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2020.06.08

コロナ禍におけるDXの取り組みが今後の競争力格差を生む

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 新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活やビジネスは大きな変革を迫られています。未曽有の危機に直面する中で、すでに取り組んできている企業を除いた全企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことが最優先課題としてあがってきています。市場が大きく変化してきている今、その中でマーケターは何を考え、どんな行動を起こすべきなのか。パーソルホールディングスでCDO(最高デジタル責任者)を務める友澤大輔氏にコロナ禍におけるDXの重要性と、マーケターが身に付けるべきスキル、マインドセットなどについてWeb会議でお話をお伺いしました。

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パーソルホールディングス株式会社
Chief Digital Officer 兼 グループデジタル変革推進本部 本部長 友澤 大輔 氏

<interviewer>
株式会社日本HP 経営企画本部 マーケティング推進部 部長 甲斐 博一

コロナ禍でも適切な投資ができるかどうか

甲斐博一(以下、甲斐):「アフターコロナ」や「ウィズコロナ」といった言葉がすでに叫ばれていますが、コロナ前と後で、企業や消費者のマインド、購買行動はどのように変化するとお考えですか。

友澤大輔氏(以下、友澤氏):人材業界に限らず、働くことに対して相当な変革が強制的に求められています。テレワークやリモートワークは当たり前で、従来はこのような取材も対面でしかできないと考えられてきましたが、今ではWeb会議でも対応可能であることがはっきりしました。そうした中で、マネジメントの舵取りはいっそう困難になっていますし、マーケティングについても、例えばB2Bの業界では、セミナーや展示会などで見込み顧客のリストを獲得するのが一般的でしたが、これからはオンラインでどのように対応していくかが問われています。

 働く人々も大きく変わっています。人材業界で今、何が起こっているかというと、CXOクラスやハイエンドなエンジニア、サイエンティストは今まで以上に引き合いがあり、採用の話は止まっていません。このタイミングでもいい人がほしいと考えている企業はたくさんあります。コロナ禍でも、デジタルをきちんと吸収しようという企業や人材はどんどん変革していきます。一方であまり変わりたくないという人は、これから大変な思いをするように思います。

甲斐:我々のようにIT業界やマーケティング業界にいると、テレワークをはじめデジタルの活用には早くから積極的に取り組んできていましたので何も違和感がありませんが、いろいろなデータを見るとそういった企業はマイノリティであり、製造業や中小企業などでは緊急事態宣言でもすぐには動けず、最近(取材時は2020年4月末)になってようやく動き出したところが多い印象です。日本における企業のデジタル活用は今後、どこまで浸透していくと思いますか。

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友澤氏:コロナの前までは、モノやサービス、情報があふれていて、市場が成熟していましたから、同じようなものを安く作ればよかった。マーケティング活動を行い、消費者に知ってもらうことができれば、購入につながりやすい環境でした

 コロナによって何が起こるかというと、体力がない企業は潰れていきますし、お客さまとのエンゲージメントが薄い企業は消えてなくなると思っています。株式市場もそうです。将来に対して期待が見せられない会社は多分、つぶれていくのではないでしょうか。ですから、「デジタルテクノロジーを活用して、何を実現させるか」を示せない企業は結果的に淘汰されていくと思います。

 半数以上の企業がデジタルを活用するようになると思いますが、ポイントは分母が大きく減って、分子は生き残るべきところが生き残るということです。

 そういった意味では、コロナだから投資ができないではなくて、コロナの渦中なのか、アフターかはさておき、適切なタイミングを見極めて、適切な投資を行うことができるかどうかが重要なテーマです。コロナ禍において、ユーザーのデジタル化が進み、情報の選別もより厳しくなります。一方、企業側はデジタル化やリモート化を拒否して、今までのやり方を変えないという選択肢をとってしまうと、ユーザーと企業の間でリテラシーの格差が拡大し、リテラシーが低い企業は淘汰されていくことになります。

マーケティングはDXの“一丁目一番地”

甲斐:識者の中には、「今はDXどころではない」と考える経営者が増えた結果、日本企業のDXが止まってしまうのではないか、と懸念を持つ方もいるようです。

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友澤氏:コロナ禍においても、ぜひDXを進めたいので相談したいとか、Zoom勉強会をやってほしいという経営者の方もいらっしゃいます。しかし一方で、「今はコストをかけられないのでDXは1~2年先ですね」と言っている方もいます。今までも二極化は進んでいましたが、コロナ禍におけるデジタル活用への課題感によって、二極化がますます加速しているという印象です。

 私がお勧めしたいのは、費用を抑えてでも小さくテストを繰り返すことです。マーケットは冷え込んでいるので、大きく失敗することはありませんし、逆に大きく成功することもありません。であれば、小さくても何かをやったほうがいい。こういうときだからこそ、自分で経験ができることはすごく重要な機会ですし、それを経営者がどこまで許容し、マネジャーがどこまで促進できるかによって、今後が大きく変わってくると思います。

甲斐:友澤さんが考える「マーケティングにおけるDX」、「DXを通してマーケティングが目指すもの」について教えてください。

友澤氏:DXそのものは“チェンジマネジメント”です。つまり、企業を変革する際に、デジタルを使ってやることを、私はDXと呼んでいます。

 その方向性は2つあり、1つが経営効率を上げること、もう1つが新しいビジネスをつくることです。一方、マーケティングとは体験の良化をユーザーファーストで行うこと。そのこと自体が、ひいては経営の効率化や新規事業の創出につながることから、マーケティングとDXは同じ文脈の中で語られるべきですし、マーケターこそDXを積極的に推進すべきです。

 体験を良くするために、ユーザーにヒアリングした結果から学び、それに対してプロダクトをどう変えて、変えたことをどうユーザーに伝えるか。かつ、そのプロダクトから得られる行為、体験をどのようにつくっていくか、体験してもらったことをどうフィードバックしてもらうかが、いま求められているマーケティングです。そしてデジタル技術をプロセス全般通して使うこと。ですから、DXを進めるための“一丁目一番地”がデジタルマーケティングなのではないかと個人的には思います。

甲斐:時間軸を設計し、顧客接点を強化しながら、顧客体験からフィードバックをもらうことで顧客の理解を深めていくということですね。その上で、お客さまと一緒に幸せになろうという世界を築いていく「体験創造マーケティング」の重要性を今よくお客様と私も話しますが、どのような見解をお持ちですか。

友澤氏:パーソルのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」は、まさしく体験創造そのもので、コロナによって体験創造マーケティングの重要性はさらに高まると見ています。

 今、B2Bの業界では特にそうですが、新規顧客の開拓よりも既存顧客の深耕が大事ですから、改めて既存顧客とコミュニケーションを図り、エンゲージメントを構築しようという企業も増えています。そのためには、デジタルテクノロジーをうまく活用して、24時間365日、できればユーザーそれぞれに対して、それぞれのコミュニケーションの在り方、体験の在り方をつくっていくことができないと、デジタルに慣れたユーザーは離れていってしまうでしょう。

世の中を変えるにも、自分を変えるにも、今は良いタイミング

甲斐:DXやデジタルマーケティング、体験創造マーケティングをリードするマーケターに求められるスキルやマインドセットとはどのようなものでしょうか。

友澤氏:ハードスキルというよりはソフトスキル、いわゆる「やりきる力」などが求められていると思います。特に、コミュニケーション能力や問題を解決する力などを示すコンピテンシーを高めていくことがマーケターにとっては重要です。また、マーケターはユーザーに近いだけでなく、社内の事業部門の人たちとも近いところにいて、調整役を担っていますから、コンピテンシーの中の1つ「傾聴力」も大切です。

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 マーケターの中には意外と定量調査の調査設計ができない人が多くいます。最近、デザイン思考を活用して、いろいろなプロジェクトを進める機会があります。ワン・オン・ワンやグループ・インタビューでしっかり話を聞いて、そこで出てきた定性情報を構造化し、アイデアに持っていくときこそマーケターが一番力を発揮しないといけないのですが、最初の情報収集とアウトプットが弱い人が意外と多いようです。

 デザイン思考においても、きちんと調査をして、マーケットからファクトを抽出し、それを自分のアイデアと結び付けて、実現可能な施策に変換することができるかが重要です。これができる人は、今の世の中だからこそ、失敗を恐れずに、どんどん挑戦した方がいいと思います。

甲斐:今、多くのマーケターがかつて経験したことのない事態に直面し、悩んでいると思います。彼らに対してエールやメッセージがありましたらお願いします。

友澤氏:会社が何かをしてくれるのを待っていては何も進まないので、自分ができる範囲で行動を起こすことです。小さな金額でもいいので自腹を切ることも時には有効かもしれません。

 デジタルでネットワークが構築されている世の中ですから、何らかのエクスパティーズ(専門知識)を持っていれば、必ず機会はやってきます。今までは機会をつくるのが大変でしたが、自社でつくるのが難しければ、自社ではないところでつくればいいのです。

 アフターコロナになれば、DXの機会はこれまで以上に広がるでしょう。そのときに向けて自分の専門性を磨いておけば、二極化した“勝ち”の方に行けると思います。世の中を変えるにも、自分を変えるにも、今は本当に良いタイミングです。

甲斐:これだけは“磨いておいたほうがいい”思うことはありますか。

友澤氏:設計ができる人材の要素としては、非構造的な事象やデータを構造化することと、構造化したものを人に説明すること、人に説明したことをやりきれることの3つです。DXとは、時には何かを捨てて、新しく組み直したり、置き換えたりすることが必要となってきます。世の中で生まれつつある兆しを把握し、社内の人たちを巻き込んで、やりきる力を身に着けるために、焦らず挑戦していくべきだと考えています。

【インタビューを終えて】

株式会社 日本HP 甲斐 博一

コロナ禍の今、在宅勤務を続けながら多くのことを考える。自分自身はすべてがオンライン中心になり比較的環境が整っていることで在宅勤務になってからのほうが仕事もアイデアも沸いてくることはありがたい限りではあるが、一方で社会から遠ざかっている感覚は間違いなくあり、これがオンラインのみのつながりの現実なのだろうと感じる。もちろんこれが良い悪いではなく、今後の生活や仕事のベースとなっていくことは想定しなければならない。

今回インタビューさせていただいた友澤さんはマーケティング業界ではまさにデジタルの人というイメージがあるが、そもそも最初のキャリアはベネッセさんで紙を担当していたということから、改めてこのチャネルでテーマ設定している体験創造という言葉にとてもあっていることを確信しながらインタビューを進めることができた。体験創造とはデジタルだけでもフィジカルだけでも設計が難しいからである。また、その後のキャリアをお聞きしていると変化が好きだからこそ、混沌とした組織の渦中に飛び込みそこから本質を探り、組織全体をよりよい方向へと導いていくことができる方だと確信した。

非構造的な情報をいかに分類し、人にわかりやすい形にまとめるか、これはやはり変化を成し遂げる人に共通してできるスキル(もしくはセンス)のひとつだと思う。インタビューの中ではこれからのマーケターにより求められるものとして定義されていたが、特にマーケティングの最初のステップである顧客理解のフェーズにおいてこのことが象徴的に現れるはずだ。定量データをいくつかの角度から分析し仮説を立てることができるスキルは重要でありある程度の時間を要するものの、言い換えれば訓練次第でなんとかなる。一方、定性情報(つまり非構造的な情報)をいかに読み解き、その本質と変化を感じとり、かつ人に説明できるようにするスキルは今後オンラインを中心とした世界に生まれ変わる中で変化のスピードがこれまでとは格段に変わっていくだろうことから、そのスピードへと対応していくためにとても大切なスキル(もしくはセンス)となっていくことが必然であり、顧客理解のスピードが競争力の源泉となるからである。

顧客理解を正しい形でスピードをもって行い、そこに顧客が幸せとなっていくストーリーとともに体験を顧客と一緒につくっていく、これこそが体験創造マーケティングそのものである。



【本記事は JBpress が制作しました】