2019.07.31

チームで協力して成し遂げるVRプロジェクト開発に挑戦
学生対抗バーチャルリアリティコンテストの連続受賞を狙うスーパー高校生たち
~立教池袋中学校・高等学校の数理研究部 夏合宿レポート~

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バーチャルリアリティ学会が主催する「学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」は、現在ではVRを中心に学生が企画制作したインタラクティブ作品の新規性や技術的チャレンジ、体験のインパクトを競うコンテストです。1993年から開催され、今年開催中の「IVRC 2019」は第27回を迎えています。

編集部では、高校生ながらユース部門(高校生,高等専門学校生,および大学2年生以下が対象)にて4度も受賞歴のある常連となっている、立教池袋中学校・高等学校の数理研究部の夏合宿を訪問。「IVRC 2019」においても書類審査を通過し、来たる2019年9月11日~9月13日に開催される予選大会に向け開発を進める二人の高校生に彼らのチャレンジをインタビューしました。

チャレンジングなテーマ〝マルチプレイVR〟で展開する「渡し舟体験」とは

編集部では、夏休みが始まったばかりのこの7月に数理研究部が山梨にて行なった夏合宿を訪問。5日間の合宿の3日目に合宿所を訪れると、大きなホールに数理研究部数十名が集まり、中学生は学年別、高校生は各人の研究テーマごとに別れて学習や研究をすすめていました。

img中学1年生は、数学検定の対策授業、ほかの中学生も数学の演習が中心の様子。数理研究部では、中学時代に徹底的に数学を叩き込みます。
img高校生は、各人がPCを操作しながら、ゲームや3DCG、ロボットなど、秋の文化祭の出展に向けて、各担当分野の開発/制作を行なっていました。

そして、「IVRC 2019」にて「渡し舟教習所始めました」というプロジェクトにて9月の予選を迎えるのが、高校1年生の向殿天晴さんと、林幸希さんです。お二人によると、「渡し舟教習所始めました」は、VR空間にある舟を2名で操縦する、マルチプレイVRのプロジェクトだといいます。

img向殿天晴(むかいどの てんせい)さん 高校1年生
林幸希(はやし こうき)さん 高校1年生

複数の人が別々の動作をしながら協力するというマルチプレイVRは、コンテストにおいて競争力があるテーマであると考え、このプロジェクトがスタートしました。はじめはスノーボードなどのアイデアもありましたが、「舵をきる」、「櫓を漕ぐ」という、二人が異なる役割を担当し、協力しながら共有の体験を得られるということで「渡し舟」が採用されました。

水面に浮かぶ舟の感覚を再現するために、ゴムボートの上に板を載せ、これをコントローラーとし、HP製のVR HMDを使用。板の底などにジャイロセンサーをつけ、舟の動作や乗り手の操作に関するセンシングを行います。

img取材当時、ゴムボートを使ったコントローラー部の試作が行われていました。ボートの上に板を乗せ、舟のデッキを再現する構想です。

ゴムボートや櫓からの入力値は全体をつかさどるコンピューター側に送られ、Unreal Engineによって構築されたVR空間に展開されます。そこでは空間や舟や竿、櫓の値などを管理し、二人の操縦者に伝えるデバイス側に展開されます。そしてVR用ヘッドセットを通じて、舟を操縦する二人にそれぞれの周辺状況が伝わるという仕組みとなっています。

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先輩たちが受賞してきて、我々が受け継いでいきたいと思い企画しました。工作からシステムまで、ほんとうに貴重な体験をさせていただいています。

imgAR/VR用のグラスなど、ウエアラブル端末に注目しています。さまざまな情報が瞬時に表示されるようなメガネが今すぐ欲しいです(向殿さん)

「今回の企画の特徴的な点は、二人で別々のことをして協力してできあがる体験を提供することです」と向殿さんは語ります。

水に浮かぶ舟を再現するため、当初はゴムボートの内側にボールをたくさん敷いてボールプールの状態にし、その上に板を乗せていました。しかし、IVRCの審査委員や先輩から「それだけでほんとうに水に浮かぶ状況を再現できるのか?」といった指摘を受けました。

向殿さんは「フェードバックを受けて、合宿中の昨日、ゴムボートの中ではなく、ゴムボートの縁の上、全体にかかるような板を置き、ボート自体の弾力を活かすアイデアが閃きました。板が大きくなったので、二人で乗れるという利点もあります」と説明しました。

コントローラーとしての舟の部分の造作の方針が決定したあとは、舟の動かし方や、舟が動くルートなどのシステム部分を優先して作っているといいます。

「もともと、IVRCで歴代の先輩たちが受賞してきて、次は高1の私たちが受け継ぐ番だと考え、企画しました。当初は林くんと二人で始めたのですが、合宿前に5~6人の先輩たちに相談しています。工作部分とUnreal Engineの開発協力です。各分野に本当に上手な人が集まっているので、必ずうまくいくと思っています」とコンテストに向けて手応え十分の向殿さん。

将来について質問すると「数理研究部での体験はほんとうに貴重なものだと思っています。この体験を社会に活かせるような仕事に就きたいと考えております。どちらかというと、ゲームやエンタメ系など、人を楽しませるものに携わりたいです」と語ってくれました。

センサーから得る情報や、プレイヤー間の同期など、開発が難しい部分もありますが、二人の人が互いに活躍して協力できる舞台をつくりあげたいです。

imgヘッドマウントディスプレイはもっと軽くなるといいですね。ケーブル類もシンプルになるといいと思います(林さん)

「舵取りをする人は、竿で川床をつついて方向を決めます。ここの動作の再現に、当初体重計などで使われる圧力センサーを使って検出しようとしていました。しかし、上手く押せなくて竿がすべってしまったりするため、MRのコントローラーを使うことにしました。後ろの人は、櫓を8の字に漕ぐことで推進力を得ます。これはジャイロセンサーを使って検出します」と林さんは技術要件について説明しました。

システム構築面では、Unreal Engineに強い先輩に最低限の部分を提供してもらい、さまざまな処理を肉付けしているといいます。「今は水中で船が動く処理を作っています。水面は地面よりも摩擦が少ないため、それを考慮した調整をします。また、プレイヤーとコントローラーを接続する部分や、2名の体験は、2台のクライアントで展開されるので、各種情報を集約するコンピューターとデバイス間で遅延を起こさないなどの同期が難しいです」と林さん。

選択したソフトウェアについて尋ねると「Unreal Engineを選んだ理由は、海外の普及が進んでいることと、BluePrint(ビジュアルスクリプティング言語)での開発がわかりやすいからです。3DモデリングにはBlenderブレンダーを使っています。Unreal Engine内で作るよりは綺麗にできるからです」と説明しました。

渡し舟体験の構想について聞くと「前後の人がそれぞれ活躍できる体験提供を目指しています。川を横切るだけなら、前の人は操作の必要がなくなるので、たとえば渓流のように、岩のような障害物を避けていくコースにしようと考えています」と構想を話しました。

将来についいては「ものを作るのが好きで、美術部にも所属して彫刻もやっています。進路は建築関係を考えています。見た目よりも機能面に優れたドイツ製品のデザインが好きです。機能性や利便性を重視したものを作っていきたいです」と打ち明けました。

フランスで海外の作品を見た先輩たちが、若い世代に新しいアイデアのバトンを渡しました

img数理研究部顧問 内田芳宏先生

数理研究部でのVRの取り組みについて内田先生に聞くと「6年続いています。ちょっとした伝統として引き継がれています。現在高校1年の彼らは、中学1年のころから、先輩がVRに取り組んできた姿を見て、自分たちにも引き継ぐ覚悟があったのだと思います」と切り出しました。

昨年の「IVRC 2018」で金賞を受賞した数理研究部の作品「ARCO ~Avoid of the Risks of Conflagration」は、2019年3月に開催されたヨーロッパ最大のバーチャルリアリティのコンテスト「LavalVirtual」においても展示、研究発表が行われました。

「今回のマルチプレイヤーというテーマは、今年フランスに行った生徒たちが見てきた作品に触発され、生まれたものです。フランスに行ってなかったらこの企画はなかったと思います。今年は、高校生チームでの書類審査通過が私たちだけということで、ユース部門の基準が厳しくなってきたことを感じていましたが、二人で協力するという企画の斬新性に高い評価を受けました」と内田先生は語ります。

最後に内田先生は「生徒が興味を持つ研究分野の環境を用意するのが私の役目です。VRに必要なヘッドマウントディスプレイなども、どんどん新しい製品が出て、古い機種だとソフトが対応しなくなります。学校にとってはたいへんですが、彼らの思いをなるべく実現していける環境をつくっていきたいです」と生徒の夢実現へのサポートについて話しました。

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IVRCの受賞をきっかけに世界を知り、新たなテーマに挑む立教池袋高校・数理研究部のみなさん……テクノロジーの可能性を信じ、活用し、未来を切り開いていく日本の若者たち。Tech&Device TVでは、「IVRC 2019」のレポートを引き続き行ってまいります。

第27回学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)
2019年9月11日~13日には、東京大学本郷キャンパス内にてユース部門の本線大会と一般部門の予選大会が行われ、11月には海外の招待チームも交えた決勝大会が予定されています。

HP Reverb Virtual Reality Headset - Pro Edition 製品詳細
2160×2160(片眼)の高解像度、最大 114 °の広範囲な視野角による鮮明なVR体験、約500グラムの軽さにより快適性が向上、トレーニング、デザイン・開発、医療などさまざまな分野での活用が期待できます。

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