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2019.11.05

日本のPCの「王道」へ──日本HP、海外ブランド初のトップシェア獲得を支えてきた戦略

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今年6月、日本のPC業界に衝撃が走った。IDC Japanが発表した第1四半期(2019年1~3月)の国内PC市場マーケットシェア調査で、日本HPが首位に立ったのだ。長年、上位を占めていた国内の大手PCメーカーを押しのけ、外資系メーカーがトップシェアを獲得したのは初。

日本HPがここまで成長した背景に何があったのか。日本HPの九嶋俊一専務執行役員(パーソナルシステムズ事業統括)によると、直販サイトの「HP Directplus」や「HP Directpartner」といった流通戦略、そして最近の製品戦略が大きいという。詳しい内容を聞いた。

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日本HPの九嶋俊一専務執行役員(パーソナルシステムズ事業統括)

カスタマイズ製品提供とその流通戦略が前半の成長を牽引

日本HPのPC市場シェアは、1997年の時点ではわずか3%程度だった。分社した後の2015年で10%程度。それが2019年には19%近くまで上がった。

「最近の3年でシェアは約2倍となりましたが、それまでのストーリーと最近のストーリーはだいぶ違っています」と九嶋氏。初期の成長をけん引したのは、国内生産とカスタマイズ製品の短納期を実現したこと、そしてパートナー向けの斬新なスキームだったという。

「Directplusでは、カスタマイズ製品でも短納期で提供する、日本人がモノ作りをすることで品質を安定させるといったことを通じ、日本人や国内企業のニーズに応える仕組みを作りました。それが大きなポイントだったと思います」

「MADE IN TOKYO」のロゴで知られる国内生産の拠点は東京都日野市にある。「東京に工場があると部材調整が楽なんです。すばやく顧客の要望にあった構成にできて、われわれも在庫管理がしやすい。適切なコストで製品を提供できるようになったことが大きなポイントでした」

PCのカスタマイズは、直販だけでなくパートナー(販売店)を通じて販売した場合でも基本的に5営業日で納品する。メーカー直ではなく販売店がカスタマイズ製品を売れるようになったのは業界内でも初めてだった。「販売店さんが顧客に対し、『この日に納品します』と言えるんです。お客様側で納品に合わせて倉庫を開けておくといった計画が、販売店さん経由でできる。これは大きかったと思います」

当時は、競合各社がダイレクト販売で業績を伸ばし始めていた時期だ。日本HPはそれに対抗するのではなく、それまでの販路を活用した。販売店向けにさまざまなプログラムを提供し、着実に信頼関係を築いてきた。

この2つのサービスが始まって以降、日本HPは着実にシェアを伸ばしてきた。「時間はかかりましたが、HP Directpartnerの仕組みを日本のマーケットに浸透させられたことが前半の成長を支えました。パートナーである販売店さんに支えてもらった、と言っても過言ではありません」と九嶋氏は振り返る。

デザイン、セキュリティが日本のお客様に受け入れられた

では、ここ2~3年のシェアの伸びは何に起因しているのだろうか。九嶋氏は「製品が良くなったから」と明快に答えた。「以前のノートPCは大きくて重いものが主流でした。クルマで移動する米国人には問題ありませんが、日本人には大きすぎます」

HPがグローバルで成長していく中、アジアでは日本と同じように、薄いもの、軽いものが好まれることが分かってきた。そこで、デザインにも気を配った薄型軽量モデルを投入する。ただし、HPの製品から「頑丈さ」は外せない。MIL規格(United States Military Standard:米軍調達規格)に準拠することは、特に米国の利用者に向けて「非常に重要」だ。

厳しい基準をクリアする頑丈さと、薄さ軽さのバランスを保つギリギリのラインを狙い、その中でデザイン性を追求した。「これが、ようやくアジア圏、日本でも受け入れられるゾーンに入ってきたのだと思います」

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「HP Elitebook 830 G5」のボディーは、アルミニウム合金をCNC削り出し加工することで、金属の質感を生かして美しく仕上げられている

もう一つ、「徐々に効いてきた」と九嶋氏が話すのがセキュリティだ。日本でも昨年、ランサムウェアの拡散などをきっかけにPCの安全性についての意識が高まったことが追い風になった。例えば企業がPCを購入する際の調達仕様書にもセキュリティ関連の記述が目立つようになってきたという。

「NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のPCのファームウェアの標準は、実はHPの技術が参考になっています。そのため、HPのPCの中に組み込まれているセキュリティ機能を好む企業が少しずつ増えています」

日本のユーザーもセキュリティが重要だという意識は持ってきた。しかしそれは「守り」の意識だと九嶋氏は指摘する。「特に大企業では情報流出の危険を避けるためにPCの持ち出しを禁止したり、限られたリソースにしかアクセスできないようにしたりしてきました。しかし、セキュリティのために不自由な環境を作ってしまうと生産性は上がりません。せっかくのPCを生産性を上げるツールとして使わない、あるいはクリエイティブな使い方ができないのは本末転倒です」

HPが考えるセキュリティは、「守りきれない」ことを前提に、攻撃されても素早く検知し、自動で復旧を目指す「レジリエンス」(resilience:復元力という意味)という考え方に基づいている。例えば、HPのPCには独自のセキュリティチップ「HP Endpoint Security Controller」が搭載され、常にPCの理想的な状態と現在の状態を比べている。状態が異なると、それは悪意による改ざんであるとして、すぐに復旧を始める。ソフトウェアと異なり、ハードウェアは改ざんが困難であるからこそ安全性を確保できるという考え方だ。

「Windows Defenderやファイアウォールがきちんと動いているかをチェックし、動いていなければプロセスを元に戻します。Webブラウザで変なものを踏んでしまったときは、その環境をアイソレーション(分離)することで、ブラウザのタブを1つ消すだけでその痕跡が消えます。OSには影響を及ぼしません」

PCのデザインと堅牢さの両立に加え、セキュリティ性能の高さが認められ始めた。これが近年の成長をドライブした。

全体のキャパを広げることで供給を安定化

近年、PC用のチップ供給不足が問題となっている。そんな状況の中でも部材を安定的に供給できたことが日本HPの成長につながったという見方もできるだろう。九嶋氏もそれは否定しないが、それだけではないと指摘する。

「需要が高まる時期に、その需要に応えるだけのものを準備できることは重要です。今年はWindows 7のサポート期限が近づき、Windows 10への移行がピークを迎えることが分かっていました。われわれは、1年以上前からピークに合わせて工場のキャパシティーを増やしています。コールセンターにもたくさんの問い合わせがあると予測し、事前に拡張しています。決して部材だけの話ではありません」

製品のデザインにセキュリティ対策機能が追い風となり、さらに部材を十分供給できた。この3つがそろい、今年の成長につながった。

「実際には、予想を超える需要がありました。当然、無理はしていますが、何も準備していなければ破たんしていたでしょうね」。工場の生産能力は「本当にギリギリ」と言うが、現在も安定供給を続けている。

情報システム担当者の負担を軽くしたい

日本のユーザーが望む製品を提供してきた日本HP。引き続き製品の品質向上に取り組む一方、サービスの強化にも取り組んでいる。

「情報システム部門のみなさんにとって、PCの調達や管理運用は非常に手間がかかるものです。サーバやネットワークといったインフラ系の保守コストは下がっていますが、個々人に配られているPCは、問題が起こったとき、(修理に出向くなど)フィジカルな対応が求められます。社員のPCリテラシーもまちまちなので、ヘルプデスクのコストもかかります。『保守が7割、イノベーションが3割』などという言葉もありますが、イノベーションに対するリソースの割り当てを増やすことが大きな議論になっています。情シスのみなさんをそんなストレスから解放したい」

HPでは、メモリやCPU、アプリの利用状況を監視し、それらの情報から適材適所のデバイスを推奨するプランを提供している。ネットワークを介してデバイスの状態を把握しているため、HDDやバッテリーの調子が悪くなれば分かる。すると、デバイスが故障する前に予防として交換や修理ができる。

「インシデントが発生してから対応すると修復の工数が増えます。『HP Care Pack』という保守サービスと『HP TechPulse』というリモート監視サービスを一緒に導入すると、HDDやバッテリーが使えなくなる前にHPが修理に行きます。これは第一歩ですが、情シスの方々が手間をかけなくても、淡々とPCがオペレーションされている状態を目指してサービスを強化していきます」

会社のPCは、運用・管理の負荷軽減を理由に、単一モデルを一括購入するケースが多い。しかし管理や保守が容易になれば、部署や個人の業務内容に合わせたPCやデバイスを支給することができるようになる。それは生産性向上にもつながるはずだ。

今後はエルゴノミクスを活用し、長時間の使用でも負担の小さいPCや周辺機器の開発も検討中だという。日本HPはこれからも、クリエイティブかつ安心で、日本のPCユーザーが心から満足して使い続けられるスタイリッシュなPCを届けていくはずだ。

【本記事は2019年10月16日、ITmedia NEWS SPECIAL に掲載されたコンテンツを転載したものです】