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2019.04.05

NewsPicks Brand Design

【メガトレンド】ヒトとロボットが協働する「コモン・グラウンド」をどうデザインするか

次世代都市の描き方

 HPが考えるグローバルなメガトレンドの一つに、「急速な都市化」がある。
 日本では少子化が進むなか、東京の人口は増え続けている。これと同じような傾向は、世界的にも顕著で、2050年までには全世界人口の7割にあたる50億人が都市に住み、人口1000万人以上のメガシティは41に増えると予測されている。
 その時代に、東京のような巨大都市はどんな形に変貌しているのだろうか。
 アルゴリズムやデジタル技術を建築デザインに応用するコンピューテーショナル・デザインの第一人者・豊田啓介氏がカギになると話すのは、リアルな物理空間と、デジタルの情報が重層的に存在する「コモン・グラウンド(共有基盤)」だ。その新しいプラットフォームが立ち上がろうとしている背景と、これからの展望について話を聞いた。

INTERVIEW

建築を、デジタルテクノロジーで再定義する

── 豊田さんがコンピューテーショナル・デザインを手がけるようになったきっかけは?

 僕がコロンビア大学にいた頃、新しいデジタル技術を使ったペーパーレススタジオがあったんです。当時はまだコンピューテーショナル・デザインという言葉はなかったけれど、「(図面を)紙に描くな、コンピューターの中で完結させろ」みたいな実験的なことをやっていました。
 建築物の形は材料や工法に規定されていますが、コンピューターやデジタル技術を使えば、もっと自由に関係性を記述できるようになります。それによって、最終形の美しさや機能でしか評価できなかった建築に、「ロジック自体の美しさ」という価値が加わりました。
 形としての建築物に対して、それを生成するプロセスやアルゴリズムにも、都市や社会を根底から変えるような、メタな価値が認められるようになったんです。
 とはいえ、最初はやはり概念が先行していて、デジタルで表せても実際には建てられないデザインも多かった。それはある種のクリティシズムでもあったんですが、2000年代になると、デジタルファブリケーション(3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル加工機械による製造)などの技術の発展とともに、少しずつリアルな建築と結びつくようになりました。
 そういったコンピューテーショナル・デザインを社会に実装する道を、日本やアジアで切り開いてみたくなった。それが、僕がパートナーたちと一緒にnoizという建築設計事務所を始めた理由です。

── コンピューターや新しいテクノロジーによって、実際の建築はどう変わったんですか。

 たとえばスマートマテリアルのように、微細な構造を分子レベルからデザインしたり、異素材を混ぜ合わせたときの挙動をデジタルでシミュレーションしたり。コンピューター技術によって、様々なことが実現しつつあります。
 ただ、根本的な形や構造という点では、20世紀の建築が鉄やガラスを取り入れてモダニズムを起こしたような、劇的な変化ではありません。

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 今、世の中で起こっているのは、情報とモノが接続され、建築デザインを含めた様々な関係性が再構築され始めたことによる、もっと本質的なパラダイムシフトです。

── 情報とモノが接続されることで、どんな価値が生まれると思いますか。

 少し歴史をおさらいしましょう。
 1990年代初頭に世界最先端の技術を持っていたのは日本のものづくり企業でしたが、その後、GoogleやYahoo! が出てきて、情報プラットフォーマーでなければグローバルな競争にはついていけなくなりました。
 それでも情報だけでは足りなかったので、2010年代になって情報プラットフォーマーでありながら、リアルなモノも扱えるAmazonが台頭してきました。ただ、彼らはまだ、商品として動かせるモノしか扱えません。
 新しい関係性を示してパラダイムシフトを起こしたのは、その次の世代。ITをホテルやオフィス、交通インフラなどの不動産と組み合わせたAirbnbやWeWork、Uberなどのビジネスです。彼らはシェアリングによって、人やモノを移動させるのではなく、関係性や機能を編集することを可能にしました。
 ただ、Uberは移動のあり方を変えたけれど、クルマのデザインを新しくしていないし、Airbnbも家のデザインを革新したわけではない。なぜできないかというと、彼らが扱っているのは都市のなかの情報にかかわる部分であり、情報化社会以前から建設業や製造業のメーカーが扱ってきたような、物理情報に関する情報や知見を扱ってはいないからです。

── そこで今必要とされているのが、モノを情報に変換する技術だ、と。

 そうです。そうなると、都市のなかにあるあらゆるモノの複合的な情報を扱えることが、次のプラットフォーマーの条件ということになります。
 彼らがつくるのは、人が認識する物理世界の上にデジタル情報を記述した、「都市のアバター」のようなもの。そのプラットフォームは情報だけで完結せず、都市や建築をはじめとするモノのデザインにも影響を及ぼしていくでしょう。

リアルとデジタルが重なる「コモン・グラウンド」

── 「都市のアバター」とは、デジタル化された都市のコピーみたいなものですか

 少し違います。というのも、いわゆる「デジタルツイン(物理世界をデジタル記述してサイバー空間に再現されたコピー)」よりも、もう少し踏み込んでいるからです。
 AIやロボット、自律走行マシンなどのデジタルエージェントに「現実世界」を認識させるための、センサーやアクチュエーター(デジタル信号を物理的な運動に変換する機械)なども取り込んだ、モノと情報の連動環境というイメージです。
 現実の街や建物の中をデジタルエージェントの視点で見ると、この三次元の物理空間は思いのほか彼らが認識しにくいようにできています。
 たとえばこの壁とクッションの境目や、置かれたモノを動かせるのか動かせないのかといった形ではない情報を、彼らはうまく認識できません。
 これがデジタルデータとして記述され、マッピングされた瞬間に初めて、彼らは身体性を持って、リアルな世界を認識できるようになるわけです。

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── なるほど。人と機械の共通認識を成り立たせるために、リアルでもデジタルでもある重層的な空間が必要になる。

 僕はそれを「コモン・グラウンド」と呼んでいます。
 デジタルエージェントには、自律的に移動するものから、建物にインストールされているAIまで色々あります。彼らがパフォーマンスを発揮しやすい環境を考えると、彼らが認識しやすいデジタルの情報で、あらかじめ物理世界を記述して提供するのが一番いいんです。
 そうすれば、カメラで捉えた映像を膨大なコンピューターリソースを割いて認識させるよりもよほど効率的に、少ないリソースで動き回れるようになります。
 高度な情報処理能力を持つAIでも、物理世界の認識能力はせいぜい生まれたての赤ちゃんと同程度。個々のエージェントにスパコン並みの処理能力を持たせ、人間と同じ方法で世界を認識させるのは非効率です。

── デジタルエージェントは、視覚や聴覚とは異なる方法で世界を認識するということですね。そのときに必要な情報とは?

 たとえばこのオフィスビルは新しいので、建設会社がBIM (Building Information Modeling)情報を持っているはずです。そこには建物の形態を表す3Dモデルのほか、素材や工法などの管理情報がデジタルデータとしてまとまっています。
 BIMはあくまで建設用の設計データなので、コモン・グラウンドとして使うにはスキャンデータなどと組み合わせて現実との差異を埋めなければなりません。建物の形態以外にも、どこにどんなセンサーやマーカーがあるのか、どこへ行けば充電やキャリブレーション(較正)を行えるのかといった付加情報も必要です。

 そうやって、現実の物理的な世界の上に、デジタルで記述された情報がぴったりと重なるプラットフォームが、コモン・グラウンドです。
 このように現実とデジタルがインタラクティブにつながるフィールドがないと、テクノロジー実装のボトルネックを解消できず、次の時代に行けない気がしています。

── コモン・グラウンドで動くデジタルエージェントには、どんなことができますか。

 そのプラットフォームが実現すると、何百、何千という数のサービサーが参入してくるでしょう。
 エージェントは電源を入れた瞬間に、彼らに必要な設定情報──マップやBIM、人の位置、ニーズがありそうな場所、移動経路ごとの混雑度などを把握して、自律的に走り回れるようになります。
 そうなると、オフィスからスマホで弁当を頼むと昼休みのラッシュアワーにかぶらないように弁当を買ってきてくれて、どの階の誰に、どういう順番で配れば最適かを計算したうえで届けてくれる。
 たとえば、現在の超高層ビルには、もっとも混雑する時間のために 30基というオーダーでエレベーターが必要だとします。でも、ロボット用のエレベーターが3基あれば、人用エレベーターが10基削減できるかもしれない。
 そうやってオフィスの床面積を増やせるとなれば、不動産業界には大革命ですよね。こんなケースが、いくらでも出てきます。

物理的な集中と、機能や体験の拡散

── テクノロジーやサービスによって物流などのリソースが最適化されれば、東京のキャパシティはまだ増えますよね。豊田さんはこれから先も都市への人口集中は進むと思いますか。

 キャパシティはまだあるとは思いますし、都市への人口集中もこのまま進むでしょう。ただ、今おっしゃった文脈での都市って、あくまで物理的なものですよね。
 ある地域への建物や交通インフラの集中があるとして、それがコモン・グラウンド化されるということは、都市的な機能や経験が、情報として拡散可能になるということです。
 都市が持っていた「情報の優位性」は、インターネットによってある程度分散されましたが、それと同じようなことが、もっと物理的な人やモノに紐づいたところにも起こっていく。

── たとえば?

 例としては、シェアオフィスがわかりやすいですよね。人事や経理などセキュリティ上固めた方がいい職種を除いて、オフィスを固定する必然性はどんどん減っています。営業職なら月に5日も本社に来れば十分で、あとはコンビニみたいなシェアオフィスが各地に点々とあればいい。

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 同じように教育や医療を流動化できれば、家族全員が1ヶ月ごとにあっちこっちを行き来するというライフスタイルだって可能になります。都会は便利だけど、本当は子供に自然を味わわせたいという人は多い。でも、物理的な制約があるからできていないだけですから。

── テレワークのようなことが、生活全般に広がっていくイメージですね。

 すでに国際会議では、二輪ロボットにカメラとディスプレイをつけたアバターが使われています。アバターを遠隔操作しながら会議を視聴して、質問して、登壇もできる。いろんな企業がそういうワークスタイルを前提に、技術開発を進めています。
 僕がすごくいい話だなと思ったのは、生まれてから寝たきりだった子がアバターをハックして学校へ行くようになった、と。すると、学校で友達と会話ができるし、授業にも出られるし、質問もできる。下手すれば鬼ごっこだってできるようになる。それによって、ずっと寝たきりで脳の発達も遅れていたのが、劇的に成長し始めたそうなんです。
 そんなふうにテレエクスペリエンス(遠隔体験)ができる環境づくりは人口動態やダイバーシティを考えてももう不可欠で、あらゆる分野に実装されないといけないし、イベントやエンタメみたいな分野からも導入が進んでいます。
 そうなったときに、物理的な場所が持つ意味や必然性は、ある程度解体されていく。スマートシティのデザインには、ビジネスが集積する都市型、居住地域としての郊外型、非日常を楽しむリゾート型、鉄道沿線などに形成される離散型など、いくつもの形が出てくるはずです。それらの間を自由に行き来できるネットワークが、都市圏としてのバリューになっていくと思います。

誰がコモン・グラウンドをつくるのか

── 物理的な世界と情報が重なり合って都市を変えていくということが、少しわかってきた気がします。豊田さんはこの先、誰がコモン・グラウンドをつくると思いますか。

 今一番近いのは、Googleがトロントで、あるいはアリババが広州でやっているようなスマートシティでしょうね。彼らには街を丸ごと買うくらいの資金力も、開発力もある。ただ、ネックとしては一企業に全情報を握られることに対する猜疑があります。
 一方、それに対するカウンターとして、バルセロナやコペンハーゲンなどヨーロッパの都市が、環境やエコなどのソーシャルグッドを目的としたスマートシティ開発を行っています。
 こちらはオープンで一企業が情報を寡占することがない代わりに、技術力や資金力がない。実現には時間がかかるし、新しい産業創出のインパクトではとてもGoogleに太刀打ちできません。

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 そう考えたときにちょっと面白いのが、日本の状況なんですよね。今の日本にはGoogleのような情報プラットフォーマーはいませんが、それぞれの分野でなら世界トップレベルの技術力と資金力が、かろうじて残っている。
 情報プラットフォーマーたちがモノを扱うノウハウの取得に躍起になっている今、たとえば建設業界が持っているBIMデータや、製造業が持っている物理データを領域横断的につなげられるなら、日本が次のプラットフォームで先行できる優位性は、アプローチさえ変えればまだ十分残っているんじゃないかなって。

── 企業が共創するのは理想的ですが、旗振り役はいるでしょうか。

 僕が可能性を感じているのは、2025年の大阪万博です。
 今、その会場計画にかかわっているんですけど、次の万博では会場での体験は半分に過ぎず、そこに重なるオフサイトでの体験、もしくは参加や貢献をどうデザインするかが重要になっています。まさに、コモン・グラウンドのようなリアルとデジタルが重なる世界を、どんな技術やシステムで構築するかを考えないといけない。
 この先のプラットフォームは開発実装にかかる投資の規模がどんどん大きくなっていて、このチャンスを逃すと万博のように都市を使える実証実験の場を日本企業が「買える」可能性はもうないかもしれません。
 でも、もしこれがうまくいけば、複数の企業が領域横断でつくりあげるプラットフォームの基盤ができます。官民が共同で立ち上げるので、そこに参加すればノウハウもデータも自由に使えるというオープンなコモン・グラウンドの足がかりができるんです。
 開発や試験実装のスパンを考えても、ちょうどいいタイミングなんですよね。企業同士で協業しようとすると色々動かしにくいこともあるけれど、「万博」という旗印があることでスムーズになることもたくさんあって。
 本当に、この日本型コモングラウンドパッケージを、次世代最大の輸出品にするくらい考えないといけない。情報のプラットフォーム化が当たり前になった今、モノや製造の知識とノウハウこそが一大鉱脈に化け始めています。これらをどう接続するかが、次のパラダイムへと移行するカギであることは間違いないですから。
(制作:NewsPicks Brand Design 編集・執筆:宇野浩志 撮影:後藤渉 デザイン:砂田優花)

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