2020.03.16

フジプラスが取り組む商業印刷デジタル時代の新たな挑戦

これからの印刷業界を背負う社長たちの決心

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株式会社フジプラス 代表取締役社長 井戸 剛氏

デジタル化の波は今やどの産業にも訪れ、ここへの対応力が各社未来の事業の命運を握っているといっても過言ではない時代。特に印刷業界はこの変動が大きく減少する印刷ニーズをデジタル変革によってどのように新しいビジネスへと転換できるかが試されている。またちょうど事業承継の時期とも重なり経営変革をも余技なくされる会社も多い。そんな中ぬぐいきれない不安を抱きながらも、事業承継を決断した若き社長たちがいる。彼らは、目の前にある困難をいかに乗り越え、新しいフロンティアを切り拓こうとしているのか。これからの印刷業界の未来を担う社長たちの想いとは。第二回目は、株式会社フジプラス 代表取締役社長 井戸剛氏に話を聞いた。

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「フジプラス」になるまで

—— まずは御社の歴史と現在の事業概要について、教えていただけますか。

井戸剛氏(以下、井戸氏) 大正12年(1923年)に創業して、昭和40年代以降は印刷の中でもロール紙から高速・大量に印刷するオフセット輪転印刷が中心でした。その状態が30年くらい続いたのですが、次第に川上と川下に事業領域がどんどん広がっていきました。川上とはクリエイティブ・マーケティング、川下とは印刷物の加工・製本を意味しています。

 以前から通信販売のカタログを印刷する仕事が多かったのですが、今ではカタログを作るだけでなく、カタログに載せる商品の選定から仕入れまで、別会社にしていますが、商社の動きもしています。生き残るためにいろいろなことをやっていたら、こんなことになってしまった。私がこの業界に入った20数年前には、関西でオフセット輪転機を中心にやっていた会社が数十社あったのですが、もう今は少なくなってしまいました。

—— 御社は平成29年(2017年)に不二印刷からフジプラスに商号変更されていますが、その理由を教えていただけますか。

井戸氏 僕が平成20年(2008年)に社長に就任したのですが、その後しばらくしてからロゴ変えました。その頃から、いつか社名をフジプラスに変えたいと思っていたのですが、当時はまだ印刷が仕事のベースとしてあったし、社内でも印刷を外すのは違和感を持つ方が多かったので、ロゴだけ先に変更して、不二印刷のまま続けていました。

 しかし、3年前くらいから新卒採用が、難しくなってきたんです。そんな中で、非常にいい学生さんに内定を出したら、そのご両親から印刷業界ということで反対されたということがありました。説得してもご理解いただけず、内定辞退されてしまったことなどをきっかけに、社名を変える決断をしました。

 社名から印刷を外したことで、社内に対して、「これからは印刷だけじゃダメなんだよ」というメッセージが伝わりやすくなり、他の仕事を取ってくるハードルが下がったメリットはありますね。お客様からも印刷以外の相談をしていただきやすくなりました。一方で、何屋さんかわからなくなったというデメリットはありますけど(笑)

異業種からの転身!印刷会社の社長を選択した理由

—— 井戸社長はフジプラスに入社される前、どんなお仕事をされていたのですか。

井戸氏 僕が大学生の頃は、ちょうどバブル。父親が事業をやっていることはもちろん知りながらも、あまり仲もよくはなかったので、父親の会社に入る発想はありませんでした。当時、テレビドラマで見ていた国際金融マンに憧れて、ダブルのスーツを着て、ニューヨークを歩きたいという理由から、銀行に入りました。ところが配属されたのは、住宅地の個人営業。定期預金や年金受給口座の肩代わりの営業でした。イメージしていた華やかな世界とは、全然違いましたね。その後、異動してからは、上場企業の融資担当になりました。

 30歳手前になって世の中の仕組みが見えてきた頃に、弊社のような規模の会社は後継者がいないと大変なことになるとわかったのと、結婚して子どもができたタイミングということもあって、父親の会社に入ることにしました。

—— まったくの異業種から転職されて、どう感じましたか。

井戸氏 働いている人のモチベーションや考え方には、ギャップを感じました。今思えば、あの頃の自分は、すごくプライドが高くてツンツンしていましたね。でも、そのうち「そんなにえらそうにする必要性なんてないよな」と気づいて、自分を変えるように努めました。

 最初は平社員で入って、10年くらいかけて常務になっていったのですが、38歳のときに、いろいろな考え方の違いから、もうこれ以上、父親にはついていけないなと思って、「会社を辞める」と伝えたんです。そうしたら、「だったら俺が辞める」と。そこで社長交代が決まりました。

—— 葛藤はありましたか?

井戸氏 そりゃ、いろいろありましたよ。でもやはり会社をどう変えていくべきかはすでに見えていましたし、金融業界で働いたおかげで経営を見る目が少しは養われていたと思います。だから変革を起こさなければいけないという自信につながっていたと思います。今でも売上げではなく利益にこだわっているのは、そのときに学んだことなのかもしれません。

印刷業界で生き残るために

—— 今、力を入れていることは何ですか。

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井戸氏 これまで印刷の前工程にばかり力を入れてきたのですが、最近は工場に手をかけていて、自動化による効率化を図っているところです。印刷業の仕事は、紙の上にインキをのせることに変わりはないものの、その中身は大きく変化しています。20年前はロール紙で大量印刷していればよかったのですが、今は新聞を読む人が減って、折り込みチラシの需要が減ってきています。また、カタログなどについても、小ロット化し、セグメントしながら印刷・配送するようになり、状況は大きく変わってきています。大量に刷ったものを納品すると、お客様が在庫を持て余してしまうので、SDGsの観点からも、少部数をこまめに発送するほうが、よっぽどマシなんですね。ただ印刷するのではなく、自動化できるところを見極めて効率化を図ると同時に、持続可能な状態を築くために投資をしていくことが大切だと考えています。

—— 自動化も含め、新しいことを始める上で、現場からの抵抗はありませんでしたか。

井戸氏 最初はありましたよ。でも、僕たちの仕事は何なのかと自問自答したときに、僕たちは販売支援の印刷物しか作っていなかったんですね。とはいえ、印刷物はどこの機械で印刷しても一緒。その前工程で差別化するしかないし、“紙の上にインキをのせること”ではなく、“お客様の商品やサービスを売るお手伝いをすること”が僕たちの仕事だと考えたほうが、スッキリすると思うんです。そうやって新しい領域に手を広げるハードルを下げてきたので、今では新しい変化を楽しんでもらえるようになっていると思います。

—— 印刷業界において、最も課題に感じていることは何ですか。

井戸氏 紙の使用量はこれからも落ちていきますから、普通にやっているとどんどん落ちていくマーケットですよね。そんな中で、自社の強みを生かして新しいことにチャレンジしていかなければ、生き残ることは非常に難しいと思っています。

 しかし、これは何も印刷業界に限った話ではありませんよね。日本の人口が減っていく以上、高度経済成長期と同じやり方を続けているだけでは、生き残っていけないというのはどこのマーケットでも同じであるはずです。今まで正解だと思っていたことは、これからの正解ではないということを、肝に銘じておかないと。世の中の多様化に臨機応変に対応していくことが大切なのではないでしょうか。

 また受注産業といわれていた印刷業界ですから、お客様の要求のみを聞いていればよかった時代もありました。でも今はいろんなところに足を運び、お客様の訪れている変化を実際に見て感じることも重要だと思っています。私が毎週東京に来ているのもそういう理由です。東京と大阪だと圧倒的に情報量が違います。

—— 昨年、ベトナムにフジプラス・ダナンを設立されて、グローバル展開も初めておられますが、今後はどのような展開をお考えですか。

井戸氏 Web to PrintやAPI to Printといったデジタル印刷をより円滑に流していくことが増えていけば、拠点の場所について国内外の差はあまりないと思います。納品先が日本の仕事を海外で請けて、日本で印刷して納品する、という仕事を始めていますが、こうした流れが十分広がっていく可能性はあると思います。ダナンの拠点には非常に優秀な方々が集まってきていますので、日本と連携しながら、その方たちと一緒に動いていくのを楽しみにしています。

—— では最後に、印刷業界で挑戦する次世代の若手社長に向けて、メッセージをお願いします。

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井戸氏 不況業界はあっても、不況会社はないと思っています。言い訳をし出したらキリがないけど、言い訳せずにどれだけ努力していけるかが重要。何かを変えると、いろいろなところで軋轢が生じたり、反発があったりするのですが、逆にそこで何も問題が起きなかったら、成長もありませんよね。苦しみながら、楽しみながら、常に起きる問題の解決に向けてできるだけ早く動いていけばいい。新しい分野にチャレンジをして、苦しんだり、楽しんだりする毎日のほうが刺激的で楽しいですよ。そしてそんな社長のことを社員たちはみんな見ています。

 今回のインタビューのような記事をちゃんと読んで(笑)、情報を仕入れようとしている姿勢こそが重要ではないかと思います。

【本記事は JBpress が制作しました】

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