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2020.06.26

印刷業界の皆さんと考える「デジタル印刷と共に見る未来」。日本HPが推進するデジタルトランスフォーメーションとは?

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2020年春、未曽有のウイルスに全世界が襲われている。世界各国でロックダウン(都市封鎖)や、日本においては歴史上初となる緊急事態宣言が発令され、さまざまな制限と経済との両立の難しさに多くの国と人々が苦しみながら毎日を過ごしている。緊急事態宣言が解除された今も、経済の回復は簡単ではないことが各所でわかり始めている(取材は2020年5月末)。これまで変わりゆく印刷ビジネスを世界の潮流とともに見てきた日本HPもまた、先行きの見えない不確かな時代に向けて、より本質を押さえた日本の印刷業界の支援を試行錯誤しながら進めている。

株式会社日本HP デジタルプレス事業本部 カテゴリー本部 本部長 山田大策氏は、「マイナスの影響は避けられない一方で、こうした状況は、印刷会社にとってはむしろ千載一遇のチャンスだと私たちはとらえています。この状況をベースに将来を見定めたとき、日本の印刷会社が培ってきた高い技術力とデジタルが融合することで印刷の新たな価値を世に提供できる。結果的に、海外の印刷業界に劣らない新たな印刷モデルが国内に根付くようになる」と断言する。日本HPは、アフターコロナの世界を見据えながら、デジタル印刷と共にどのような未来を描いているのか。日本HPで印刷会社のデジタルトランフォーメーション(DX)を推進するふたりのキーパーソンに話を聞く。

コロナ禍で変わるもの、変わらないもの

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株式会社日本HP デジタルプレス事業本部 カテゴリー本部 本部長 山田大策氏

コロナ禍で世界中が苦悩するなか、イギリスで興味深い事象が起きた。互いの安否や健康を願い、グリーティングカードを贈る需要が、クリスマス時のピーク時を超えたというニュースだ。人と人の物理的な接触が制限されている状況下で、イギリスの人々はカードというパーソナライズされた印刷物をギフトとして贈りあい、絆を深める充足感を求めたのである。

こうした人の“思い”や“感情”をカタチにすることこそ、これからの印刷会社の重要な役割になると山田氏はいう。

「不急不要の外出を控えざるを得ないという急遽、課せられた制約によってこれまで盲目的に習慣化されていたことや、惰性的に行っていたことが強制的に止められ、人々の考え方や行動は大きく変わってきました。当たり前だったことが見直され、何がどう変化し、また何がこの状況でも変わらなかったのか、はたまた今後元に戻る可能性があるのか、すべては仮説にしかすぎませんが、何が本質かを考えながら迅速にアクションすることが求められています。

最初の大きな変化は、人が動けない状況下でも経済をまわしていかなければいけないという課題です。イギリスのグリーティングカードの例で振り返ると、贈り主は外に出なくても自宅にいながらスマホから手配ができたわけです。つまり受ける印刷会社がDX実装済みであるがゆえに実現できるサービスであり、仮に営業活動に大きな制約を受けたとしても最小の人数で事業を継続できるモデルの重要性をも裏付けています。

また、単に連絡をとるだけならEメールやSNSの範囲で済むのは当然の話ですが、多くの人がそれぞれのメッセージをわざわざ物理的な器に包んでその気持ちを届けたかったという事実。ここから大切な誰かを気遣うという、人の根本的な欲求は変わらないことを確信するとともに、あの人は今どんな時間を過ごしているのだろうか、そういった人が人を想う熱量をそれぞれのカタチに変換して表現できる印刷物の価値が大きく見直されつつあります。」

人と人がつながることは、生きるうえでの本質である。その大切さは物理的な制約を伴うと、人々によりその尊さを思い直させてきた。地球上の人は、そうやって社会や文化を築き上げてきたのである。さらに山田氏は続ける。

「一方で、SNSに代表されるデジタルコミュニケーションの浸透によってブランドオーナーとその先の消費者の情報格差は減少し、徐々にその選択権が消費者に移ると言われています。今後は今まで以上に気持ちを込めてつくりあげた製品を大事に顧客に届け、その顧客との対話による関係性が企業としての強みになる時代が目の前に来ています。これはコロナの以前からの潮流でしたが、コロナがデジタル化の必然性を裏付けたことに伴い、この潮流の浸透を早めるとも言われています。

こうなると、商品に込められたブランドのビジョンやミッションをダイレクトに消費者に伝えたいと願うブランドオーナーにとって、人の想いや感情を体験化して伝えることができる物理的な印刷物はなくてはならない存在になります。これこそ日本HPが考える再定義された印刷の価値であり、これまでもHP Indigoによって人と人とのコミュニケーションを彩る多くの体験を国内外で創出しています。」

つまりコロナ禍で突きつけられた変化は、これまで水面下でしかなかった需要を表面化させ、その変化を現実のサービスとして提供していくためのDXは、印刷会社にとって必須事項となったと言える。

「こうした状況は、印刷会社にとってはむしろ千載一遇のチャンスだと私たちはとらえています。そしてこのチャンスを活かすためにも、印刷会社は自社の強みをあらためて整理し、対象とする顧客ニーズに基づいて、人が動かなくてもモノを柔軟に提供できる仕組みを構築しなければならないと考えています。」

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山田氏が指摘する「印刷物の価値の再定義」とは、データを活用してよりそれぞれのお客様に最適化された印刷物を提供しながら、送り手と受け手が意味ある関係性を構築することにある。ブランドオーナーとその先の顧客との関係性を深める“感情”をカタチにし、特別な体験を通して印象づける媒体をタイムリーに量産することが、印刷会社にとっての新たなビジネスの創出につながる。

すでに世界各所で多くのスタートアップがデジタル印刷テクノロジーと顧客データを活用したマーケティングを掛け合わせ、ブランドオーナーと共に新たなビジネスモデルの創出に乗り出している。DXそのものの必要性はコロナ禍の前から変わらないが、その展開スピードは間違いなく、コロナの影響でさらに前倒しが求められることになったのだ。

なぜ日本HPはDXを推進するのか?

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日本HPが推進する印刷会社のDXとは、印刷会社それぞれの強みをクライアントが求める価値に紐づけ、継続的に収益を得る仕組みをデジタル技術を中核に据えながら構築し、継続的な改善活動をサポートすることだ。

日本HPがDXを推進する背景には、デジタル印刷の活用で先行する海外市場においてDXソリューションの展開が、印刷業界におけるアナログToデジタルを大きく加速させた事実に基づいている。

「とかく印刷機のスペックが焦点になりがちでしたが、転機はdrupa2016のPrintOSのリリースでした。世界中の既存顧客の声に基づいて設計された印刷機の能力を最大限に引き出すためのクラウドプラットフォームです。顧客とのデータ連携を含めたプリプレスの最適化と自動化によって、今までの点(印刷機)の議論が線(ビジネスモデル)へと移行し、世界におけるHP Indigoの出力数は加速度的に増加しました。

また、クライアントと印刷会社を結ぶ印刷工程軸をx軸とするならば、印刷機の稼働ビッグデータに基づいた各種ビジネス分析への縦のドリルダウンをy軸、そしてAPIによって必要な時に必要なシステム連携を可能とするソリューションパートナーとの連携軸をz軸に取り、印刷会社のビジネスモデルを立体的な切り口から改善を進めることができます。

まずは経済合理性に基づいた小ロット、短納期ジョブの取り込みを前提としたアナログToデジタルの推進がDXの最初のステップ。並行してPrintOSを活用したブランドオーナーとのダイレクトビジネス設計や印刷系のプラットフォーマーとの協調I/Fの構築を含めて、今後の不確実性を乗り越えるための柔軟なDXが求められます。

すべての軸においてデータが蓄積しますので、ここから改善点を抽出し、継続的にそのループを回す文化を根付かせることが重要です。HPが一緒にサポートできる強みになります。」

テクノロジーを前提に、変化に強いビジネスモデルを構築し、運用が継続するための意識改革を支援する。すべては変化に強い未来を担う印刷会社を、日本の中で一緒につくりあげていくためだ。これが、日本HPが目指すDXのひとつの大きなゴールである。

印刷会社と共に成長する。
“伴走”する日本HPのBD(ビジネス開発)サポート

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株式会社日本HPデジタルプレス事業本部 カテゴリー本部 ビジネスデベロップメントマネージャー 仲田周平氏

日本HPが展開する印刷会社のビジネス開発(BD)のサポートは、印刷機というハードを提供するだけでなく、経営効率化のコンサルから印刷の価値を再定義する印刷サービスの構築や、新しいビジネスの創造を支援する。

では、具体的にどのような支援をしているのか。デジタルプレス事業本部 カテゴリー本部 ビジネスデベロップメントマネージャーとして、数多くの印刷会社のコンサルを行う仲田周平氏は、日本HPのDXサポートの特長は、印刷会社に寄り添いながらDXを一緒に推進する“伴走”にあるという。

「DX推進のひとつの目的でもある “仕組みの継続的な改善により収益を得る”ためには、具体的にどうすればよいのか。この施策の軸となるのが、データの活用です。

デジタル印刷機の特長のひとつに、さまざまな行動や活動をデータ化し、可視化できることが挙げられます。その可視化されたデータに基づく改善行動を導き出し、つねに生産性の向上や効率化に向けたアクションにつなげることができます。たとえば、PrintOSXの各アプリケーションを活用することで、インシデントの分析により生産工程での無駄を排除し、工程全体の可及的自動化により効率化を図ることで収益の“益”の部分の向上を実現できます。

またHP Indigoには、プレディクティブ・ブレスケア(PPC)という予防的なプレスケアを行う機能が実装されています。運用や機械の状態をつねにデータで管理し、そのログデータから起き得る障害をAIが予測してアラートする機能により、トラブルを事前に防ぐこともできるのです。

人の支援、コンサルだけでなく、つねにこうした最新のテクノロジーによってもサポートし、すぐに行動に移せる包括的なサポート体制にあることが、日本HPのビジネス開発支援の大きな特長です。」

ハードウェアの機能を安定して最大限に活用するための一連のモジュールは、HP Indigoデジタル印刷機を購入すると無償で提供されるPrintOSX(クラウドサービスの総称)に搭載されている。すべての印刷機がクラウドにつながっているため、必ずしも現場にいなくても機械の状態を把握することも可能だ。つまり、たとえコロナ禍のような状況下でリモート勤務になったとしても、PrintOSXを通じてつねに運用状況や機械の状態を把握することができる。労働力不足に悩む印刷会社にとって、最小限の人員で管理できることは大きな魅力となるだろう。

また、実装支援からその後のビジネス開発まで伴走するサポートの一環として、さまざまな情報を共有し、刺激を受け、つながる“場”を提供していることも大きな特長だ。提供する“場”は大きくふたつある。ひとつは印刷会社とブランドオーナーがつながる「ブランドイベント」、もうひとつはIndigoユーザー同士がつながる「Dscoop」と呼ばれるユーザー会だ。

「印刷会社にとってデジタル化が進み、体制が整ったとしても、ブランドオーナーとのつながりがなければ、新しいビジネスの創出はできません。またブランドオーナーにとってもDXを実装しているプリントサービスプロバイダーとパートナーシップを築かなければ、求める価値をこの先、実現できないでしょう。そうしたDXの効果を価値として具現化する機会を創出するのが、ブランドイベントになります。

また、Dscoopは、現在、国内外を含めて10,000人のユーザーが登録。つねにクラウド上で情報交換を行いながら、年に数回イベントも開催され、互いの情報を共有する場となっています。日本ではまだ“協働”という概念が浸透していませんが、海外ではゆるやかなネットワークでつながることで、1社では対応しきれない大きな案件も協働して取り組むことが少なくありません。」

一瞬で複数のIndigoユーザーがつながり、一瞬で目的のための活動に移すことができる。こうした国内外を問わず、さまざまな印刷会社がボーダーレスに協働する世界も、日本HPが描くDXのカタチのひとつだ。

テクニカルサポートだけでなく、フロント・バックエンド、営業支援、さらにフェーズごとのコンサルなど、さまざまな角度から支援し、印刷会社と一緒にDXを推進していくのが、日本HPのビジネス開発サポートである。

DX推進の課題と、DX実現後の未来

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DXを推進するうえで、いくつか解決しなければならない課題もある。特に多くの印刷会社がぶつかる壁は、デジタル印刷機を導入した先の変革だ。

デジタルシフトの重要性は理解し、印刷機の導入までは決断したが、DXを推進する本質は、新しいビジネスにチャレンジし、創出していくことにある。そのためには、インフラの整備だけでなく、ワークフロー、スキルセットの再設計、人事評価制度なども含めて組織そのものも変革していく必要がある。

「DXの難しさは、事業を始めたとしても、大量印刷を主事業としていた時代に比べて1件あたりの売上そのものはさほど大きくなく、すぐに成果も出しづらいところにあります。したがって、経営者は中長期の計画を立てて進めていく根気が必要です。デジタルになっても印刷そのものは大きく変わりません。しかし、できることがまったく違う。そこにチャレンジしていくわけですから、これまでのビジネスの延長線上で考えるのではなく、まったく新しいビジネスにチャレンジする、そのくらいの気構えで取り組んでいかないと軌道に乗せることは難しいでしょう。実際に私たちのユーザーでもそのような覚悟をもって挑んだ皆様が成功を収めています。」(仲田氏)

DX推進でもっとも重要であり、大きな課題は「継続すること」だと仲田氏は言う。DXを実現させビジネスを創造していくフェーズまでいくには、数年の時間がかかる。だからこそ、デジタル変革は少しでも早く着手する必要がある。

では、数年後、印刷業界にDXが浸透した未来は、どのような世界になっているのだろうか。最後にふたりに聞いてみた。

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「DXを実現することで、ブランドオーナーへの多様なニーズにも対応できるようになり、受注生産体制からマーケティングパートナーになることができます。さらに多くの印刷会社にとってこれからの市場は国内だけでなく、国境を超えて世界が対象になるでしょう。世界中のIndigoを所有する印刷会社とパートナーシップを組めれば、クラウド上にデータを上げるだけで、国境を超えて印刷することができるようになります。

この状況は、日本の印刷会社にとっては大きなチャンスだと思っています。DXが進めば進むほどアジアを中心に世界が市場となるわけですから、言い換えれば日本が培ってきたラストワンマイルの品質改善力と最新デジタルテクノロジーを融合することで、日本独自の価値を世界に発信できるはずだと考えています。

一旦パラダイムシフトを受け入れた後の日本人の改善スピードはとにかく速い。さまざまな業界において世界を驚かしてきた歴史が証明しています。

すでにDXを実装して世界を驚かせるような成果を出している日本の印刷会社も出始めています。世界中の変革は、日本にとって驚異ではありますが、逆に日本の企業が本当の意味でのデジタルシフトを受け入れ、DXを推進すれば今からでもチャンスは無限に広がる。私たち日本HPは確信を持っています。」(山田氏)

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「行動データの蓄積は、今ではデジタル上のみからではなく、店頭に訪れた人やイベントへの参加履歴などのフィジカルな行動からも集められるようになっています。このデジタルマーケティングの進化は、ビジネスの世界を大きく変える可能性を持っています。顧客の行動データを取得することが、企業の競争の優位性を築く時代に変化しているのです。このことは印刷会社の先にあるブランドオーナーの皆様の課題でもあり、すでに多くのブランドオーナーはこのことに気づいています。

このフィジカルでの行動データを追跡していくマーケティング施策として、NFCやRFIDのようなテクノロジーを紙の中に埋め込んだ“コネクテッドペーパー”というテクノロジーが最近出始めています。これが普及していけば、NFCという技術を媒介して世界中の行動データを印刷物からデジタルの世界に集積していく、といったことができるようになるかもしれません。

時代の変化に伴い、印刷物の役割と使い方は確実に変化していると思います。情報伝達手法というこれまで長い間担っていた役割や使われ方から、時間軸を前提とした流れの中で、コミュニケーションの最後の1ピースを埋める体験創造手法として印刷メディアはデジタルメディアと統合されて使われます。つまり印刷物の価値は、対面の貴重性が増すニューノーマルの世界でますます上がると考えています。ここにデジタル印刷の最大の面白みがあるのです。」(仲田氏)

なぜ日本HPはDXを推進するのか。この根底には、未来を見据え、淘汰される危機から攻めへと転じるべく、日本の企業を変革しなければならないと考えているからだ。日本HPが目指すのは、パートナーとしてデジタル印刷技術の活用を主軸とした印刷会社のDX推進をサポートし、未来を切り開いていくことにある。そして最終的には、日本の印刷業界を世界で戦える業界へ発展させていくことを目指している。

大切なのは、海外の模倣をするのではなく、DXの本質を理解したうえで日本なりのアレンジと、個々の印刷会社の強みを加えたDXを実装することにある。そうした印刷会社は、このコロナ禍のような事態でも変革の歩みを止めることはない。DXを実装し、自宅にいながら変革を進めている企業が、この先の世界を制するのだ。