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2020.03.26

デジタル印刷で売上6期連続右肩上がりへ。その秘訣とは?

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地方の小さな印刷会社がHP Indigoを導入後、右肩あがりの成長を続けている。社員数は30名。売り上げの50%は、県外の顧客が占める。

今回、取材したのは、和歌山県に本社をおく株式会社マージネット。減少が続くアナログ印刷の中で変化する商業印刷の世界をどのように見つめ、どんな舵を切ったのか?そして地域に根差す印刷会社がなぜ日本全国を相手にビジネス展開することができたのか?「HP Indigoの導入は本気で変革を伝えるシンボルだった」という池田 朗 代表取締役社長に、その軌跡を聞く。

アナログの限界。必然だったデジタルへの変革

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平成元年(1989年)、周囲を豊かな自然に囲まれた和歌山県西牟婁郡上富田町に、デザイン会社「株式会社ぱじゃ」を設立。いち早くDTPを導入するなど、最新の技術を取り入れながら地元和歌山の地に基盤を築いていく。

その後、デザイン業務を内製化し業務拡大を進める印刷会社が増えてきたことから、大きな方向転換を決断する。平成14年に印刷機と製本機を導入し、社名を株式会社マージネットに変更。総合印刷会社としてあらたなスタートを切ったのだ。

以来、「業界知名度100%へ」というビジョンのもと、和歌山の一印刷会社の“挑戦”がはじまる。

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株式会社マージネット 池田 朗 代表取締役社長

「老舗の印刷会社が多い業界で、私たちはかなりの後発になります。経験も実績も少ない。そこで競合他社とどこで差別化するかを考えたとき、同じことをしていたらどうしても経験値やネームバリューで負けてしまうので、他社が取り組んでいない分野に注力していこうと、そこに勝機があると信じて前に進んできました。」

早い段階からオフセットUV印刷機の導入に踏み切り、UV擬似エンボス印刷などの最新の技術を取り入れるなど、つねに他の印刷会社ではあまり見られないサービスを模索。創業時からの強みである質の高いデザインから印刷、製本までを一気通貫して行うサービスが評価され、カタログやパンフレットの印刷を中心に、地元のシェアを確実に広げていった。

しかし、ペーパーレス化の波の影響でロットが激減。たとえば1万部刷っていたのが翌年は5000部になるなど、印刷物の数は目に見えて減っていった。

「今後、さらにペーパーレス化は加速する。このまま同じことをやっていたら10年後まで会社がもたない。何か新しいビジネスを考えなければ――。」

カタログやチラシで着実に地元のシェアは獲得できていたが、デジタル化が社会に浸透し、技術が進化していくなかで、5年後、10年後を見据えたときに、これまでやってきた紙の印刷物が激減することは明白だった。

池田氏は、先の見えない、強烈な危機感の中で、デジタルへの変革は他に選択肢のない必然のことだったという。

新しいビジネスと全国へ拡大するビジネスの創出

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マージネットのアプローチはシンプルだ。

“最新のデジタル印刷機を使って何ができるか?”発想の起点は、つねにテクノロジーから考える。

そして決断したら迷いがない。決断も早いが決断したあとの行動も早い。最新の印刷機でできることを模索し、“圧着DM”という答えを導くと、すぐに圧着DMに特化したインフラを整え、会社の主事業に据えて商品開発に取り組んだ。そしてこの圧着DMの商品のポイテンシャルを最大限に発揮するために、池田氏は営業改革にも着手した。

地道な営業とMA導入で県外へ

ひとつは、商圏の拡大だ。現在、和歌山県の人口は100万人を切り、減少傾向はいまだ止どまらない状況だ。一方で人口も企業の数も、東京をはじめ、札幌、仙台、大阪、福岡など、都市圏に集中し、地方は減少の一途にある。地理的なディスアドバンテージは、多くの地方企業が抱える悩みだ。

しかし圧着DMの商品は、もうひと工夫加えることでこの商圏を和歌山にいながら拡大することができた。

「設備投資を進めても地元にこだわっていたら限界がある。これは多くの地方企業にとって悩める課題ではあるのですが、それならば商圏を県外に広げていくしかない。発想そのものはシンプルだし、選択肢もないので、決断は早いです(笑)。あとは、どう攻めていくかを考えるだけでした。」

全国展開は、大きく2方向からアプローチした。ひとつは、業界の大きな展示会に出店。平成20年には東京営業所を設置。そこで地道な営業活動を行い、新規の顧客を獲得していった。

もうひとつは、営業面でMAを導入し、社内のデジタル化を推進。マーケティングの導入である。ホームページなどのデジタルチャネルを駆使しながらひとりで西日本全域を担当できる仕組みと体制を整えるなど、マーケティングを活用しながら取り引き先の拡大を図っていった。

「MAとMISを連動させることで、お客様のフォロー体制を徹底しています。これまでのフェイス・トゥ・フェイスの営業方法や仕組みだと、営業マンはどうしても目先の案件に集中してしまい、過去に取り引きのあったお客様でもフォローがおろそかになってしまいがちです。しかし、MAを活用することでお客様の行動を可視化でき、効率のよい営業活動ができるようになりました。また、経営の見える化とも連動し、マーケティングと経営を連動することでどのお客様に優先度を置くか、どのお客様は今は待っておくだけでよいかなどの判断が可能になりました。物理的な距離を超え、お客様ごとに打つべき手がわかってきたのです。デジタル印刷を導入すると同時にこうしたフロントエンドのデジタル化を図ることで、時間軸と距離の両軸の問題を解決し、ひとりあたりが担当できる案件を大幅に増やすことを実現しました。」

社内のワークフローをペーパーレスに

さらに池田氏は、社内の変革を進める。印刷会社ながら、印刷会社を悩ます世間のペーパーレス化を自社でも積極的に取り入れたのだ。

「これまでは営業が獲得してきた案件を作業指示伝票に入力し、プリントアウトして各工程に提出して作業を進めていましたが、この指示書そのものを発行しないような仕組みをつくりました。社内はすべてタブレットで発注から進捗管理まですべてを行うようにしています。たとえば、受注後に納品先や印刷部数の変更がある度に書き直しをして指示書を再発行しなければならなかったのが、今はすべてデータを修正するだけですみます。慣れるまでは違和感がありましたが、現場も慣れればメリットのほうが大きいことがわかった。社内のデジタル化を推進したのは、こうした働き方、生産性の改善という点も最大限に考慮して進めました。」

こうしたマージネットの成功からは、ただデジタル印刷を導入しただけでは、真のトランフォメーションにはならないことがわかる。新しい顧客とビジネスの創出、社内の仕組みなども同時に変革を進めていくことで、デジタル化のメリットは最大化されるのである。

若い世代の人材不足。地方がゆえの雇用問題

もうひとつ、デジタル化を進める大きな理由として、地方企業ならではの課題があった。雇用の問題だ。

県内には大学数が少なく、高校を卒業すると県外の大学に進学し、そのまま地元には戻らずに就職する人が多いという。その結果、マージネットも含め、和歌山県に本拠を置く多くの企業にとって雇用問題、とくに若い世代の人材不足は、大きな課題となっていた。

池田氏は、こうした人材面の課題に対しても、社内のデジタル化の推進が必要だと考えている。

「これは多くの印刷会社に共通する課題のひとつとして、アナログ印刷機ではオペレーターのスキルによって印刷の質が変ってしまうという問題があります。ある意味営業も同じで、経験とスキルが問われてきたのが印刷会社のこれまででした。

だからこそ印刷会社において職人とも呼ばれるベテランの方々は、昔も今も、そしてこれからも重要な存在なのですが、ずっと働いてもらえるわけではありません。こうしたある意味で属人化してしまいがちな技術を、デジタル印刷機を導入することで平準化することができると考えました。つまり、新しい技術は今からきちんと学べば、入社1年目からでも最前線に立って作業ができる。しかもそれはグローバルで標準となりつつある技術。これもHP Indigo導入の際も考えた大きなメリットでした。」

ときに新しい考え方、テクノロジーは、デジタル世代である若い世代のほうが取り組みやすく、従来のアナログ印刷よりも、デジタル印刷を取り扱う仕事のほうが若い人にとっては魅力的に映る可能性も高い。何よりも「デジタル印刷ならば、新しい印刷物を実現し、さらにさまざまな付加価値をつけて、新しいビジネスを創出していくができる」。学生に向けてこれからの印刷業界を語るときに、こうした未来への道をアピールすることが、若い世代を印刷会社へ目を向かせるポイントになるのかもしれない。

求められるDXの深化。地方から業界の変革を促す

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営業体制を改革し、さらにHP Indigoを導入したことでデジタル化は加速。HP Indigoのバリアブル印刷の機能を最大限に活用し、今では全国から圧着DMの受注数を着実に伸ばしている。「マージネット=圧着DMの会社」のブランディングにも成功したが、池田氏は、2、3年後を見据えたときに、デジタルトランスフォーメーションをさらに深化させていく必要があるという。

「HP Indigoを使って作成した圧着DMには、その結果データからさまざまなことが読み取れます。たとえば、お客様が新しい販売戦略を立てるときに、その初期段階から会議に同席をして、取得したデータをもとにマーケティングの観点から新しい問題点を分析したり、解決案を提案するような取り組みを始めています。お客様にとって社内に人材をさけられない細かい部分を、私たちがサポートする、という座組みです。こうして上流工程をお客様と一緒に計画させていただくことで、通常であれば共有できない情報なども共有してもらえるようになり、よりお客様に寄り添ったアイディアが提供できるようになると考えています。」

これからは、印刷物を納品するだけでは生き残れない。しかし、印刷物に付加価値をつければサービスは広がり、新しいビジネスを創出することにつながる。デジタルデータをきちんととりそこから課題を見つけ、きちんとフィードバックを行う。そうしたプロセスを踏める社員を育成すること。それこそがデジタルトランスフォーメーションを実装する最大のメリットだと言えるだろう。

そしてもうひとつ、池田氏は、全国のHP Indigoユーザーとの連携を期待する。

「一般的に地方の印刷会社は、どうしても地元の商圏がメインになりますが、HP Indigoを導入したことをきっかけに、私たちは売り上げの半分は県外のお仕事で獲得することが実現できました。これはデジタル化したからこそできる、地方企業の可能性でもあると思っています。

しかしデジタルで商圏のボーダーがなくなったとはいえ、首都圏の印刷会社と比べるとやはり物理的な地方のデメリットをゼロにすることはできません。そこで今後の可能性として考えているのが、他社との連携です。各地方の中小の印刷会社がHP Indigoをハブにして協働していければ、印刷業界そのものを盛り上げていくことができるのではないかと考えています。」

これまでの競合を競合としてだけ見るのではなく、協働相手として組み、お客様にトータルソリューションを地理的なハンデを感じさせることなく提供していく。縮小が続いてきた印刷業界にとって、地方の印刷会社が起点となって業界の変革を促していく。これも、デジタルトランスフォーメーションをきっかけとして見えてくる可能性なのだ。