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2020.04.23

先端を走る若手社長たちから学ぶ印刷業界変革、成功への思考とは?

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アナログ印刷に頼ったビジネスモデルが立ちゆきにくくなった今、デジタル技術の導入を中心にそのトランスフォーメーションを実現させることがそのひとつの解決策となることは想像に難くない。しかし、会社に根付いたこれまでの文化を一新することは、決して容易ではないことも現実だ。

これまで会社を支えてきてくれた人々の力を、どのように新しいビジネスへ変換させていけばよいのか。

今回は、若手となる3人の印刷会社社長に向けて行ったインタビューから、変革を成功させる思考方法について整理してみた。

【変革への思考1】現状の延長線上に未来はない

ひとつめのキーワードは、危機感の自分ごと化。

1970年から1980年代にかけて、日本はバブル期と呼ばれる好景気を迎えた。印刷業界はその中でも特に急成長を遂げた産業のひとつだ。日進月歩で新しくなる印刷機は、朝から晩まで、ときには夜を徹して大量の印刷物を刷り続け、日本経済発展の一端を担った。

しかし1990年代に入ってバブルははじけ、さらにデジタル化の波が訪れると、状況は大きく変わっていった。インターネットの普及により、情報発信は雑誌やチラシなどの紙媒体からデジタルの媒体やメディアへシフトされるようになり、紙印刷の需要は激減。これまで印刷業を支えてきた大量印刷で売上を伸ばしていくビジネスモデルだけでは、立ち行きにくくなったのだ。

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東和印刷株式会社 高本禎郎 代表取締役社長

昭和58年(1983年)、大阪の地に創業した東和印刷株式会社。地元の新聞やチラシ印刷を主事業として業績を伸ばし、わずか10年でおよそ16億円をかせぐまでに成長。その後も業績は伸び続け、従業員は一時期、120名まで増えたという。

将来の東和印刷後継者として印刷の専門学校に通っていた高本禎郎氏が会社に呼び戻されたのは、ドルッパ(drupa:国際印刷・メディア産業展)で「HP Indigo」をはじめ、各社から最新のデジタル印刷機が発表され、デジタルプリント元年と呼ばれた1995年の翌年のことだ。当時の会社の状態を「成長痛のような状態だった」と振り返る。

「学校で世界の印刷業界の動向などを学んでいたこともあり、これからはまちがいなくデジタルの時代がくることはわかっていました。

しかし、会社でデジタルのことを話しても、周囲は『そのうち』というだけで、ピンとこない。組織をきちんとつくらないまま会社がどんどん大きくなってしまって、会社に成長痛のようなものが起き始めていました。環境の変化に会社がきちんと順応できていないんです。業績も少しずつ落ち込み始めているのに、何も“変わらない”し、“変わろうとさえしない”。現実をいえば“変われない”、まさに変化を自分ごととしてとらえられていない状態でした。」

一度、思い切って『オフセット輪転機のビジネスをやめないか』と、経営陣に進言したことがあったが、意見は却下された。売上は減ったとはいえ、まだ当時の売上の半分は輪転機で稼いでいたからだ。経営者としては“怖くて決断ができなかった”のだろうという。

しかし、その後オフセット輪転機ビジネスは予想通り年々減っていき、マーケットの減少に対して供給過多が進み、印刷単価はピーク時の5分の1以上に減少。さらに紙の仕入れ値は年々、高騰している。大量印刷を主軸とした印刷業界のビジネス構造は立ち行かなくなり、印刷会社が生き残っていくには変革が必要なことは明白となっていった。

こうした判断から高本氏は2011年にデジタル印刷部門を設置。アナログからデジタルへ、0→100で変えるのではなく、0→50→100と時間をかけて変革を進め、本格的なデジタルシフトへ移行するための“準備”を始めた。

そして現状の売上を犠牲にしてでも未来への投資を優先し、3代目社長に就任する。2018年、12月輪転事業を撤退。工場も閉鎖する英断を実行したのである。危機感を自分ごとするのは難しい。だからこそ社長自らが信じたことをできるだけ大胆に実行することでそれが社員に伝わっていったことがうかがえる。

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長苗印刷株式会社 長苗宏樹 代表取締役社長

現状の延長に未来はないことを想像したのは、昭和27年(1952年)に創業し、長い歴史を持つ長苗印刷株式会社の長苗宏樹氏も同じだ。特に興味深いのは、70年の歴史で培ってきたアナログ印刷のノウハウと仕組みが、これからはデメリットになる可能性もあることを示唆していることだ。

「これまでの日本の印刷業界は、“過剰サービス”だったと思っています。品質にこだわり、そのために工数と手間ひまをかける。顧客満足という観点からはこれは決してまちがったことではありませんが、質の担保がアップセルにつながるかといえば、そういうわけではありません。そのため利益を得るためには、売り上げを伸ばす、つまり量をこなすことが必要になってきます。

その“量”がこれからは見込めない時代に既になっているのです。小ロット化が進んでいる今、これまでの人海戦術的な営業方法では、受注すればするほど生産性は悪くなるため、これまでの営業方法を一新しない限り、たとえ技術をアナログからデジタルに変え小ロット対応できたとしもそれだけでは道は開けないのです。。」

長苗社長はさらに今後の予想を深める。ペーパーレス化はまだまだ加速し、商業印刷と出版領域のアナログ印刷事業は、5年後にはさらに半分以下になるとみている。常務取締役だった2015年にはHP Indigo 7800の導入を主導し、2年後に事業継承を経て社長に就任すると、営業の改革を中心に、本格的にデジタルトランスフォーメーションの着手に取り組み始めている。

決断は、的確な現状の分析と未来の予想から始まる。今が安定していたとしても、社会は確実に技術はデジタル化に向けて進化し、並行して市場のニーズも大きく変わっていく。現状維持では未来はない。そのためには、危機感を自分ごと化させ、リスクをとって未来に備えることが、これからの時代を生き残るために必要な、一歩めとなる“成功思考”といえるだろう。

【変革への思考2】失敗をおそれず、勇気を持って行動する

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東和印刷株式会社 高本禎郎 代表取締役社長

ふたつめのキーワードは、決断からの“行動力”だ。高本社長も長苗社長も、事業継承を経て社長に就任するとすぐにアクションを起こし、大胆に社内文化の一新に取り組んできた。

高本社長の場合、営業部、管理部、製造部からは独立した社長直下のイノベーション推進室を設立。わずか3名のスモールチームでDXを推進し、わずか2年弱で会社の20%の売上をかせぐ部署にまで成長させた。

何よりも需要なのは、まずはトライすること。社員に対しても数字だけではなく、新しいことをしなければ評価は低く、失敗してもトライすることで評価は高くなる。

「実現するのは簡単なことではありません。ただそれをあきらめてやらなければ、未来はない。できない理由を並べ止めっていては時間の無駄。トライ&エラーで経験を積み上げることでしか、変革は達成できないと思っています。」(東和印刷・高本氏)

同じように「デジタル化はやらないとわからないことが多い」ことから、長苗氏も3人のプロジェクトチームを編成し、DX推進のための試行錯誤を繰り返している。

「いろいろな考え方がありますが、僕はデジタル印刷をやるのであれば、そのナレッジがしっかりと社内に残るような形でやらないと意味がないと思っています。だから今のフェーズは、とにかく失敗してもいいので受注して実際にデジタル印刷機を動かしていくことが大事だと思っています。そうして経験を積み重ねて、PDCAをまわしていくことをプロジェクトの評価としています。」(長苗印刷・長苗氏)

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株式会社マージネット 池田朗 代表取締役社長

行動力という観点から、マージネットは「思考を止めない」という点で好例といえる。

和歌山県の地方から、東京、札幌、仙台、大阪、福岡などの都市圏へ進出。全国に顧客を持つマージネット株式会社は、平成元年(1989年)に創業した。印刷業界の中でも新興勢力といえるマージネットには、そもそも「変革」や「チャレンジ」の思考が会社のDNAに組み込まれている。

「老舗の印刷会社が多い業界で、私たちはかなりの後発になります。経験も実績も少ない。そこで競合他社とどこで差別化するかを考えたとき、同じことをしていたらどうしても経験値やネームバリューで負けてしまうので、他社が取り組んでいない分野に注力していこうと、そこに勝機があると信じて前に進んできました。」(マージネット・池田氏)

そのDNAを象徴するのが、「業界知名度100%」という企業ビジョンだ。マージネットはデジタル印刷機を導入し、最新のテクノロジーの力を最大限に引き出して何ができるかを考える。そうして圧着DMという商材にたどり着くと、圧着DMの商品力を最大限に引き出す体制を整えるために、生産ラインのインフラを整備し、営業もMAを導入して営業方法そのものを一新していった。事業と商材の「選択と集中」を実践することで、「圧着DM=マージネット」というブランディングを確立させ、業界での知名度を高めていったのだ。

もうひとつマージネットの注目すべき取り組みが、印刷会社ながら印刷会社を悩ます世間のペーパーレス化を自社に取り入れたことだ。

「これまでは営業が獲得してきた案件を作業指示伝票に入力し、プリントアウトして各工程に提出して作業を進めていましたが、この指示書そのものを発行しないような仕組みをつくりました。社内はすべてタブレットで発注から進捗管理まですべてを行うようにしています。たとえば、受注後に納品先や印刷部数の変更がある度に書き直しをして指示書を再発行しなければならなかったのが、今はすべてデータを修正するだけですみます。慣れるまでは違和感がありましたが、現場も慣れればメリットのほうが大きいことがわかった。社内のデジタル化を推進したのは、こうした働き方、生産性の改善という点も最大限に考慮して進めました。」(マージネット・池田氏)

サービスや顧客に対してだけでなく、社内もデジタル変革で文化を一新する徹底ぶり。その社長自らの行動力こそ、デジタル変革を推進する原動力になっている。

決断したら失敗をおそれず、勇気を持って大胆に行動する。これが変革を成功させる、ふたつめの思考だ。

【変革への思考3】やさしさと厳しさ

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長苗印刷株式会社 長苗宏樹 代表取締役社長

オフセット輪転機や枚葉機などを中心に会社の基盤を築いてきた印刷会社にとって、デジタルシフトは決して容易な決断ではない。デジタル変革が必要なことは、理解している。しかし、実行したくてもなかなか推進できない経営者は少なくない。これまで会社を支えてきた社員の多くはアナログ技術世代であり、デジタルシフトを決断して舵を切ろうとすると、反対されるケースが多いからだ。

長苗氏は、「印刷会社としての利益(収益)構造を変革しないと、このままでは未来がない。引き継いだ会社の社員たちにも申し訳なく、そのためにデジタル化に向けた変革が必要」であることを前提としながら、ある覚悟を持って変革に取り組んでいる。

「このデジダル時代に会社を引き継いだ者としては、会社のデジタルシフトを推進し、DXを実装させることが使命だと考えています。そのためにも旧態依然とした考え方は変えていきます。デジタルになったからといって、簡略化されることはありますが、本質は変わらない。でも変革を進める中で従業員にはある程度の負荷は求めます。それに対して応えてくれる人と一緒にやっていくしかない。これからは私も含めた若手世代が業界を変えていかないと、それこそ尊敬する先輩たちが創ってくれたこの印刷業界自体を残すことすらできないと思っています。」(長苗印刷・長苗氏)

同様の悩みと覚悟は、東和印刷の高本氏も抱えている。

「アナログ印刷機のオペレーターは、版のズレやインクののり、紙が反ってしまうなど、調整・確認しながら作業を進めるため、ものすごく神経を遣います。そのオペレーターの技術によって、質も変わってしまうため、彼らは職人とも呼ばれています。それが最新のデジタル印刷機を使えば、ボタンひとつである程度の工程が自動化されてしまうわけですから、当然、葛藤が生まれます。自分の技術が否定されたように感じてデジタルアレルギーを起こしてしまうのです。

会社としては、会社を支えてきた大切な方々です。それにアナログからデジタルへ変わったとしても、印刷に関する知識や技術が不要になるということでは決してないんです。デジタル化、デジタル化と言われますが、結局、アナログ時代に培ってきた人の技術やノウハウを、きちんとナレッジとしてデジタル時代へ継承できないところはうまくいかないと思っています。」(東和印刷・高本氏)

共通しているのは、これまでを否定しているのではなく、その技術やノウハウを次のデジタル世代へつなげていくことが重要だと考えていること。むしろ、アナログで培った技術の高さや質を見極める力こそ、印刷会社の強みになるとも考えている。

一方、デジタルへシフトしたとき、多くの作業が簡略化され、印刷業務そのものが大幅に効率化(省略化)されることが期待されている。会社全体の生産性を考慮した場合、このことは大きなメリットである。技術志向も大切であるが、経営視点で必要な点を追求していくこと、それを理解していくことができなければ、これからの業界に生き残ることは難しいのかもしれない。

“量”を求めていた時代は、価格競争も少なく利益を確保できていた。しかし市場全体は縮小し、ニーズは“小ロット多品種”が主流となり、この流れはもう止められない。このような業界の中で、いかに利益を確保していくかは印刷業界全体が抱える大きな問題なのである。

長苗印刷も、東和印刷も、デジタルシフトを推進していく中で、会社のスリム化も行ってきた。この過程においてはここまで述べてきたように技術の変化だけでなく、利益確保方法の変化も丁寧に社員に説明してきている。その決断と行動には、“やさしさと厳しさ”の両面が必要なのだ。

【変革への思考4】協働という発想

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株式会社マージネット 池田朗 代表取締役社長

地方企業であるマージネットは、地方ならではの課題をデジタルの力で解決し、新しいビジネスチャンスを獲得してきた。その可能性をより現実化させていくために、池田氏は“協働”をキーワードに挙げている。

「一般的に地方の印刷会社は、どうしても地元の商圏がメインになりますが、HP Indigoを導入したことをきっかけに、私たちは売り上げの半分は県外から獲得することが実現できました。これはデジタル化をきっかけに変革を実現できたからこそ説明できる、地方企業の可能性でもあると思っています。

インターネットを駆使することで商圏のボーダーがなくなったとはいえ、首都圏の印刷会社と比べるとやはり物理的な地方のデメリットをゼロにすることはできません。そこで今後の可能性として考えているのが、他社との連携です。各地方の中小の印刷会社がHP Indigoをハブにして協働していければ、印刷業界そのものを盛り上げていくことができるのではないかと考えています。」(マージネット・池田氏)

デジタル化が進み、印刷業界にも真の意味でのDXが推進されることで、顧客に関する情報がデータ化されていく。このデータを中心に多くの会社と協働を図りながら顧客へのサービスを提供していくことが可能になる。。今後はこうした協働の発想から新しい顧客を創出していくこともできるようになることも、DXの大きな可能性といえるだろう。

変革に必要な思考とは?

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アナログからデジタルへ移行するために、新しい組織をつくるわけではない。これまでの組織を変革させて未来を切り開いていくことが経営者には求められる。そのために自分の描く未来をしっかりと持ちながら決断と愛情をもった大胆な行動につなげているという点は、3人にとって変革を成功させる大きなポイントとなっていることがわかる。

5G(第5世代移動通信システム)のサービスが開始され、今後さらにICTやIoTなどのテクノロジーがビジネスシーンに応用されていくスピードは益々早まっていく。さまざまなデータが会社を超えて共有されるようになれば、業界間の参入障壁はますます低くなり、デジタル対応できていない会社は太刀打ちできなくなる可能性が高い。

3人に共通するのは、こうした未来に備え、決断に迷いがなく、変革をあきらめずに取り組む、“決断する勇気と多少の困難があろうと実行を続ける覚悟”があることだ。そこには忍耐力も求められるだろう。

決断をしていち早く変革を実行し大胆な行動で前に進む社長たちが、印刷業界の未来を切り開いていくはずである。



【本記事は ワンマーケティング が制作しました】