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2020.07.03

未曾有の緊急事態を経て、今こそ前に進むべきだ。HPと歩むデジタル印刷導入法

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デジタル印刷の導入が今後の成否を握るという認識はあるが、投資金額の大きさから、どうしても一歩が踏み出せない……。本格的なデジタル印刷は経験のない分野であり、技術者に受け入れられるかどうかも心配である……。そもそもデジタルに適したビジネスが創出できるだろうか……。こうしたDX(デジタルトランスフォーメーション)への思いはあるがなかなかデジタルシフトが実行されず、どこかであきらめている経営者、印刷会社は多い。

さらに新型コロナウイルス感染症による未曾有の緊急事態により、大切な決断を先送りにしてしまってはいないだろうか。

国内先進ユーザーだけに留まらず、世界の潮流をみながら日本の印刷会社のデジタル化や、DX支援を進める日本HPでは、このコロナ禍でむしろDXの必要性はより表面化し、全世界的にデジタル化は一気に加速すると考えている。

今回は、アフターコロナの時代に対応するためにも「HPと歩むデジタル印刷導入法」をテーマに、より具体的にデジタル印刷機を導入する際の課題や注意点を、株式会社 日本HPデジタルプレス事業本部の戸崎裕仁氏と森真木氏のふたりに聞いてみた。

デジタル印刷に移行していない会社が抱える課題

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株式会社 日本HP デジタルプレス事業本部 コマーシャル営業本部 本部長 戸崎裕仁氏

デジタル印刷に移行していない会社でもその経営者の多くは、デジタル印刷のメリットをある程度、理解はしている。しかしそれでも移行できない理由として、戸崎氏は最新のデジタル印刷はこれまでの印刷の進化の流れの延長線上のものではないことが、大きな不安につながっているのではないかと分析する。

デジタル印刷に移行した先の未来が、まだはっきりと想像できないのだ。

「これまでにも印刷の技術は、何度も進化を繰り返してきました。ここ20年での大きな変化といえば、フィルム製版していたものが画面でデータをつくって画面からプレートを焼くというプロセスに変わっていったことが挙げられます。これも大きな進化ですが、プレートを使う印刷という技術の観点から言えば同じ流れの中での変化になります。しかしデジタル印刷では、このプレートそのものが存在しなくなります。データを印刷機に送り込めば、すぐに印刷物ができる。この違いは、これまでの印刷の進化とは異質なものと言えるでしょう。

このように蓄積されてきた技術からデジタルへ移行するには、これまでにないジャンプアップが必要になります。デジタル印刷へ移行した世界はこれまでの印刷の進化の延長線上にないことから、現場はどのように変わり、最終的にどのくらいの利益をもたらすのか、想像が難しいのだと思います。」

印刷会社を悩ます環境の変化のひとつに、“ペーパーレス化の加速化”が挙げられる。1900年代の印刷業界は、“大量に安く刷る”ことが経営上のひとつの正解だとされ、日本では高度経済成長と比例するように印刷会社は成長曲線を描き続けた。ところがバブル経済の崩壊後、日本経済の成長は停滞。大量印刷の需要は激減し、変わって多種小ロット印刷のニーズが急増していく。この環境変化に対する最適解が見出せず、苦労している印刷会社も多い。

アナログからデジタルへ、大量印刷から多種小ロット印刷へ、市場ニーズが加速的に変化しているなか、新型コロナウイルス感染症が全世界を襲う。一歩を踏み出せない印刷会社にとっては、ますます先行きの見えない未来となった。

しかし、予測不可能な未来だからこそ、デジタル化は大きな力となる。とりわけ小ロット化とスピード生産は現在を生き抜いていくために必要な絶対的ニーズに変わりつつある。

「世界的にデジタル化が進むなか、デジタル印刷の導入までは決断し、インフラを整備した印刷会社は少なくありません。しかし問題はその後で、デジタル化が進まない会社に共通する大きな要因として、営業の方針・マインドが変わっていないことが挙げられます。今まで通りの大量に仕事を持ってくる営業をよしとするのではなく、小さい仕事でも新しいデジタルでまわせる仕事をとってくる。印刷会社の営業は、この意識とやり方を変える必要があるでしょう。

さらにこれからは、新型コロナの影響で“非接触”が、すべての分野、企業にとって課題となってきます。対面せずに、どのように営業すればよいのか。そのヒントがデジタル化にあります。

デジタル印刷へ移行する際に会社が注目すべきポイントは、デジタル印刷の新しいビジネスの獲得と、売上のトップラインではなく、営業利益。そして、アフターコロナ、withコロナの時代を生き抜くための営業の仕組みです。デジタル印刷への移行は、デジタル印刷機を導入するだけでは実現されません。営業の方針も変える必要があるのです。営業もこれまで顧客訪問が1日3〜4件が限界だったところ、デジタル対面であれば倍にできる。デジタルでビジネスの小規模化が進むなか、自分たち自身もデジタル化していくことでビジネスがより細かく多く動いていきます。」

戸崎氏は、今こそ経営者の決断力が必要だという。

インフラを整備するには、当然、小さくはない投資が必要となり、経営者としては大きな決断が迫られる。デジタル印刷という未知へのチャレンジ、大量印刷から小ロット印刷に対応する体制変更、営業方針・意識改革と戦略の変更、そして新しいウイルスという驚異と立ち向かわなければいけない不安と勇気……デジタル印刷へ移行するにあたり、経営者は多くの課題をひとつひとつ解決していくことが必要なのだ。

デジタルシフトを推進するためのポイントとは?

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では、現実的にデジタルシフトしていくにはどうすればよいのか。戸崎氏は、デジタル印刷を推進するにあたって以下の3つのポイントを挙げる。

「デジタルだけで儲けよう」という発想は最初はしない
段階を踏みながらシフトしていく(小さい成功を積み重ねていくオペレーション)
中長期を見据えた経営戦略方針の変更

「これからデジタルシフトをはじめようという印刷会社の経営者の方によく言われるのが、採算性の問題です。それなりの投資をするので期待する気持ちも重々理解しますが、デジタル印刷に移行したからといって、すぐに成果が出るわけではありません。はじめのうちは『デジタルだけで儲けよう』と考えないこと。これがデジタルシフトを成功させるひとつめのポイントです。なぜならばデジタルシフトしていきなり成果を出すのは、ものすごいパワーとリソースが必要で、あまり現実的ではないからです。

デジタルシフトを成功させるには、まず小さいところからデジタル化に着手し、進めていくことが移行へのスムーズなステップになると考えています。多くの経営者は、デジタルシフトは0から100に変わることだとイメージされる方が多いですが、そうではなく徐々にシフトするというやり方があります。この小さな成功体験を積み重ねていく『段階を踏んでシフトしていく』ことがふたつめの成功ポイントです。

そして3つめは、『長期的な経営方針の変更』です。高額なデジタル印刷機を導入することは、会社としては戦略の変更を意味します。通常、会社の戦略は半期くらいで変更するものではありません。つまり、デジタルシフトは、短期的なものではなく、中長期的な計画に基づいて行なっていくものです。その意味では、先ほど成功体験を積み重ねるとお伝えしましたが、失敗も必要な要素だととらえるべきでしょう。そうした経験がすべて変革の力となるのです。」

戸崎氏は、デジタル印刷への移行は、「印刷会社にとって新規事業だ」と表現する。会社全体を一気に変える必要はないが、新規事業だからこそ、これまでとは異なる意識、体制構築、評価をも変えて取り組んでいくことが重要だという。

デジタル印刷のメリット

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株式会社 日本HP デジタルプレス事業本部 コマーシャル営業本部 テクニカルマネージャー 森真木氏

ここからは、あらためてデジタル印刷のメリットをおさらいしておこう。デジタル印刷の一般的メリットには、次のようなポイントが挙げられる。

<デジタル印刷のメリット>

  • 印刷技術の標準化(人手不足の解消)
  • 印刷までのプロセスが大きく省略される(工数削減)
  • 高速納期にも対応が可能
  • 顧客に対する付加価値提案が可能
  • データの蓄積・活用からお客様のマーケティングを変えることができる
  • 新規ビジネスの創出ができる
  • 必要最小限の接触でリードを獲得できる営業体制の構築

印刷業界だけではなく、多くの日本の企業が抱える課題に、少子高齢化がある。今後、労働力の確保はますます難しくなり、人材不足はすでに産業界全体の問題になっているなか、印刷会社は何をするべきなのか。これからの経営に求められるのは、規模を追い求めるのではなく、効率性・生産性を重視した利益注力体質への抜本的な改革だ。

「デジタル印刷の最大の特徴は、データを印刷機に入力すれば印刷物ができてしまうことにあります。これまではデータをもらって、プレートを印刷機にセットし、色だしをして色をみながら何度か調整して、はじめて刷り始める。技術と時間が必要でした。しかしデジタル印刷ならば、2〜3分後に印刷物が出てくるうえに、職人に頼っていた印刷技術が標準化されるというメリットがあります。印刷物を刷るという作業事態に変わりはありません。しかし全体的なプロセスを短縮化できることで、人手不足や技術者の後継者問題を解消するだけでなく、工数削減や高速納期にも対応できるなど、社内の働き方を大きく改善していくことができます。

さらにこうした経営の効率化は、コロナ禍でさまざまな“当たり前”が当たり前でなくなった、これからの時代に必要とされる働き方を実現します。目視でやらなければならなかった作業が自動化され、営業もデータやテクノロジーが対面で行ってきた作業の多くをカバーしてくれます。デジタル化のメリットは、結果的に今回のウイルスによってより表面化されることになったのです。」

こうした課題を解決する一方で、デジタル印刷を導入するもっとも大きなメリットは、顧客に対する付加価値を提案できることにもある。印刷物を通して顧客のデータを蓄積。そのデータを活用することでブランドオーナーのマーケティングに変革をもたらし、印刷物にあらたな付加価値を与えることで印刷会社にとっての新規ビジネス創出をねらう。これはアナログ印刷では実現されにくかった、これからの印刷会社の可能性だ。

「デジタル印刷には、マーケティングとからめた印刷物を創造していくことができます。たとえば、あるユーザーがインターネットを通じてどこかのバーゲンのWEBサイトを見たとしましょう。そのときは気にはなっていたけれど忙しくて行動を起こすことまでにはいたりません。しかし翌日、その会社のバーゲン用のクーポンのついたハガキが届いたらどうでしょう。『あ、昨日見たバーゲンのクーポンだ。やっぱり買おうかな』というアクションに結びつく気持ちを引き出すことができます。こうしたデジタルマーケティングを取り入れた印刷物を活用することで、顧客に付加価値を提供することが、デジタル印刷の最大のメリットだと私たちは考えています。」

デジタル印刷の導入にともない、印刷会社が進むべき道として大きくふたつの選択肢が考えられる。ひとつは高速プリントの特徴を生かし、それに特化したローコストでオペレーションできるプリント専門の印刷会社になっていく道。もうひとつが、いわゆるエージェント機能、マーケティング代理店機能を持った印刷会社を目指すのか。HPが提案したいのは、後者のような新しい印刷会社のカタチだ。

「我々はこれからの印刷会社は、“サービスプロバイダー”になるべきだと考えています。印刷物を届けるだけでなく、マーケティング施策も提案する、トータルサービスができるような会社に変革していくことが、未来を切り開く指針になるはずです。そのためにも、これからの営業はお客様を定量・定性面からしっかり見て、改善点を一緒に考えていくようなコンサル的な思考とスキルが求められてくるでしょう。デジタル印刷の導入と、営業改革が実現してはじめて印刷会社のDXは実現されるものだと考えています。」

HP Indigoの特長とは?

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では、最新のデジタル印刷機HP Indigoでは、どのようなことができるのか、少しみていこう。

たとえば1枚1枚異なるデザインを印刷できる可変印刷は、デジタル印刷機の大きなメリットのひとつだが、HP Indigoはさらにパッケージなども含めたさまざまな紙・モノに印刷できる対応力をそなえ、豊富なインキも取り揃えている。

「これまでユポやDP、ペットなど、紙とは異なり、繊維が表に出ていないいわゆる合成素材は印刷しにくいという課題があったのですが、HP Indigoはこうした紙だけでなく、いろいろな素材にも印刷できます。このような特殊性に強みを発揮した商品開発ができることは新しいプロダクトの創出につながり、ブランドオーナーにとっては大きな魅力になるでしょう。デジタル印刷の特性を生かした他社との差別化を図るサービス・クリエイティブが、印刷会社には求められるようになります。

また、印刷時に使用するイメージングオイルは印刷機内でリサイクルされます。リサイクル率はシステムの継続的な改良により年々向上しており機種によっては100%リサイクルできるようになりました。廃棄物のない環境にやさしい印刷を実現していることも、HP Indigoの大きな特長です。さらに、軟包装印刷の分野ではHP Indigoエレクトロインキがコンポスト可能な包材への印刷インキとして認証を受けています。今後の循環型社会の実現に貢献できることは、印刷会社にとっては大きな進歩と言えます。」

そのほかにもお客様に付帯するクラウドサービスである「PrintOSX」によりオンタイムで印刷機の管理ができ、生産管理・ワークフローの自動化が可能になった。その結果、必要なところに必要な情報を最適なタイミングで送る、というマーケティングと連動した価値を提供できることもHP Indigoの特徴だ。

技術者に求められる変化と変わらないもの

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多くの印刷会社のデジタル支援をしてきた戸崎氏、森氏のふたりは、経営者の意志決定とともに、特に技術者をデジタルシフトさせる難しさを多くの経営者から相談されたという。アナログ印刷では高度な技術が求められ、品質を第一とする日本の多くの印刷会社にとって職人は重要な存在である。そうした職人気質の技術者にとってデジタルへの移行はそれまでの技術を否定するものだと考えてしまうのだ。

デジタル印刷に移行したら、アナログ印刷でこれまで培ってきた知識や技術は不要となるのだろうか。

「デジタル印刷に移行した場合、たしかにこれまで人の技術に頼っていた部分を印刷機のほうで自動化して作業を進められる工程はあります。印刷物をつくるという工程自体は変わらないのですが、作業の内容と考えなければいけないポイントは変わってくるので、ここは技術者の方もデジタルシフトしなければならないポイントになります。

しかしそれまでの経験が不要かというと決してそんなことはなく、むしろ多くの工程が自動化されるデジタル印刷だからこそ必要だと考えています。印刷されたその絵が良いものなのか悪いものなのか、要求されている色はしっかりと再現されているのかなど、オフセット印刷をやっていた人が経験値から良いものか悪いものかをジャッジする目は、デジタル印刷になっても必要です。紙とインキの相性などの知識も、やはり最終的な質に影響してくることは、どんなにデジタル印刷が進化しても必要な“人の技術”です。

この“技術”を、HP Indigoには活かせる機能があります。

オフセット印刷機では、一般的に色を調整しようとしたときにCMYKの版それぞれを調整していきます。一方デジタル印刷ではこの版がない上に、自動的に調整する印刷機がほとんどですが、HP Indigoには、プロファイルでの調整だけでなく、CMYKでの調整機能があります。この機能では、オフセット印刷機での知識が求められます。人の勘によって施された微調整が色に深みを持たせたり、鮮やかな色味を表現するなど、最終的な品質をより高いものに変えてくれるのです。」

どんな変革にも変えるべきものと変えてはいけないものがある。その見極めも、デジタル印刷に移行するためには、重要なポイントとなってくる。こうしたいくつもの課題を解決しインフラも組織も適切な変化を遂げたとき、印刷会社とブランドオーナーとの関係性はビジネスパートナーへと変わり、新しいビジネスを創造していくことが可能になる。

そして……未曾有の緊急事態を経て、世界はさまざまな常識が覆された新しい時代へと突入する。このまま立ち止まっていては、ポストコロナの時代は生き抜いていけない。先行きの見えない難しい時代だからこそ、今決断が必要なのだ。