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2019.09.30

経営とテクノロジー

後継者のいない中小企業が、解体せずに事業を続けるためには?
ナレッジネットワーク代表 森戸裕一さんインタビュー<前篇>

全国の企業や地方自治体それぞれに抱える問題をあぶり出し、主にICTやIoTなどの最新テクノロジーを導入支援することで新しい働き方を提案しているナレッジネットワーク(福岡)。代表の森戸裕一さんに、国が「働き方改革」を打ち出した意図や中小企業への浸透度、大都市と地方の差や直面する課題の違いなどをお尋ねしました。

「働き方改革」は、過去を踏襲しながら変えていく“改善”では、もはや焼け石に水

── 2018年7月、「働き方改革関連法」が公布され、今年の4月から段階的施行が始まりました。それ以前から裁量労働制や時短、朝方勤務、リモートワーク、クラウド型会議システム、職住分離などさまざまな試みを取り入れて成果をあげている企業が増えてきてはいますが、法律という国の号令が発布された背景をどのようにお考えですか。

森戸裕一(以下、森戸) 国が「働き方改革」を打ち出したというのは、いろんな側面があると思います。

 例えば従業員に焦点を当てると、自己実現のためのチャレンジできる環境を望む人もいれば、育児や介護の問題で悩む人もいます。終身雇用が崩壊の一途にあるいま、新卒から定年まで一社で働くのか、もしくはパラレルでいくつかの会社に所属しながら働くのか。そもそも1日8時間働く必要があるのかという問いも含め、多様な働き方が認められないと個人のワークライフバランスが実現できないという側面があります。

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 一方、企業側には、優秀な正社員を確保することが難しいという深刻な問題があげられます。今年4月、パーソル総合研究所と中央大学経済学部による共同研究で「2030年には644万人の人手が不足する」という結果が発表されましたが、企業側も雇用に対する考え方を自ら変革しなければいけない時期が到来している。国はそういう危機的状況を加味した上で、働き方を“改善”ではなく“改革”として呼びかけているのではないでしょうか。

 36協定もそうなのですが、いまの労働基準法は終戦直後につくられたものです。戦争で焼け野原となった日本が「これから人口は増える」と予測し、労働者確保・保護という観点で終身雇用や年功序列という仕組みをつくった。しかし、いま日本の生産人口はどんどん減り、製造業中心だった産業構造もサービス業中心に変わってきています。つまり、過去を踏襲しながら変えていく“改善”では、もはや焼け石に水で、「2030年に644万人の人手不足に陥る」という前提のもと、“改革”を推し進めなければならないのです。

 国のその意図を企業が間違えて理解してしまうと、単に「残業をなくそう」という話になってしまいます。残業をなくすためには業務プロセスを大きく改革しなければいけないのに、「個人個人が頑張って時短しよう」という話になる。そのような場合は、僭越ながら私のような外部のコンサルタントが介入して大鉈を振るわなければいけないと感じています。

経営という視点で見れば、若い起業家より中小企業の経営者の経験が有利

── 改革せねばならないと理解していても、変化に対する抵抗はつきもの。森戸さんは2002年から「ビジネス」と「人材育成」に「IT」を組み合わせるという切り口で主に中小企業や地方自治体の働き方改革を手助けしておられますが、企業側の意識をどのように目覚めさせるのでしょうか。

森戸 例えば製造業、建設業、小売などの中小企業の場合ですと、今後は産業自体が縮小するといわれているので、ビジネスモデルや業務プロセスを変革しなければ会社はすぐに潰れてしまいます。そこで私は「ご自分の息子さんも継がなかった事業を、誰が継ぎたいと思うのか?」という話をよくします。次に「後継者というのは本当に必要か?」という問いを投げかけ、「例えば、組合のようにいくつかの会社が合体し、それらをホールディングスのように面倒を見る後継者がひとりいればいいのではないか」と具体的な提案をするのです。「ただし、ホールディングスのガバメントを効かせるためには、IT化が必須です」と付け加えることも忘れずに。

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 私の理想は、従業員を数万人雇っている大手企業よりも、正社員は10数人しかいないけれど、業務委託やパートナー契約で残りのマンパワーを賄い、結果的にその大手企業よりも力を持つという形です。そもそも「中小企業」という呼び方自体、インターネットやITがなかった時代の名残り。中小企業か中堅かの区別は「雇用人数300人」が分岐点ですが、いまは「正規雇用は10人程度だが、クラウドソーシングなどで300人を集め、やっている事業は1,000人規模」というベンチャー企業がたくさんあります。「会社はたくさんの従業員を雇用してこそ、大きなことができる」というのは前時代の考え方ですし、従来の中小・中堅・大手企業という呼び方も限界が来ていると私は思うのです。

── ベンチャー企業の成功の具体例などを中小企業や地方自治体のトップに説明し、納得してもらうということですか。

森戸 そうですね。ベンチャー企業がうまくいく理由として、最近はベンチャーキャピタルからの投資が大きいです。彼らは短期間での事業の成長を促すために投資をするので、ベンチャー企業側も事業売却やIPO(新規公開株式)へと短期間で突き進んでいく。一方の中小企業はというと、銀行からの融資や補助金をもらっているところが多いのですが、補助金というのは事業承継型なんですよね。つまり、両者ともに「事業を大きくする」「世の中のためにサービスを広める」という目的は一緒ですが、得られた資金の使い方と成長のスピードがまったく違います。そこで、中小企業にベンチャー企業の実例を教え、「あなた方も少ない人数で世の中にインパクトを起こすベンチャー企業のようになれるはずだ。それにはまず補助金の使い方を見直してみようじゃないか」と説くわけです。

 経営という視点で見れば、大学在学中やサラリーマンをスピンアウトして起業した人たちより、中小企業の社長の方が経営経験は長くて有利なはずです。ただ、過去の成功体験にとらわれてなかなか変われない。もし、「自分の成功体験なんていまの世の中ではまったく役に立たない」と自覚できれば、変わることができます。

── 中小企業が解体せずに、新しく生まれ変われるということですか。

森戸 そうです。私はビジネスの業態を変えることで、第二創業を勧めています。建設業の人たちには「農業を始めませんか」、小売をやっていた方々には「ものづくり系にシフトしませんか」というように。市場を変えていただくのも有効な方法です。これまでどおり東京と組むのではなく、北海道や沖縄とかあえて地方と組んでやるとか。その際、交通費を使わないで済むようにテレビ会議システムの導入を提案すれば、連携による意識改革というのができます。10社に提案すれば、そのうちの2、3社は意識が変わりますね。

本格的にIoTや人工知能、RPAに取り組めば、伸び代が大きいのは地方都市

── 中小企業も都市部と地方では環境が大きく異なると思われます。地方の中小企業におけるビジネス課題はどこにあるのでしょうか?

森戸 日本にはいまふたつの国が存在しています。ひとつが「東京」、もうひとつが「東京以外」で、そのふたつは常識がまったく異なります。特に違うのは、「時間を買う」という感覚。東京は、それが大手だろうが中小だろうが、素人がプロジェクトに関わるのは時間の無駄だと思うから専門家を雇います。地方の場合は、時間がかかったとしても「自分たちでやったほうが安い」と考える。時間とお金の感覚がまったく違うのです。

 それに、東京はまるでひとつの国家のようです。東京近郊には人口約3,000万人が居住し、市場もあり、優秀な人材もおり、アウトソーシングも含めて東京近郊だけビジネスがすべて完結する。言ってしまえば、ITとかICT、IoTなどが導入されていなかったとしても、東京であれば経済は回るのではないでしょうか。

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逆に地方には人材も専門家も少ないわりに、市場は東京だったりして、戦えずに困っていたわけです。だからこそ、インターネットやテクノロジーを駆使することが必要なのです。東京に対してモノをインターネットで販売し、東京の専門家とつながり、人が採用できなくてもリモートワークで雇えばいい。そういう意味で今後の伸び代があるのは地方都市で、本格的にIoTや人工知能、RPAを使い始めたら、ものすごく変わると思います。

 逆に東京の課題は人が集まりすぎているということです。ITの発達により業務効率化が果たされても、狭いところにたくさんの人がぎゅうぎゅう詰めでいるという状況はまったく変わっていない。そうと気づいたクリエイターやベンチャー企業が「伸び代の分だけ、自分たちの変化するスピードが早くなる」と地方にどんどん進出し始めています。テストマーケティング的に福岡にやってきて事業を試す方々も非常に多いんですよ。彼らからは「街のサイズがちょうどいい」という言い方をよくされるのですが、あまりにも田舎に行きすぎるとマネジメントがわからなかったり、雇用すらできなかったり、インターネットの回線が遅いなど新たな課題が出てきますから、福岡あたりが「ちょうどいい」のです。

── 森戸さんご自身が2002年にナレッジネットワークを福岡で開業された理由も、その街のサイズ感でしょうか。

森戸 理由は主に4つあります。1つ目は、私が九州出身であること。次に、当時は講演数が年300回ほどあって、福岡は空港が近いので便利だったこと。3つ目は福岡に拠点を置きつつ、東京にも法人を3つもち、名古屋大学で授業も行い、アンテナショップ的に佐賀県の伊万里にも会社を設立と、全国4拠点でビジネス展開することで日本全体の動きが把握できること。地方の経営者たちに「東京一極集中を変えよう」「地方都市で何でもできる」と発言するからには、自社を地方に置いて実験する方が、やはり説得力が増しますからね。4つ目は、私は中小企業が上海やASEANに進出する手伝いもしているのですが、福岡にいた方がそれらの国にも行きやすいこと。同心円状で東京と福岡の間で円を書くと香港や上海が入るので、この円の中を自分のフィールドにしようと思ったわけです。

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 実際に、九州の中小企業の経営者は、東京とできるならアジアともできるという感覚で、海外ビジネスを展開しています。インターネットの影響で商圏がボーダレスになったときに、九州は地政学的に有利でした。中小企業であっても自分たちの心理的な障壁さえ越えれば、海外ビジネスなんて簡単に参入できるのです。しかも、昔は海外視察・展示会出品・パートナーを見つけて出店という3点セットが必須でしたが、インターネットを活用すれば、それらはまったく必要ない。ものすごく簡単な話なのです。

── 九州はアジアが近いとして、東京より北、北陸、東北、北海道で同じ話をされたときの反応はいかがですか。

森戸 お察しのとおり、以前は「それは九州の話で、ここらとは違いますよ」と言われて終わりでした。しかし、最近ではキーパーソンと呼ばれる自治体の方や地元のリーダーがSNSでつながれることで、「地域が違うし文化が違うからできない」という感覚が減ってきていると感じます。実際にオープンイノベーション的なイベントも増えている。土地柄は変わらないけれど、キーパーソンの心が折れなくなって、コミュニティチェンジがよい方向に進んでいる印象ですね。そういった地域や地方の成功例を直接見聞きできる関係性を築けたのも、やはりインターネットの効能だと思います。

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 そして、言葉はポジティブに使います。「できない」と言うのではなく「できる」と言い切ってしまうと、できてしまうものなんです。

 例えば、「世界でも未曾有の少子高齢化時代を迎えた日本」と言うとものすごくマイナスに聞こえてしまうから、逆転の発想で「高齢化先進国」と言い切ってみましょう。資源のない日本は、海外から資源を輸入し、加工・輸出して貿易を成り立たせた国ですから、高齢化対策をひとつの要素として捉えたサービスビジネスを、同じくこれから少子高齢化を迎える中国などに輸出すればいいわけです。長期的な視野と日本人の得意な加工・輸出を考えたときに、それがモノである必要はなく、コトを販売するということでいけば、進むべき道というのは自ずと見えてくるのではないでしょうか。

 日本人は変化を許容するのが苦手だというのはただの偏見で、過去には明治維新もありましたし、戦後の劇的な復興もありました。放っておけば2100年には江戸時代と同じ程度の人口に減ってしまうわけですから、勇気を奮い起こし、昭和や平成で培った宝のような経験値を活かしながら新しい道具を使って未来に進むべきでしょう。

<後篇>「不便」がビジネスに! 地方の可能性を考える を読む

プロフィール

もりとゆういち◎1967年生まれ。1990年に大手システム会社に入社して以来、システムエンジニア、セールスエンジニアの育成と企業内人材育成のコンサルティング事業に従事。2002年に独立し、ナレッジネットワークを福岡で起業。外資系企業を中心に営業戦略策定や人材育成計画、研修企画などのサービスを提供。企業経営者向けの情報化戦略、人材育成の講演などで群を抜く実績を持つ。2010年には全国47都道府県の自治体・公的団体の地域情報化支援、成長企業のICT導入支援を行うために一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会を設立。2013年にはネットショップの開設・運用スキルを持つ人材を育成する一般財団法人ネットショップ能力認定機構の理事・事務局長に就任。大学生のキャリア育成支援活動としては2003年よりNPO法人学生ネットワークWANを設立してベンチャー企業向けインターンシップなどをコーディネイト。

(取材・文:堀 香織  撮影:yOU(河崎⼣⼦))