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2019.07.09

教育とテクノロジー

⼤妻中学⾼等学校 ― 成島由美校⻑インタビュー

“⼥⼦教育界の草分け”と称される⼤妻コタカが開いた私塾を前⾝に、100年超えの歴史をもつ私⽴中⾼⼀貫校の⼤妻中学⾼等学校。2017年4⽉に着任した成島由美校⻑が最初に考えたのは、他の伝統校や⼥⼦校との差別化です。⼤妻コタカの⽬指した「社会に貢献できる⼥性の育成」を、新しい時代の⽂脈のなかでどのように受け継ぎ、どのような教育⽅針として提⽰するのか。新スローガン「⼤妻ビション50」や、2018年9⽉からスタートした「⽣徒ひとり⼀台のタブレット」に踏み切った理由についてお尋ねしました。

他人と過去は変わらないから、自分と未来を変える。

── 赴任して1年8カ⽉となりますが、成島校⻑が始めた教育改⾰の内容、また⽣徒や教師の反応や変化について教えてください。

成島由美(以下、成島) ⼤妻中学⾼等学校は100年以上の歴史と伝統があり、⽴地にも恵まれた私⽴中⾼⼀貫の⼥⼦校ですが、着任後にまず考えたのは他の伝統校や⼥⼦校との差別化でした。学祖・⼤妻コタカ先⽣が⽬指していたのは「⼥性の⾃⽴」です。先⽣ご⾃⾝も80代半ばまで教育に携わり、前校⻑も72歳で退任して、現在は副学⻑として活躍されている。つまり、⼤妻では学校教育の中枢にいる⼈間が⾃らの背中で⼥性の⾃⽴を指し⽰してきたのです。

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 その「⼥性の⾃⽴」を、現代に即して考えたとき、「⼤妻ビジョン50」という新しいスローガンが⽣まれました。「50」には3つの意味が込められています。ひとつは、50年間社会で活躍し続けられる⼥性を育成すること。次に、2020年の「⼤妻コタカ没後50年」に向け、しっかりと種をまいておくこと。最後に、2050年に⼒を最⼤限に発揮できる⼥性を育成することです。

朝礼では「2050問題」の話をよくしています。内閣府が算出したデータによれば、2050年の⽇本の⼈⼝は1億⼈を割る可能性もあり、GDP世界⽐率では中国が1位、アメリカが2位となり、現在3位の⽇本はインドやブラジルなどにも抜かれて6位まで落ち込むと予想されている。そのような時代に英語だけでよいのか、他に⾝につける必要のあるものはないだろうかと。いまの⾼校2、3年⽣は、2050年には50歳前後とまだまだ働きざかりなんですね。そのときに社会の隅っこで平凡な⼈⽣を歩むのか、逆に社会を牽引する中⼼⼈物となるのか、よく考えてほしいと伝える。すると⽣徒も「⾃分は社会に貢献し続けるチャンスがあるんだ」「英語は社会で活躍するために必要不可⽋なものなんだ」「だから⼤妻では中国語講座が始まるんだ」といろんなことが腑に落ちる。未来予測を伝えることで彼らに⻑い⼈⽣を⽣き抜く気構えを与えられたら、といつも意識しています。

── ⼥性の⾃⽴でいうと、⼤妻コタカさんは「良き家庭⼈、良き職業⼈」となることを説いておられます。「家庭⼈」はいざしらず、100年前に「職業⼈」になることを推奨していたことに驚きました。

成島 ⼤妻の前⾝は縫製・⼿芸の家塾でした。裁縫は、当時の⼥性が⾷べていける職業のひとつだったんです。しかも、コタカ先⽣が伝承したのは、ガラス瓶の中でピンセットや縫い針を使って⼿毬・⼈形などをつくりあげる「瓶細⼯」。もちろん、お家のちょっとした繕(つくろ)い物も⼤切ですが、家に飾っておきたいと思える美しい⼿⼯芸品をつくれる技術を“武器”として提供したわけです。

 ⼤学では、⾃分で仮説を⽴て、分析・研究する能⼒が必要です。ところが、これまでの中・⾼の教育は知識を増やすことを優先しており、⼤学で必要とされる能⼒が⾝につかない。そのため、せっかく⼤学に⼊っても有意義に勉強することができず、何も学べないまま卒業することになってしまうのです。

 そうやってコタカ先⽣の時代の教育⽅針をひもといていったとき、「お裁縫箱は、いまで⾔えばPCにあたるのではないか」と思い⾄りました。若いうちから⽇常的に使っていれば、なかには⼀流のゲームクリエイターやアナリストになる⼦もいるかもしれないと。

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── それで⽣徒にタブレットをひとり⼀台もたせたのですね。

成島 ええ。「⼥性が⻑く⾷べていける技術」を教えるというコタカ先⽣の理念を受け継いで導き出したキーワードが、「⼿に職(=テクノロジー)」と「グローバル」だったということです。

 ⼿に職というのは絶対に道具が必要で、お裁縫箱にあたるのがタブレットです。まだ4カ⽉ですが、タブレットを使⽤する授業も増えてきました。グローバルは「英語+1」ということで、中国語講座を始めました。近々もう⼀⾔語も始める予定です。また、グローバルを意識した帰国⽣⼊試もスタートさせ、突き抜けて英語ができる⼦を積極的に⼊学させようと考えています。

── ⽣徒や教師の皆さんの反応はいかがですか。

成島 ⽣徒は短い時間でずいぶん変わったと思います。1年に1度、⽣徒会⻑を決める総会というのがあって、先⽇中学⽣の部を⾒に⾏ったのですが、去年より迫⼒がありました。⽴候補した⽣徒が「みんなタブレットを持っているんだから、もっと意⾒を⾔おう︕ 私はそれをすべて集計し、学校改⾰のために役⽴てます︕」なんて思い切ったことを⾔う⼦もいて。やはり学校が変わるときに、「⾃分も学校を変える⼀員になりたい」「勢いのある⼈になりたい」と思ってくれたのではないでしょうか。

 そうやって⼦どもが変われば、教師も変わらざるを得なくなります。授業を変えていかなければならない悩みや課題に対しては、外部の⺠間企業からファシリテーターを呼び、研修も⾏っています。でも、もともと授業が上⼿な先⽣は、年齢とか関係なく、PCを使ってもやっぱり上⼿なんですよ。授業というのはどうしたらわかるように伝わるか、どうしたら⽣徒全員を集中させられるかという想像⼒やサービス精神が⼤事で、平⾯の⿊板だろうと数次元が存在するPCだろうと、本質は同じなんです。

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 私は「過去と⼈は変わらないから、⾃分と未来を変えるしかない」という話を⽣徒によくしています。⾃分⾃⾝が変わりさえすれば、周りが変わる。そして世界も変わる。たったひとりの変化が集団に影響する⼒というのは、実はとても⼤きいんです。そのことを、いま⽣徒や教師⾃⾝が実感しているのではないかと思いますね。

── プログラミングの授業になったら輝く⽣徒がいる、という話も聞きました。

成島 いるんですよ、すごく得意な⼦が。しかも⾼校3年⽣のクラスで、⽴って周りの⽣徒に指導する⼦まで現れた。教えあい・学びあいが起きたんですよね。なかには中学3年⽣でN⾼に転学する⼦もいます。あとは、理科部という部活の⽣徒たちが「ドローンの授業をやりたい」と先⽣を説得し、2019年1⽉7⽇にドローンの授業も⾏う予定です(2018年12⽉取材時)。

 コンピューターの分野は、⽣徒が先にどんどん進んでいいんです。「◯◯先⽣はまだ使ってくれません」「⾃分の学年では公⺠の授業しか使われません」などと⾔う⼦もいますが、授業で使うことよりも、まずは慣れてほしい。コンピューターそのものを⾃分の武器にしてほしい。そうやって⽣徒がこの分野を引っ張っていき、その間に教員も変わっていくだろうと期待しています。

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実際のドローン授業の様⼦

── コンピューターを使う教育について、⽇本という⼤きな枠組みで俯瞰すると、どのようにお考えですか。

 2020年度からすべての⼩学校においてプログラミング教育が必修化されますが、テクノロジーを使って⾝につけさせたい⼒というのは、結局は論理的思考能⼒や創造性だと思うのです。そこで問題になるのは、教えられる先⽣が⾮常に少ないということ。社会が求め、国がカリキュラムを変えようとしている時代に、学校が鎖国状態で、先⽣たちはテクノロジーから遠い“チョークの世界”で⽣きている。そのギャップを国がどのように埋めようとしているか、いまひとつ⾒えてきません。

 私が考える打開策は、教員免許の基準や教師の査定を⾒直すことに加え、60歳、65歳で⺠間企業を定年したコンピューターに詳しい⽅にコーディネーターとして学校に⼊ってもらうことです。教員は教科のプロフェッショナルですが、現状としてテクノロジーには弱いわけだから、そこだけ詳しい⼈に来てもらう。⺠間と学校がもっとまざりあって、未来に⽻ばたく⼦どもたちの環境をもっと整備していったらいいのではないかと思うのです。

 もうひとつ問題だなと思うのは、いまの教員の世界が減点主義であること。新しいことに挑戦した⼈の⽅が負けなんです。新しいことには失敗がつきものだから、減点を怖がってチャレンジしない。でも、失敗には必ず学びがあります。

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 例えば補助⾦をもらって新たな試みをしているフューチャースクールは、成功も失敗もチャレンジの数だけ蓄積されている。しかし、それは意欲のある⼀部の学校で偶発的に起きていることであって、⽇本という⼤きな⾯ではまだ「変わってきた」とまでは⾔えない。オセロの⾓を抑えて⼀気にひっくり返すくらいのパワーをもつには、公務員の普通の先⽣が変わらないといけないんです。そのために、減点主義を加点主義に変える。新しいことに挑戦するのは尊いことなんだという⾵⼟をつくっていくことが必要ではないでしょうか。

女子校の魅力は「自分が何者であるか」を発見できること。

── 多様性が叫ばれる時代、⼥⼦校や男⼦校が置かれている状況は厳しいと⾔われています。そこであえて成島校⻑が考える「⼥⼦校ならではの魅⼒」とはどういう点でしょうか。

成島 ⼤妻ではないのですが、私⾃⾝も⼥⼦校の出⾝なんです。実体験から⾔わせていただくと、⼥⼦だけで磨かれたり揉まれたりする数年間というのは、社会に出たときに⾮常に役⽴ちます。「⼥に厳しいのは⼥」と⾔うほどで(笑)、⼥性とうまく渡り合えたら、たいがいはうまくいく。⼤妻には約2,000⼈の⽣徒がいますから、いろんな性格や嗜好、考え⽅の“標本”が2,000通りあるのだと考えたらいい。「こういう⼈にはこう切り返せばいい」「こういう⾵に⾔ってあげると気持ちよく動いてくれる」というように、⼥性同⼠の良好な関係性を磨くチャンスがあることが、ひとつ魅⼒と⾔えるでしょう。

 また、中学⽣から⾼校⽣は思春期真っ只中ですから、⾒られると恥ずかしいと思うことがたくさんあります。共学校であれば「⽣徒会⻑に⽴候補なんてしたら、ガツガツしている⼥に思われるんじゃないか」と異性の⽬を気にしてしまう。でも⼤妻には⼥⼦しかいない。それで私は⽣徒に「ここにあなたの結婚相⼿はいない。ここは友達か、ライバルか、切磋琢磨の同志しかいない。⼀⽣お⾵呂に⼊る仲間しかいない」と⾔うんです(笑)。そうすると、⾃分をさらけ出せる。さらけ出すと、「⾃分が何者であるか」がわかるようになる。

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 例えば、⾃分は何が得意で何が不得意なのか、⼈を前から引っ張っていく素養があるのか側⾯や後⽅からサポートするのが向いているのかわかる。好きなことは「挑戦したい」と⾔えるようになるし、失敗ゆえの気付きもある。やはり学校というのは、挑戦できる場所であり、失敗もできる場所としてありたい。失敗をどのように克服するのか、⾃分の限界はどこかを⼀⼈ひとりがそれぞれに学んで欲しい。社会に出ると、お⾦をいただく側だから、失敗したら降格されたり⼲されたり、好きな仕事から外されたりします。だから「学校のようにお⾦を払って学ぶ時期に、できるだけ失敗しなさい。失敗して這い上がる経験が多いほど、この先有利ですよ」と⽣徒には伝えています。

── ⼤妻ではキャリア教育も熱⼼ですね。

成島 未来について考えさせたり、職業教育を話したりするキャリア教育の授業は、週に1回、中学3年⽣から⾏っています。また、これからは年に数回さまざまな職業のプロフェッショナルを招いて、講演もしてもらっています。それは中学1年⽣から参加可能で、親が同席してもいいんです。

 先⽇は、⽂系は映画プロデューサーの川村元気さん、理系は宇宙⾶⾏⼠の⾦井宣茂さんの講演を⾏いました。⼀流の⼈の話に刺激を受けるのでしょう、親御さんから「⼦どもの⾔うことが変わってきた」という声もいただいています。⼦どもはすごく感度がいいので、刺さる⾔葉を放つ⼈に会わせれば、⾃動的にスイッチが⼊って動き出す。さまざまな⽅が気軽に来られる場所に学校があるのは恵まれていると⾔わざるを得ません。

── やはり地の利は⼤きいですね。

成島 これから⼤事だと思います。なぜなら学校はこれから社会に開いていかないといけないから。2020年度に実施される⼤学⼊学共通テストで、英語は「聞く(Listening)」「読む(reading)」「話す(speaking)」「書く(writing)」という4技能評価が導⼊されます。それはつまり、グローバル社会の中で⾃分の考えを述べることができ、背景知識をもとに⾃ら問いを⽴てて課題解決できる能⼒のある⼈間を、⽇本の社会が必要としているからです。

  企業、そして社会はいま新⼈を数カ⽉研修したり、専⾨の研修所をつくったりする余裕がないので、ある程度⼤学で仕上がっている⼈材を求めます。⼤学で仕上げるためには、それなりの⼒を中学・⾼校でつけておかねばならない。社会から求められているものを私たち教員が⾒据えて、「『学ぶ』と『働く』がつながる場所にいまいるんだ」ということを⽣徒たちに刷り込んであげなくてはいけない。だからこそ、学校はこれからもっと間⼝を広げて、社会で活躍している⼈の経験を話してもらう機会をもっとつくるべきなんです。「学校は教員と⽣徒の聖地」などと⾔っていてはダメ(笑)。⼤妻ではそのような蓋をこじ開けて、社会の⾵を⼊れたいなと思っています。

── お話を聞いていると、⾵通しがいい学校だなとすごく感じます。

成島 やはり⼀流の⼈の話は本当にすごいですね。先ほど川村元気さんの講演があったと申しましたが、⾼3の⽣徒が質問したんです。「私は映画が好きで、将来は映画業界で働きたいと思っているのですが、NetfixやAmazonプライムなどさまざまな映像サービスがただ同然で⾒られる時代、映画業界はこれから斜陽ではないでしょうか︖」と。

 すると川村さんが「映像と映画は違う」と答えた。「あなたが⾔っているのは映像だ。ポップコーンの匂いとチキンの匂い、前に座っている⼈の髪の⽑も含めて、映画なんだ」と。加えて「本当に映画で⾷べていきたければ、制服以外は私服1着にして、お⼩遣いを映画館につぎ込み、ありとあらゆる映画を⾒て、貧乏になりなさい。それくらい飢えたときに、お⾦を払う価値のある映画なのか、そうでないのかわかるようになる」というアドバイスをされたんです。無料で観たりTUTAYAでDVDを借りたりしていたら、本当の映画製作はできないんだと。

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 そして、親に対しては「⼦どもにアルバイトをさせてはいけない」とおっしゃった。⼤学の間しか何かを充電できる時間はない。その間に映画を観るとか、アフリカを知るとか、いろんな経験をさせてあげてほしいと。講演後の親御さんのアンケートには「アルバイトで⼤学の学費を稼がせようと思っていた⾃分は間違いでした。死ぬほど働いて、⼦どもにはバイトさせません」と書いてありました。校⻑の私がそのように⾔ったら批判されるでしょうが、その道のプロフェッショナルが⽣徒の問いに答えるかたちでさらりと⾔うと、親御さんも納得してくれるんです。

── キャリア教育的には、⼤妻⼥⼦⼤学への内部進学より、もっと外の⼤学を⽬指すことを⽣徒に推進していくお考えだとか。

成島 ええ、⼤妻中学⾼等学校は進学校として、他校への受験をどんどん挑戦させたいと考えています。⽣徒全員がセンター試験を受験し、⻑く社会にコミットできる⼈材になるための学部や職業につながる学科を⽬指してもらいたい。実際に理系は、医科、⻭科、看護、獣医、薬学を⾜すと80⼈の⾼等専⾨職が出ており、⼤妻⼥⼦⼤学にはない専⾨分野にも積極的に取り組んで欲しい。挑戦者を幅広く世の中に輩出する中学・⾼校になっていけば、⾃然とブランドも上がっていくのではないかと考えています。

  ⼥⼦校はこれから厳しいという話がありましたが、私たちは「⼥⼦校“なのに”」にしたいんです。「なのにビジネス」が強いと私は思う。例えば、Net ixは世界⼀の映画事業なのに映画館がひとつもない。Uberも配⾞サービス会社なのに、⾞は1台ももっていない。同じように、⼥⼦校なのに、強烈にバンカラなことをさせるとか、他の⼥⼦校が仕掛けないこと、未来に活きそうなことを探してやらせたいなと思うんです。……まあ、たくましい⼈を育てるための養成学校みたいになっていくのではないでしょうか(笑)。⼤切にお守りしながら⼤学まで上げていくという昔の付属⼥⼦校のイメージとは、ずいぶん違うと思いますね。

── ⼊学したいと思う⼦どものタイプも変わってくるでしょうね。

成島 今年の中学1年⽣はとてもたくましいです。授業を⾒に⾏っても「先⽣わかりません」とはっきりと⼿を挙げる⼦が多いし、⽣徒指導で時間をとられることがまずない。

 受験する⼦どもの親御さんのアンケートでは、⼤妻のイメージが変わってしまったことを嘆く声も正直読み取れます。「⼤妻⼥⼦⼤学の附属校ではないのですね」「すごく強い⽣徒を求めていらっしゃるので、うちの⼦ではないと感じました」という意⾒もありました。でも、それはいいと。どんな⽣徒を募集しているのかはっきりと伝えないと、⼊学後にお互い不幸になる。6年も⼀緒に過ごすってちょっとした結婚⽣活みたいなものだから(笑)、本当に好きになってくれる⼦だけが⼊ってくれたらいいかなと思っています。

── では、ここから巣⽴っていく⼦どもたちの未来に対してはどのようにお考えですか。

成島 前述したような「2050年の⽇本と世界」などはデータで予測できますが、本当にどうなっていくかは誰にも⾔えないと思うんです。ただ、校訓である「恥を知れ」というのはいまも校章の裏に刻まれていて、これは⾃分にめがけての⾔葉なんですね。変化が激しく、予測不可能な社会や時代を渡っていかねばならない⾃分を常に律して⾼めていくのに、とても包括的で役に⽴つ⾔葉だと思います。

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⼤妻中学⾼等学校の校訓「恥を知れ」。もともとは、四国⼟佐の郷⼠であった⼤妻家の家訓であり、コタカは「これは決して他⼈に⾔うことではなく、あくまでも⾃分に対して⾔うことです。⼈に⾒られたり、聞かれたりしたときに恥ずかしいようなことをしてはいないかと、⾃分を戒めることなのです」と語っている。

 例えば、プログラミングは30年後には必要がないかもしれないけれど、「関⼼ありません」と引きこもらずに、挑んで学ぶ。それが「恥を知れ」という⾔葉のもつ意味だと思うんです。つまり「変化し続ける、学び続ける⼈であれ」と……。そういう精神を徹底的に⾝につければ、どのような変化にも耐えうる⼈間になれる。これからも100年続いた校訓を信じています。

── 最後に、未来を担う⼦どもたちの親御さんへ、メッセージをお願いします。

成島 ⼦どもを信じてください。親御さんたちも経験したことがないことを、これから⼦どもたちはやらなくてはいけない。「えっ︖」と驚くような失敗をいろいろしてしまうかもしれない。でも、どうか⾒守ってあげてほしいです。

 コンピューターの使⽤も同じです。変な⼈や悪い世界と繋がってしまうのではないかと⼼配したらキリがない。インターネットの世界と⼀⽣離れて暮らすことはできない時代なのだから、逆に家庭でルールを設けて、使い⽅を⼀緒に決めたり学んだりしてほしい。いつか⼦どもは社会という荒波に放流しなければいけません。安全な池の中にいつまでも⼊れておけない。そういう意味では、躓ずかせたり転ばせたり、親⼦で喧々諤々しながらいろんなことを経験してほしいなと思います。失敗させるのも愛情のうちですよ。

情報化・ICTコーディネーター 加藤悦雄先⽣先⽣インタビュー

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 2018年9⽉1⽇より、中学1年⽣から⾼校1年⽣までの4学年、約1,200⼈の⽣徒にタブレットをひとり⼀台もたせました。これは親御さんの理解を得たうえで、親御さんに費⽤を出していただいています。セキュリティは、学校内では⼩学⽣レベルの厳しいフィルタリングをかけていますが、帰宅後の使⽤に関してはご家庭でルールをしっかりと決めていただいています。ちなみに家庭でのインターネット接続率は99.7%です。

 学校内の施設としては、各教室すべてに⾼性能のプロジェクターが⼊っており、無線ルーターのアクセスポイントは9階から地下1階までの校舎内に129カ所あります。⾼校2年⽣と3年⽣には、今年の8⽉にコンピューター室をリニューアルしたので、その際に貸出⽤ノートパソコンを50台そろえました。

 タブレット⾃体は保存容量が64ギガしかないので、すべてのデータはGoogle for Educationというクラウドに上げ、個⼈アカウントでアクセスできるようになっています。例えば、授業で使⽤する写真や図版などはこれまでプリントアウトして⽣徒に渡していたけれど、予算の都合上、カラーでは渡せなかった。タブレットを使⽤すれば、⾃分の画⾯でカラーで⾒られます。紙で提出していた宿題をタブレットで出すということも増えており、しかも筆記のみならず、英語の宿題はスピーチを録⾳して提出するということも⾏われています。予算の削減ができ、紙ムダがなく、⽣徒にとってみればプリントをなくさないで済む(笑)。いいことづくめですよ。ただし、プログラミングもそうですが、必ずしもタブレットの使⽤を全員が得意とするわけではない。シャーペンとノートで勉強したほうがいい⼦もいるので、そこは無理やりやらせないようにしています。

 教師に対しては2週間に1回、「ティーチャーズナイト」と称して、私が16時から30分の研修を2コマ実施しています。本校の専任教師は85⼈ですが、初回から20⼈の先⽣が来て、タブレットへの配信の仕⽅やプロジェクターに映像を流す⽅法などを熱⼼に学びました。放課後に私のいるコンピュータラボにやってきて、翌⽇の授業のやり⽅を相談される先⽣も多くなってきました。そういう先⽣は、いままで蓄積されたネタをいっぱいもたれているので先⽣が、テクノロジーを使いながら新しい授業を構築しようとする姿は実に頼もしいです。

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 トラブルに関しては、Googleハングアウトという連絡網を作成して対応しています。オンラインでつながっているので、「授業でWi-Fiが⽴ち上がらない」というメッセージが来たら、すぐに対応策を私が返信します。他の教師も⼀連のやり取りを⾒られるので、ひとつの症状が繰り返して起きた場合は、対応⽅法がすぐに全教職員にわかるという仕組みです。

 2020年度の⼤学⼊試では、学⼒だけでなく、⾼校の部活動や⾏事でどういった活動を⾏ったか、そこから何を学んだのかを評価する可能性が広がります。部活や学校外の活動成果など、⾼校⽣活のさまざまな活動の記録をデジタル化できる「eポートフォリオ」としても、このタブレットを⼤いに活⽤してほしいと考えています。

用語解説

2050年問題

⼈⼝減少、少⼦⾼齢化、労働⼒の減少、社会保障費の増⼤、インフラの⽼朽化など、2050年の⽇本と世界で予想される諸問題。

N⾼

N⾼等学校の略称で、沖縄県に所在するネットを通じた通信制の私⽴⾼等学校。授業やレポート提出をネット上で⾏い、プログラミングやゲームなどの課外授業や全国各地での職業体験を通して社会で役⽴つスキルをプロの指導のもと⾝につけられる。

フューチャースクール

総務省が2010年度より推進する、ICTツールを利活⽤した先進的な学習を⾏う学校教育のこと。

(取材・⽂:堀 ⾹織 撮影:⼭本マオ)

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