2020.05.14

製造業における令和時代の働き方改革とテレワークの実践
印刷業界を牽引する凸版印刷の取り組み

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凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 総務部 部長 瀧野 誠 氏
(上記役職は3月取材時: 2020年5現在はDXデザイン事業部)

印刷テクノロジーをベースに、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクスへの事業分野を拡大してきた凸版印刷株式会社。伝統的な印刷業界においても、働き方改革やデジタル化の波は大きく押し寄せており、その対応は待ったなしです。働き方改革とテレワークの実践と今後の展望について、情報コミュニケーション事業本部 総務部 部長の瀧野誠氏に聞きました。

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「意識」「制度」「環境」の三本柱で働き方改革に取り組む

――凸版印刷では2015年から働き方改革に本格的に取り組んできました。具体的にどのような制度や施策を設けてきましたか。

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瀧野誠氏(以下、瀧野氏) 情報コミュニケーション事業本部の働き方改革の取り組みは、「意識」「制度」「環境」の三本柱で進めています。2015年に当事業本部長の新井誠(取締役専務執行役員)が「タイムマネジメント宣言」を発信しました。これが「意識」のところです。かつて印刷業界は長時間労働が当たり前の受注産業でしたが、働き方を変えて、効率的に働こうということを社内に宣言したのがスタートです。
 「制度」面では、企画裁量労働やスマートワーク勤務制度など、柔軟な働き方を可能とする勤務制度の導入をいたしました。効率的に働いた結果、残業代は当然減りますが、その分を会社の利益にするのではなく、貢献した社員に還元するタイムマネジメントチャレンジという制度もつくりました。最初は個人だけを対象にしていましたが、その後チームとしての貢献も表彰できる制度に変わりました。

 「環境」は大きく2つあって、1つは働く環境、空間です。私のいるビルの立地は最寄りの4駅からいずれも少々アクセスがしにくいところにあります。天候が悪い時や夏場の猛暑の時でも、営業は出先から都度会社に帰ってくる、さらには別の得意先に向かう必要がありました。そこで、外部のシェアリングオフィスを数多く契約し、帰社しなくても営業が仕事のできる環境を整備しました。もう1つはツールです。早い段階でFMC端末を導入し、どこからでもメールやスケジュールの確認をできるようにしました。最近は、VPN(仮想専用線)を介して、簡単な承認もすべてスマートフォンでできるようになっています。さらには、営業を中心にタブレットPCを導入することで、どこでも自席と同じように働ける環境にいたしました。

――新井様が「タイムマネジメント宣言」を発信したきっかけは何だったのでしょう。

瀧野氏 直接的なきっかけは世の中の働き方改革の流れだと思いますが、もともと私たちの印刷業界は受注産業でした。お客様のところにお邪魔して、「何かありませんか」という従前の営業スタイルに対して、新井が強い危機感を持っていたことも大きな理由の1つです。お客様の課題をいろいろ考えながら、解決策を出していく。御用聞き営業ではなくて、自分たち、あるいはお客様と一緒に考えて、世の中の課題をどんどん解決していくような雰囲気をつくろうと新井は考えていたのだと思います。
 実際に新井がリードした新ビジネス創出のための社内コンペティションでは、アスリート向けのオンライン栄養診断というアイデアも生まれました。大学の体育会系運動部などアスリートが食事の写真をスマホで送ると、公認スポーツ栄養士からアドバイスがもらえるアプリケーションとして、正式にリリースもされています。

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まだまだトライアル中のテレワーク、今後は拡大傾向に

――実際に意識づけを行い、制度や環境を整えてきた中で、どのような変化が見られましたか。

瀧野氏 自分たちで新しい仕事をつくろうという雰囲気は出てきた感じがします。新規事業を考案するなど「こんな商材があるけれど、何かできないか」と周囲を巻き込むような動きがすごく増えました。あとは目に見えて、残業時間が減っています。
 環境、空間については、外部のシェアリングオフィスを幅広く契約したことは前述の通りですが、加えて、営業部門を中心にグループアドレス化を推進することで効率化を図る一方、社内にもシェアリングオフィス設置することで、必要な時に部門を横断したメンバーで集まることのできる、創造性を支援する空間を用意しました。

 社内のシェアリングスペースを見ていると、稼働率も高く、数多くのミーティングが行われているようで、それはよかったなと思います。
グループ(フリー)アドレス化が進むことで、効率性が高くなる一方で、誰がどこにいるのかわかりにくくなったという声もありました。

 これについてはツールを用意し、社員がいま、どこにいるのかがわかるようになっています。位置情報だけではなく、さまざまなサービスも付加しており、たとえば、その人のスケジュールが閲覧できたり、会議室の空き状況が見えたり、スタッフの担当業務についてもわかるようになっているので、ピンポイントで担当者を訪ねることができます。また、トイレの空き状況についてもチェックできます。もちろん、誰が使っているかまではわかりませんが(笑)。

――テレワークについては現在、トライアル中とのことですが、どのように実践されているのでしょうか。テレワークの導入にあたって、課題に感じていることがありましたら併せて教えてください。

瀧野氏 私たちはモバイルワークについては営業部門を中心に積極的に取り組んでいますが、世間一般でいうテレワーク、いわゆる在宅勤務については、社内でも慎重に取り組んでいます。営業パーソンはモバイル端末を持っていますが、スタッフ(事務管理)系の人たちはモバイル端末を持っていない人もいます。また、職種によっては会社に来なくて業務遂行できる人もいれば、どうしても来なければいけない人たちもいます。そのへんの公平性や納得性を高めながら制度を設計していくには、慎重にならざるを得ないということです。

 加えて、私たちの取り扱う情報が、個人情報であったり、世の中にまだ出ていない商品・サービスに関する情報だったりするので、そもそも情報漏えいやセキュリティについてはものすごく気を使っています。そこも含めて慎重にやっているのですが、展開制限を厳しく設けるのではなく、今後は拡大していく方向で進んでいます。

 テレワークのトライアルは営業部門からスタートし、スタッフ系にも一部広がりました。たとえば法務部門で契約書をチェックすることは自宅でも可能ですし、端末による制限については、自宅の端末から会社のPCにリモートアクセスするようなツールの導入も検討しています。
新型コロナウイルスの影響もあり、トライアルのスピードが速まり、対象範囲も広がったことは間違いありません。

今年度は新入社員研修をオンラインで実施

――BCP(事業継続計画)対応や新型コロナウイルス感染拡大対策に関連しては、今年度の新入社員研修を在宅オンラインで実施することを発表されました。

瀧野氏 他の大手企業と同じですが、新型コロナウイルスによる社内外への感染拡大抑止と従業員の安全確保のため、2020年4月1日予定していた入社式を中止するとともに、新入社員研修についても実施形態を見直し、在宅によるオンライン研修とすることをいち早くリリースさせていただきました。

 私たちはこれまでも人財開発に注力してきましたが、今回の研修内容の特徴は、業務への入り口に関する研修に留まらず、ハーバード大学客員教授の根来秀行氏による「パフォーマンスアップに導く24時間の過ごし方」や、DAncing Einstein社の青砥瑞人氏による「ストレスマネジメント」「セルフマネジメント」といったプログラムも動画コンテンツとして配信することです。

――貴社をはじめ、印刷業界全体や製造業でもデジタル技術を取り入れて、新しいビジネスに挑戦する企業が増えていますが、オンライン型の社員研修もその流れに沿ったものと言えそうです。

瀧野氏 当社も社名に「印刷」が入っていますが、みなさんが思うような、かつての印刷会社のイメージはもはやありません。工場を含めデジタル化が進んでいますし、デジタルマーケティングの分野などでも仕事が増えています。そういう意味では、みなさんが思う以上にデジタルかもしれません。

 2020年4月1日には、「DXデザイン事業部」という新しい事業部が設立されました。当社には情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクス、そしてエリアの事業部門がありますが、それとは別に独立した部門として立ち上がり、なおかつ全社横断的に機能を発揮していきます。たとえば、製造現場のDXを推進しようというときに、DXデザイン事業部がこれをリードしていきます。

――デジタル化が進展し、変化を迎えている印刷業界において、どのような働き方が求められているとお考えですか。

瀧野氏 既成概念にとらわれることなく、デジタルの力を活かしながら、いかに効率的にやれるか、あるいはお客様の課題を解決できるかを考えていくことが重要です。私たちの事業本部には200を超えるソリューション商材がありますが、デジタルのソリューションもかなり増えており、これからの働き方に合わせた総務関連のツールもあります。

たとえば、社内のレイアウトを変更する際に、従来は事業部門のトップの声の大きさが大きな影響力を持っていたと思いますが、このツールを活用すれば、社員同士の交流をデータとして収集・分析することもできるので、エビデンスベースのレイアウト変更が可能になるわけです。
 印刷業界とはいえデジタル化の流れはもはや待ったなし。抵抗すれば淘汰されるだけです。それをどこよりも早く受け入れて、自分たちでどう活用するかを積極的に考えて実行していかないといけません。デジタル化も、働き方改革も、躊躇するより、どうやったらできるかを考えたほうがいいと思っています。



【本記事は JBpress が制作しました】

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