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2020.03.19

サービス業へと変貌することが印刷会社の未来へつながる

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デジタル時代を迎えて印刷というビジネス自体が伸び悩む中、印刷業界にはどんな未来が待っているのだろうか。印刷および関連産業の発展、貢献を目的として1967年に創立された内閣府認定の公益社団法人日本印刷技術協会(略称・JAGAT、ジャガット:Japan Association of Graphic Arts Technology)専務理事の郡司秀明氏に印刷業界の取り組みと将来の可能性について話を聞いた。

日本の印刷技術レベルは世界一

ー日本の印刷業界は欧米に比べてデジタル変革が遅れているという指摘もありますが、どう思われますか?

郡司 秀明氏(以下、郡司氏) 遅れているという表現は適切ではないと思います。日本人はどんな分野でも高い改良する能力を発揮してきました。印刷の世界では異なる印刷物を組み合わせてコストを最適化するギャンギング*の技術に優れていて、アナログ印刷でも低コストを実現してきました。
加えて日本の印刷品質は世界一です。高い品質の印刷物を低コストで作れるために、あえてデジタル印刷に向かう必要がなかったのです。イギリスで誕生した印刷通販はドイツで改良されましたが、日本がさらにリファインして群を抜いて高いレベルに達しています。
一時期はデジタル印刷の方が安くできると言われてきましたが、コストという面でもアナログ印刷で見合うようになっています。だからアナログ印刷が今でも主流なんです。今では印刷会社が印刷通販を利用するほどです。
*異種多面付けという面付けの一種

ー欧米がデジタル印刷にシフトしているのは何故なのでしょうか。

郡司氏 アメリカではギャンギングのような熟練の技より、新しい機械を使ってスイッチ一つである程度の印刷物が安く早くできた方が合理的だと考えています。だからデジタル印刷が一足早く普及したのではないでしょうか。

キーワードは“デジタル×紙×マーケティング”

ーただ、最近では中小の印刷会社でもデジタル印刷に取り組むところが増えているように思うのですが。

郡司氏 それは単純にアナログ印刷をデジタル印刷に置き換えているのではなく、印刷業界のビジネス構造に変化が起きていると捉えるべきでしょう。
 今までの印刷業界は受注産業でした。受けた印刷の仕事を完璧にこなすのが目標になっていました。高い品質の印刷物を作ることを追求してきたわけです。ただ、商業印刷の場合、目的は印刷物を作ることではありません。その印刷物で効果を上げること、つまり売上を上げることです。
 例えば、パンフレットは今まで一冊で豪華なものが良いとされてきました。しかし、生活レベルが上がって、消費者のニーズが多様化するようになると、印刷物にバリエーションが求められるようになってきました。いろいろなパターンのパンフレットを用意して、どれが最も効果が高いのかを試すようなスタイルになっています。
 そこに拍車を欠けているのがIT化です。クライアントが膨大なマーケティングデータを持ち、顧客をセグメンテーションするようになって、印刷物もそれに対応することを求められるようになってきました。現在ではO2Oマーケティングを実践するところも出てきて、個々のお客様のニーズを探るようになっています。

ーマーケティングの進化に伴って印刷会社に対するニーズも変わってきているということですね。

郡司氏 マーケティングの進化というより、顧客のニーズが見えにくい時代になったことで、どうしたら良いのか一緒に悩んでくれる印刷会社の方が、喜ばれるようになってきています。完璧な印刷物を作るよりも、どちらが消費者の反応がいいのかを試すA/Bテストを提案していく。クライアントはそこに印刷会社の新たな価値を見出しているんです。

 JAGATでは30年以上にわたってpageという印刷業界向けのイベントをやっていますが、このイベントもここ3年間は“デジタル×紙×マーケティング”というテーマでやっています。マーケティングデータと連動して紙のデジタル化を進めるべきだという考え方です。
 今年はそれがこれからの食い扶持になるという意味を込めて“デジタル×紙×マーケティング for Business”としましたが、やっと本気で取り組むところも増えてきましたが、まだまだ少ない。早く始めたところは大きなアドバンテージが得られるだけに、どの印刷会社にとっても大きなチャンスだと思いますね。

新たな領域への挑戦が始まっている

ーマーケティング領域に踏み出した印刷会社には大きな可能性があるということでしょうか。

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郡司氏 印刷だけというところは行き詰まってきていますが、マーケティング活動と絡んでビジネスを展開しているところは上手くいっています。
 例えば札幌のフュージョンは印刷会社から独立してできたダイレクトマーケティング専門の会社ですが、印刷会社ならではの発想でマーケティングの支援を行っています。マーケティングのプロジェクトに必ず最初から参画しているのがポイントですね。
 印刷会社でありながらも、デジタル化を進めてマーケティング領域にまで踏み込んでいる会社もいくつも出てきています。JAGATの印刷物をお願いしているウイル・コーポーレーション、SFAを活用している大洞印刷、長野で独自のビジネスを展開する小松総合印刷などでしょうか。
 また、印刷物を使う側と作る側をとりもつコンサルティング会社も出てきました。goofでは、デジタル思考で紙メディアを見直すことを得意としていて、どう展開して良いのかわからない印刷会社をコンサルティングするようなことにも取り組んでいるようです。

ー印刷会社という枠組みを超えた取り組みが増えているようですね。

郡司氏 デジタル技術を駆使して小ロットで出版社をサポートするケースも増えています。印刷会社や印刷機器メーカーなどが協業して中小出版社向けの小ロットの出版サービスを提供しているデジタル・オンデマンド出版センターがあり、講談社やKADOKAWAといった出版社系で小ロット出版に取り組むグループも出てきました。
また、コミックマーケットから出発し同人誌印刷を得意とし、同人活動を総合的にサポートするねこのしっぽ、化粧箱から段ボールケースまで一貫して自社でカバーし、「ハコプレ」という箱のパッケージの印刷通販に取り組む共進ペイパー&パッケージ、オンデマンド印刷で広告を集めたフリーマガジンを発行しているユニバーサルポストといった異色の企業がどんどん出てきています。

これからも活躍できるポテンシャルは十分

ーそれだけ業態が変わってくると求める人材も変わってきそうですね。これからの印刷業界にはどんな人材が必要になるのでしょうか。

郡司氏 大きく捉えれば製造業からサービス業に変わってきつつあるわけですから、今までとは全然違う人材が求められます。まず大事なのが会話ができることです。相手の話していることが理解できるだけでなく、自分の考えをわかりやすく伝えられなければ仕事になりません。会話からビジネスが始めるわけですから当然です。
 今クライアントから求められているのは、一緒に考えることです。自分の考えを押し付けることではありません。主張するばかりではなく、相手のことを理解し、その上で印刷会社ならではの、素晴らしいデザインを提示して欲しいですね。

ー人材教育についてはどんな対応をとっているのでしょうか。

郡司氏 やる気になっている会社は躍起になって資格取得を奨励しています。JAGATのクロスメディアエキスパートをはじめ、ネット関連やマーケティング関連の資格取得を強化しています。人材が育てられなければ企業買収という手段をとることもあります。

ー印刷業界にはどんなことを期待していますか。

郡司氏 印刷業界ならではの強みを活かせばチャンスは沢山あります。それだけにこれまでのような待ちの姿勢では勿体無いです。
 強みは大きく2つ。一つは色々な業界と接点を持っていることです。学会誌を印刷しているなら学会の運営を手掛けるとか、申込書を印刷しているなら受付サービスを請か負うとかビジネスを広げていけるはずです。
 もう一つの強みは、実はデジタルに強いことです。フォントや文字コード、色に関する専門知識、4Kについても知っているはずです。HP Print OSが広がればネットワークを通した協業もできるようになります。
 印刷会社はこれからも活躍できる素地を持っています。JAGATとしてもバックアップして行くので、視野を広く持って事業を広げていただきたいですね。

【本記事は JBpress が制作しました】