は変わっていないし、チャレンジして新しいノウハウを得る場もどんどん失われていっています。にもかかわらず、知識も経験も乏しいメンバーに「DXを考えろ」といっても、なかなか難しいのが正直なところです。

—— 意思決定の多層化は、例えば、組織を変革すれば解決しますか。

古川氏 それだけでは難しいと思います。私は、働き方改革の本質は、ウェルビーイング(well-being)な状態をいかにつくるかということだと考えています。社員一人ひとりが自律的な働き方をできないとウェルビーイングにはなりません。ウェルビーイングな状態は個々人によって異なりますから、それをどうやって日々意識できるような環境としてつくることができるか――。そのためには組織改革だけでなく、意識改革が必要です。そういった意味で、働き方改革は、個々人が自分にとってのウェルビーイングな状態を考えるよいきっかけを提供してくれていると思います。

テレワークに必要なIT環境はすでに整っている

—— 働き方改革におけるテレワークの重要性や、日本企業の取り組み状況などについて、どうご覧になりますか。

古川氏 日本企業の中でテレワークというと、人事部門が主体で、IT部門はあまり関与していないといった指摘も多くありますが、私はそうは思いません。大企業を含めて、テレワークに必要なITに関してはすでに全部そろっています。例えば、軽量のPCに変えてみたり、固定電話をやめてスマホにしたり、セキュリティのことも気にしないといけないですね。また、VPN(仮想専用線)を引っぱったり、環境についてはほとんどIT部門がやってくれています。ですから、IT部門はあまり関与していない、というのは間違いだと思います。ただ、その関わり方については少し改善の余地があるようにも思います。プロジェクトが始まる段階から積極的に関わるというより、ITまわりのところだけに必要とされるとやはり受け身になりがちです。そうではなく、テクノロジーを使って働き方を変えていくことで経営に貢献しよう、というような意識づけをIT部門にもしていくために、プロジェクトの初期段階だからその目的設定とともにIT部門も絡んでいくことが必要のように思います。

 また、テレワークの普及については何がネックなのか? 味の素(株)もそうでしたが、もともと制度はあって、環境も整っているけれど、すごく使いにくい。何日も前に事前に申請して、承認を得て、その日、テレワークで何をやったかを報告しなさい、と。そんな面倒くさい手順があったら、使える環境にあったとしても誰も使おうとしません。味の素(株)の働き方改革の中でそういった制度面を少し見直しただけで、実効性のあるものに大きく変わりました。

—— テレワークに必要なIT環境は、簡単に用意することができるにも関わらず、全社テレワーク導入の成功事例をあまり聞かないのはどうしてですか。

古川氏 自宅などで制限なくテレワークをさせると、会社に出てくる必要がありませんから、サボる人が出てくるんじゃないか、と人事部が心配するからです。確かに、そういう社員も出てくるでしょう。しかし、全社員から見たらそれはほんの一部であり、その数人のために硬直的な制度運用を行うよりも、必要悪と割り切って、全員がテレワークをやることによって得られる生産性向上や、業務効率の向上といったメリットに目を向けるべきです。私自身テレワークを経験して実感したのは、満員の通勤電車に乗ることで、かなりの体力が奪われているということです。通勤をしなくなるだけで、仕事の効率は全然変わります。

—— 古川さんはもちろん、テレワークの導入に賛成ですね。

古川氏 そうですね。NRIはフリーアドレスですし、もともと裁量労働ですから、勤務時間が何時間と決まっておらず、自分で時間の使い方を決められる環境にあります。社員の中には、けっこう長時間働く者もいますが、私はどちらかというと、「一人働き方改革」ではありませんが、極力18時には会社を出るようにしています。そして月に1~2回は、自宅でテレワークをするようにしています。

ビジネス部門の現場に足を運び距離を縮めよ

—— テレワークに必要なIT環境は整っていることが多いとのことですが、我々はIT部門がテレワーク導入にもっと積極的に関与すべきと考えています。これについては、どうお考えになりますか。

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古川氏 繰り返しになってしまいますが、、テレワーク導入に向けてIT部門が絡んでいない、というのは誤りです。ただ、先ほどはプロジェクトへの関わり方の説明をしましたが、加えて現場とIT部門の距離がまだまだ遠い会社が多いと思います。IT部門は今まで、ビジネス部門から言われた通りのことを、そのまま実現するのが仕事だと考えてきました。自分たちから現場に足を運んで、事業をやっている現場にどんな人がいて、自分たちがつくったシステムをどのように使って仕事をしているかをあまり見たことがありません。できあがったシステムが実は使いづらくて、現場の人たちが余分な作業をしていることも少なからずあって、それが常態化してくると、「(現場を知らない)ITの人だからね」で片づけられてしまうことも度々です。

 ITの人たちから、もっと現場に近づいていくといいと思います。本当に現場の社員が困っていることを現場の近くで解決してあげれば、現場の人たちも心から感謝してくれるし、それがモチベーションとなって、ITの人たちももっと頑張るようになる、そんな好循環が生まれるはずです。

 テレワークでも似たようなことがあると思っています。テレワークを導入するために、ビジネス部門から、「PCを買ってよ」「手順書やマニュアルをつくってよ」という要望が届きます。IT部門の人たちは、それ以外にも基幹システムの“おもり”をしなければならないので、多忙を極めます。だけど、テレワークは経営層の指示ですから、手間がかかるけれどやらざるを得ません。導入自体でモチベーションは上がらないのですが、いざテレワークがスタートすると、働きやすくなるわけですから現場の人たちがものすごく感謝してくれます。そうすると、途端に元気になるIT部門の人たちをこれまで何人も見てきました。
そうしてモティベーションアップされた状態になると、今度はどういう工夫をしたらよりよくなるだろうか?実はそれぞれの職種のPC選択にはこのあたりが重要なんだな、デザインなど管理面からは関係なかったけど、フロントラインの営業の人たちはわりと見た目や素材も気にしてるんだな、などの発見があり好循環が生まれます。

—— ビジネス部門の現場とIT部門の距離を縮めるには、どうすればいいですか。

古川氏 「百聞は一見にしかず」という通り、現場に行ってちゃんと見ることです。IT部門はコーポレート部門の一員なので、本社にオフィスがあるケースが多いと思います。でも、本社のデスクに座っていただけでは、例えば支社には、どのぐらいの広さに、何人が働いているのか、どんな仕事をしているのかはわからないでしょう。製造業であれば工場を見て回るのも大切です。そうすると、実は存在してはいけないような古いOSのままのPCが、いまだに使われているといったことも発見できるでしょう。でもそれには実は深い理由があったりするわけです。それを知ることが「なぜ?」と考えるきっかけになり、IT部門にとって非常に重要なことかと思います。

—— テレワークに限らず、企業の成長に向けてIT部門はどのような役割を担っていくべきですか。

古川氏 日本ではあまり浸透していないように思いますが、強いIT部門がないともはや企業の成長は難しいと断言できます。本当にIT部門に対する役割期待は大きいです。ただ、IT部門からすると、自分たちが何をしたらその期待に応えられるのか、まだ十分にとらえきれていないともいえると思います。それをつかむには、現場に出向いて観察することです。そんなに難しいことではありません。現場に寄り添い、小さなことでもいいので困りごとを解決してあげるだけで、進むべき方向は見えてくると思います。

【本記事は JBpress が制作しました】