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2020.02.27

印刷業界の営業が向きあうべき現実ともたらすべき変化

業界を発展させていく営業変革とは?

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デジタル変革の話題ではともすると新技術や新規事業の開発者・開拓者らに耳目が集まりがちだが、変革の成否が真に問われるのは顧客に対峙する営業の最前線。自社の営みを市場がどう受け止めているのか。それを誰よりも知るのが営業職だ。そこで今回は印刷業界の営業フィールドで長年活躍し、印刷業を熟知する2人に登場してもらった。凸版印刷の情報デザイン事業部 開発営業本部 ソリューション営業部でチームを率いる神谷直樹氏と、ドキュメント・ソリューションを軸とした高付加価値型サービスに向けて変革を実践するエフ・アイ・エス(FIS)で営業本部を統括する坂井祐一氏だ。果たして印刷業界の今と未来に、2人はどんな思いを持っているのだろうか?

デジタルな時代、コミュニケーションの重要度はむしろ上がっている

――印刷業界の営業職について改めて冷静に振り返ってみて、特殊性や専門性なども含めてお二人が考える課題を教えてください。

神谷直樹氏(凸版印刷):デジタル分野のニーズに応える形でお客様との取引内容は変化してきていますが、やはり大量印刷、大量配布を主に右肩上がりで成長してきた業界ですから、その中で根付いてきた肌感覚というか、昔からの価値観からまだ完全には抜け出せていない部分があることですね。私がこの業界に新卒で入ってきたのは随分前ですが、当時はビジネスの下流を支える受注産業だとよく話していました(苦笑)。お客様を大切にし過ぎるが故に、お客様が全てになってしまい、言い換えれば自分たちの立ち位置を自虐的なネタにしてしまうようなムードがあったように思います。もちろん今は当事者感覚を持って、新しい挑戦に向かっていこうという空気ができており、カルチャーは一新されつつあるのは良いことだと思っています。

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凸版印刷株式会社 情報デザイン事業部 開発営業本部 ソリューション営業部 神谷直樹氏

坂井祐一氏(FIS):神谷さんが言わんとしている気持ちは分かります(笑)。私はもともと広告代理店にいたのですが、やはりそこも昼夜を問わないお客様最優先体質が色濃いところでした。印刷業界に転職してからも、よく似た価値観に包まれていて、売りたかったらとにかく足を使え、というムードの中で私も仕事をしていましたよ。

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株式会社エフ・アイ・エス 営業本部 執行役員 坂井祐一氏

神谷:新規開拓ともなれば、まさにそういうところがありましたね。いざ発注してくださることになっても、お客様からしばしば降りかかってくる無理難題にどこまで応えることができるかどうかが問われる。もちろんチームとしての組織力や社として持っている技術力によって最適解を提供できれば、ソリューション営業と呼べますが、かつての印刷業界はもっと泥臭く汗臭い努力が問われていたように思います。

坂井:経験、勘、度胸と根性ですよね(笑)、当時のわれわれの武器は。

神谷:忍耐力も(笑)。ただし、悪い面ばかりではないとも思っているんです。そもそも本当に嫌なことしかなければ、とっくに他業界へ転職していたはず。やはり全国の書店やコンビニに自分が携わった成果物が並び、それを無数のエンドユーザーが手に取ってくれる様子は、私にとって何よりのモチベーションを与えてくれました。

坂井:時代が変わり、紙からデジタルへと情報メディアの主役が代わった今でも、その喜びは不変だと私も思います。特に当社ではWeb to Printシステムというデジタルと紙をつなぐ付加価値サービスによる提案を行っていたり、世界最先端のデジタル印刷機「HP Indigo Press」を活用した小ロット高品位印刷を提供していたりするわけですが、そうしてツールやソリューションが進化しても、喜びの源泉は変わっていません。

神谷:「価値ある情報をものづくりを通して一つの形にし、届けたい人々に伝達していく」ためのお手伝いをさせていただくというハートの部分ですよね。私も同感です。先ほど、印刷業界の過去の側面をお話ししましたが、「悪いことばかりではない」とあえて付け加えた理由にもつながってきます。時代がどんなに移り変わり、技術がデジタル化されようともフェイスtoフェイスのコミュニケーションで培っていく人と人との信頼関係がどんな案件においても重要なベースになる。だから、先人たちが築いたそうしたカルチャーは決して一掃してはならない、とも思っているんです。

坂井:生身のコミュニケーションの価値は、むしろデジタルな世の中だからこそ一層際立ってきているとも言えますよね。ただし、おそらく神谷さんも同様かと思いますが、われわれ印刷会社の営業職は、とにかくありとあらゆる業種がお客様になります。実に多様なカルチャーとシンクロしていかなければなりません。しかもそこにはあらゆる年代の方々がいるので、臨機応変にコミュニケーションのスタイルを切り換えていく姿勢もまた問われているんじゃないでしょうか?

神谷:むしろ多様性は従来にも増して膨らんでいますね。それこそ根性や忍耐力だけで道が開けるわけではない時代とも言える。

坂井:私をはじめ当社の営業本部のメンバーたちは、向き合う相手によってコミュニケーションのチャネルを切り換えています。例えば上の世代の方々には、可能な限り対面でお話をする一方で、デジタルネイティブの若い世代が多い企業とはSlackなどのチャットツールで積極的につながったり、デザインシンキングの要領で提案を行ったりしています。

神谷:確かにデジタルツールを使ってテキストベースでコミュニケーションを取った方がベターなケースというのはありますね。社内コミュニケーションでも同様のことが言えます。かつて印刷会社の営業職は、社内の印刷工場とお客様との板挟みにあって苦労したものですが、そういう現場にもデジタルなマネジメントツールなどが入り込み始めて、明らかに変化してきています。

坂井:工場との関係性維持には私も苦労しました(苦笑)。工場は最終的にプロダクトを納期通りに、しかも計画していた通りのクオリティーで完成させるための重要な場ですから、責任感も強いし、プライドも高かった。ところが、お客様からはギリギリのタイミングでデータ修正をお願いされ、工場の稼働時間を変更せざるを得なくなって板挟み・・・。

神谷:恐怖の時間ですね(笑)。本当にクオリティーの高いものをつくろうという気概があるのか、と工場の方々に叱責される。ものづくりのプライドは半端なく高い。ここにこそ日本のものづくりの質の高さを感じることも多々ありました。

営業職のモノサシは売上至上主義から利益重視へシフトしつつある

坂井:工場との信頼関係の話題から利益の話が出ましたが、今セールスを実行している部隊では今まで以上に利益を考えることが必要になり始めていますよね。産業全体の成長期の頃のように、足を使って根性で繰り返しお客様の所に出向けば、何かしらの案件をいただくことができていた時代は、頭の中が売上数値でいっぱいでした。でも、今のようにエンドユーザーの価値観が多様化したり、BtoB事業のお客様のニーズが複雑化する中では、一つひとつの案件規模も小さくなりがちですし、昔のように「案件数をこなして売り上げをつくれば利益は後から付いてくる」なんて発想では成立しなくなっています。

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神谷:確かに、紙のダイレクトメールを印刷するという案件を例にすると、昔は世の中全般が量で勝負する時代でしたから、1万通もの印刷を受注することができましたが、今ではそうした案件が千通程度の規模での発注になっています。それを時代のせいにしていては、業界全体がジリ貧になるばかり。ものは考えようで、坂井さんの所属されているFISなどはまさに象徴的ですが、「小ロットの案件が主流になるのならば、効率よく印刷できるデジタル印刷で対応し、印刷機を回すところには営業も含めて以前のようには工数を掛けない」といった具合で打ち手はあるんですよね。それに1回ごとの発注数が小規模になったとしても、お客様から信頼を勝ち得て長期的な関係性を築けたのならば、小ロット案件にも新しい価値を付加して、エンドユーザーのライフ・タイム・バリューを考慮した利益獲得への道筋は見えてきます。

坂井:そう、そこなんです。例えば小ロットの案件が増えた背景には、「お客様の側がデジタルマーケティングなど、新しいアプローチを積極的に採り入れ、ダイレクトメールなどは本当に有効なところに適切な量だけ印刷して送ればよいことが判明した」というようなプロセスが絡んでいたりします。それならば印刷業界の側もDTPやWeb to Printシステム、デジタル印刷機などを導入してDXを進めていけば、お客様のデジタルマーケティングなどとシームレスに連携できるようになり、利益獲得の効率を引き上げることができるはず。「必ずいつもそうなる」と言い切れないところが、リアルなビジネスの難しいところではありますが、少なくとも「最終的には紙にプリントする」というアナログな案件であっても、われわれとお客様の双方のDXによって印刷ビジネスを変革し、利益体質にしていく可能性は見えます。そしてその双方のDXという点がポイントで、お客様と足並みそろえてDXしていくには、やはり営業が築く信頼関係が以前にも増して重要になると思います。

神谷:もしも印刷業界がいまだに古い体質を引きずっていると思っている方々がいるのなら、そんなことはないと言いたいですね。新しい技術やプロセスの導入は、営業職の働き方にもこうして大きな影響を与えていますし、まだまだ道半ばとはいえ、デジタルを中心に業界を挙げて変わろうとしているのは事実。

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坂井:私のいるFISは中堅規模の会社ですから、神谷さんの凸版印刷のように大規模で、高い実績と総合力を持ち、なおかつトップ経営陣が先頭に立って変革を叫んでいる様子を拝見するとうらやましく感じたりはします。DXにせよ、働き方改革にせよ、チャレンジを自社で完結できるはずですから。ただし、私たちとしても「自社の力だけで完結できないのならば、積極的にさまざまなプレイヤーと連携し、共創していく関係づくりを進めればいいじゃないか」という熱意は持っています。そういう場面でも、結局問われるのは共創を現実のものにするコミュニケーションの力だと再認識したりしています。

神谷:凸版印刷としても何もかもを自社完結できるとは言えませんし、かつての「印刷」というカテゴリーには収まりきらないような挑戦を開始している中では、多数のパートナー企業との共創関係が求められています。また、例えば社内のダイバーシティを進めていくためにも、性別や国籍を超えて成長機会を提供していく施策に取り掛かってもいます。規模の大小とは無関係にチャレンジする姿勢が問われているのは間違いありませんね。

坂井:ダイバーシティという意味では特に印刷業界の営業部門は、まだまだ男社会から脱却しきれていないように思います。お客様もいろいろなタイプがいらっしゃいますし、そこは当社でも働き方や営業の仕方の多様性を含めてもっともっと積極的に変えていかなければいけない課題だと考えています。

社内の誰よりも外界とつながる営業職が変革をリードすべき時代に

神谷:DXだけでなく、SDGs、サステナビリティ、真のグローバル化など、取り組むべき課題は山積みですが、こうした課題の解決に共通して追い風になるものの1つがダイバーシティであることは間違いないですし、そうなればコミュニケーションの重要性はさらに高まります。コミュニケーションの担い手であるべき営業職が、実は会社の変革で大きな役割を担い始めているのではないかと、私もようやく最近腹に落ちて理解できるようになりました。

坂井:時候ごとの挨拶訪問とか、ワンパターンの年始タオル(笑)とか、そういう古き習慣も、エコを考えれば無駄であり、社会に負荷をかける行いと言えるのかもしれません。安易なごまかしが効かない最前線で信頼関係構築やコミュニケーションをどう展開すればよいのか、デジタルとアナログの配合バランスも考え、利益思考も深めながら進めていくのがこれからの印刷業界の営業職ですね。

神谷:これまでの価値観と新しい価値観のグッドバランスも考えていきたいですよね。根性や忍耐力で、ここ一番の「踏ん張り力」を発揮してきた世代から学べるものも少なくありませんし、かといって昔流儀のやり方にしがみついていたら、デジタルの時代を生き残ることはできません。社内の誰よりも外の世界とつながっている私たち営業職が、外の風、新しい足音、世界の目線などといったものをどれだけ生かしていけるか。

坂井:そういう局面でも、またデジタルな技術が有効に使えるかもしれませんね。

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[取材を終えて]
新卒入社と中途入社という背景は違えど印刷業界営業の最前線で汗をかき、お客様との信頼関係を築き続けてきた神谷氏と坂井氏。「かつての印刷業」の善さも問題点も体感し、その上で「現在の印刷業」の課題と向き合い、「未来の印刷業界」を考えている両氏だけに、非常に建設的な対話が展開された。表面的なデジタルへの移行という議論ではなく、新しいテクノロジーをどう使いこなすのか、その時営業の担当者たちに問われるのは何なのかも、具体的に示してくれるディスカッションになった。デジタルテクノロジーを中心に変化する現場や市場の多様化を味方に付けることができるかどうかは、その矢面に立つ当事者たちの変化への意識と見失わない本質に掛かっていると言えるだろう。

【本記事は JBpress が制作しました】